会長、珠の如く現る(中庭・夕暮れ)
夕暮れの校舎裏、中庭のベンチ。 玲は、いつものように本郷と話していた。
薬のこと、心の揺れのこと—— 穏やかで、優しい時間……に、思えた。
——が、そのとき。
「アンタ……誰に気安く触ってんの?」
低く、腹に響くような声。
振り返るとそこに—— 首に水晶の大珠を巻き、タンクトップの上に般若心経の法被をはおったゆず会長が、 こちらを睨みつけていた。
その眼には、決して大学には似つかわしくない闘気のようなものが宿っている。
そう、まさしくあれだ!…豪鬼だ。
玲(思わず立ち上がり) 「ゆ、ゆず会長……?」
本郷(笑顔のまま) 「知り合い……なのかな?」
ゆず(無言で一歩前へ) ガチャンッ! ——数珠の珠どうしがぶつかり合い、澄んだ“ゴン音”が中庭に響く。
ゆず 「玲。あんたが誰を好きになっても、止める権利なんてうちにはない。 でもな、“気配”ってのは誤魔化せないんだよ」
玲の背筋に、冷たい風が通り抜ける。
ゆず(静かに、それでも真っ直ぐに) 「……なんか、嫌な感じがしたんだよ。 うぬの周りだけ、空気の粒が全部逆さまになってるみたいでさ」
玲はなにも言えなかった。
だけど、今、心の奥に小さく沈んでいた“不安”が、なぜか声をあげはじめていた。
本郷(優しく笑って) 「なんだか、お強そうな先輩ですね……」
ゆずは、本郷を一瞥して言った。
「あたしはね、玲の“護符”だから。忘れないで」
夕陽の中で、数珠の珠が虹色に輝いた。




