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ノイズ増幅(服薬開始から1週間)
朝の光が歩道にまっすぐ差し込む。
玲は、久しぶりに心が軽い感覚を味わっていた。
薬を飲み始めて1週間。 極端な落ち込みは減り、食欲も少し戻りつつある。
今日はフォノンラボへ顔を出してみようと思えた。
スニーカーの音が、アスファルトに心地よく響く。 駅までの道。 そして、いつもの——楠並木。
「……」
——その瞬間だった。
ビィィ……——ィィィ……ッ!
まるで鼓膜の裏を誰かが撫でたような 異様な“ねじれた周波数”が突如、頭を満たした。
玲は眉をひそめ、足を止めた。 左耳を覆いながら、振り返る。
“これは……今までのノイズと違う”
胸の奥で、何かが反射しているような感覚。
まるで記憶ではなく——他人の“感情”が直接差し込んでくるような質感。
玲は深呼吸し、再び前を向いた。 足が自然と駅に向かう。
でもその間、ノイズは薄まるどころか——逆に増していた。
——薬、飲んでるよね? なのに、なんで……。
「あれ……この感覚、薬のせい……? それとも……」
どちらかわからない。
けれど“治る”とはこういうことではないはずだ、という直感が 今、初めて玲の中ではっきりと目を覚ました。
駅の改札の手前で、玲はふと立ち止まる。
後ろを振り返っても、並木道はただ静かにそこに在った。
何も変わっていないはずなのに、すべてが異なる。




