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最後ノ記録(ラスト・メモリー)

(室内は薄暗く、スペアナのスクリーンだけがぼんやりと輝く。玲は机に突っ伏している。芹沢は様子を伺いつつ、背後で静かに機器を片付けている)


玲(沈んだ声で) ……あの瞬間だけ、どうしても見つからない…… お母さんの“最後”……一番残っていてほしかった記録が……どこにも、無い……


(芹沢、視線で教授に合図を送る。湯川、ゆっくりと歩み寄って椅子を引く)


湯川(静かに、背もたれに腕を掛けながら) ……響君。


“ラストメモリー”という言葉を、君は知ってるかい?


玲(顔を上げずに) ……訳すと最後の記録ですか?……それが、何?


湯川(少し微笑んで) 本来はな、半導体の世界の用語なんだ。 電源を落とした後、普通なら記録は全部消える。だけど—— “ある種のデバイス”は、最後に残った記録だけは保持し続ける。 どんなに再起動されても、初期化されても、消えずに残る“最終波形”。それを—— “ラストメモリー”と呼ぶ。


(玲、顔を少しだけこちらに向ける。光が頬を照らす)


玲 ……最終波形……


湯川(そっと机に指を置く) 今はその記録が、どこにあるのか見えない。 けどな……絶対に消えはしないんだよ。 あの瞬間の強さ、思いの密度、君の中に刻まれてる波長…… それが、きっと、どこかにある“記録”の共鳴場と呼応する時が来る。


芹沢(作業しながらボソリと) 電源を落としても残ってた……ってことは、 そもそも“ただの情報”じゃなかったってこと、ですよね……


湯川(頷く) そうだ。“ラストメモリー”は、記録の外側にある。 ……もはや“記録されようとした意志”そのものかもしれん。


(玲の目がゆっくりとスクリーンの波形に向かう。スペアナには、誰のものとも分からない微弱な振幅が刻まれ始めていた)


玲(小さく) じゃあ……いつか私も…… “お母さんの記録”と、繋がれるかな……


湯川(立ち上がり、背後のスクリーンを見つめて) ああ。君が観測を続ける限り、記録は応える。 それはいつだって、“最後に残る想い”なのだから。

(カットアウト。波形だけが、静かに輝き続ける)



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