突然の母との別れ
——突然、目の前が真っ暗になった。 耳鳴り。冷たい空気。消毒液の匂い。
気づいたとき、玲は病院の霊安室にいた。
蛍光灯の下、白布に覆われた台の上に、 母・響 翠は静かに横たわっていた。
玲は一歩、また一歩と近づく。 足音がまるで誰かの心拍みたいに響いていた。
白布をめくる瞬間、 胸の中で何かが——氷のように砕けた。
「……お母さん」
声にならない声が、喉の奥で震えた。 翠の顔は、眠っているように穏やかだった。
ただ、その首元には、 くっきりと紫色の痕が、痣のように刻まれていた。
「やめて……起きてよ……ママ……」
玲は両手で口を覆い、声を殺して泣いた。 堰を切ったように、涙が溢れた。
それは悲しみだけではない—— 「聞こえるものを見失っていく怖さ」だった。
玲の涙が止まらないまま、背後から低い声が聞こえた。
「……響翠さんの件、司法解剖の結果が出ました」
警察官は手元のファイルをめくりながら、淡々と告げる。
「遺体は——ご自宅近くの公園内にて、 本日午前5時15分、清掃員の方が発見しました」
玲の目が一瞬にして見開かれる。
「……公園……?」
「ええ。遊具裏の斜面に倒れていたそうです。
夜間は人気の少ない場所ですが、防犯カメラには写っていませんでした。
死因は外因性の窒息死。首元に圧痕、典型的な手による絞殺痕が確認されました」
玲はかすかに息を飲んだ。 ——まさか、あんなに近くで……。
警察官がファイルを閉じる音が、やけに大きく響いた。
「手には、なぜか土の付着が異様に濃く残っていたのですが、現場の地質とは明らかに異なるものだったとのことです。 何か“掴んでいた”形跡のように見える、と……」
玲の意識の底に、静かに違和感が沈んでいった。
「掴んでいた」——何を? この場所で、そんな“何か”が残るほどの出来事があったのだろうか……。




