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接触(図書資料室・昼)

古びた蛍光灯の下、玲は精神薬理に関する専門書をめくっていた。


ページの隅に震える手。ノイズの記述。作用機序の図解。


そのとき——


本郷が、静かに彼女の前を通り過ぎる。 何気ない通行。だが、玲の視線が彼の背中を捉えた。


「……あれ……どこかで……」


その“気配”は懐かしさとは少し違う。 けれど、どこか知っているような重さ。


玲「……あの、すみません……もしかして……どこかで会ってます?」


本郷(振り返って、少し笑う) 「……え? いや……ないと思うけど……?」


玲の目はまっすぐだった。 だが、その手には“精神医薬の副作用”に関する文庫本が握られていた。


本郷「あ……薬学、興味あるの? それ、けっこう専門的なやつだよね」


玲(苦笑気味に) 「興味というか……今、服用してるので……いろいろ知っておかないと不安で」


本郷(少しだけ声を柔らかくする) 「……そっか。無理しすぎてない? 何があったの?」


玲(ページの端をいじりながら) 「……母が……殺されたんです」 「それから……なんて言えばいいか……ある瞬間、  頭の中にノイズが走るような感覚があって……」


数秒間の沈黙。


本郷は頷きながら、それ以上深く追及しなかった。 玲は、話せて少しほっとしたように見えた。


彼の目に映ったのは、 ——“警戒も、怒りもない表情”。 ——“むしろ、見つけてくれたことに安心したような声”。


玲は、自分が“あの日の目撃者”だとはまったく思っていない。 そして本郷は、 「この距離感なら、監視と接近の両立が可能だ」と確信する。


彼は静かに提案した。


本郷「またこの本、返すときにでも会ったら、ちょっと話そっか」


玲(ほんの少し微笑む) 「……うん。なんか、話しやすい感じがしたから」


※このあと何度か偶然を装い再会した2人は、 玲の中にいつしか“落ち着ける時間”を形成するようになる。


そして——その安堵こそが、記録の裏側への扉を開いてしまうことになる。



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