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通学再開(翠殺害から14日後)
朝の風は、まだ少し肌寒い。
白い息を吐きながら、玲は久しぶりに駅へと向かっていた。
二週間ぶりの外出。
大学の講義に“顔だけでも出そう”と思えたのは、 なんとなく、母の写真立ての前でそう囁かれた気がしたからだった。
道沿いには、いつもの楠並木が続いていた。
コツ……コツ…… 靴音が並木道に吸い込まれる。
見上げると、どの木も同じに見える—— はずだった。
——その時、
「……ザ……」
ほんの一瞬、 イヤホンの奥に雑音が走ったような感覚。 玲は、思わず立ち止まった。
「……いま、なんか……」
目を閉じて、耳を澄ます。
風の音。鳥の声。通り過ぎる車の低いエンジン音。
——だけど、あの“ノイズ”は、もう聞こえなかった。
玲は小さく首を振ると、歩き出した。 なにか、夢を見ていたみたいに。
結局、その日も、記録は沈黙を貫いた。
でも確かに、あの木の下だけは—— ほんのわずかに、空気がきしむような“違和感”が残っていた。




