お姫様、攫われる
さあいよいよクライマックス!?
その翌日の放課後、私とリュウジは再び例の神社に行くことにしました。
アキはついてきません。家でゲームがしたいということでした。
「薄情者かよ」
とリュウジは罵りましたが、「昨日リュウちゃんが散々やったんだから今日は私がやりたいのー!」とのことでした。
「といっても、他に探す場所もないし、やっぱりあの神社でケモ耳の子になにか聞いた方がいいだろう。〝死神〟のこともあるし、俺の小遣いのこともあるし!」
「まだ気にしてたんですか……?」
「あのなぁ、俺の金がなくなったのはお姫様のせいだからな!」
「でもそのおかげで地縛霊さんの助力が得られましたけど…」
「確かに、このヘアゴムの効力は本物みたいだったがな…」
と、リュウジは私の髪を束ねているヘアゴムを指さしながらいいました。
そんな感じで学校から神社までの長い道のりを歩いていると…
突然目の前に、ドサッ!となにか大きな黒い物が降ってきました。
「ひぃっ!?」
「な、なんだぁぁ!?」
しかもその物はどうやら物ではなく人のようで、落ちた時に捻ったのでしょうか、足を押さえながら
「いったぁぁぁぁいっ!!」
と叫びました。というか私はこの人影に見覚えがありました。
「……カスミですか?」
「知り合いかよ…」
怪訝な表情のリュウジ。できれば関わりたくないといった様子です。
「……いたたたっ、アイリ姫様……お逃げください!ここは私が食い止めま」
「カスミぃぃぃぃっ!!」
「ぶわっ!?」
私はよろよろとなんとか立ち上がったお馴染みの忍装束のカスミに抱きつきました。
もしかしたら一生会えないと思っていた相手との再会でつい我を忘れてしまっていたようです。
「……このドジっ子、お姫様の知り合い?」
と再びリュウジが尋ねました。
「はっ、そこの怪しい男!アイリ姫様は返してもらうっすよ!」
「はぁ?お前の方が100倍怪しくない?」
カスミがリュウジを睨みつけながら言ったので、リュウジは気の抜けたような返事をしました。
「いや、引き取ってくれるならどうぞどうぞ」
「えっ…?」
今度はカスミが間抜けな返事をします。
「カスミ、このリュウジさんは私を助けてエルブラン公国に帰るための手助けをしてくれているのですよ」
「そ、そうなんすか!?こ、これは失礼しました!」
「あ、いや別にいいんだけど……じゃあカスミさんだっけ?お姫様を連れて帰ってくれるんだな?」
「はいっ!お世話になったっす!さあ、アイリ姫様、帰るっすよ!」
「は、はい……リュウジさん、今まで本当にお世話になりました。アキさんにもよろしくお伝えください。……このお礼はいつか…」
私はリュウジに頭を下げます。この数日間、リュウジとアキには本当にお世話になりましたし、たくさんご迷惑をおかけしました。このように突然のお別れにはなりましたが、無事にエルブラン公国に帰……帰っ……どうやって帰るのでしょう?
「ちょっと待ってくださいカスミ……どうやって帰るんですか!?」
「えっ、それはもちろんアイリ姫様のシャインゲートを使って……」
……はぁ、やっぱり
「……使えたらもうとっくに帰ってますよ……?」
「……あっ、それもそうっすねあははっ」
「なんでやねんっ!」
私は笑うカスミの頭を思いっきり叩きました。
「い、いったぁ……アイリ姫様、怪我人に対してこの仕打ちは酷っすよ…」
「はぁ…?帰れると期待を持たせておいてこの仕打ちのほうが酷ですよ?」
「何やってんだよ、結局帰れないのか……」
呆れ顔のリュウジ。すみません、もう少しお世話になることになりそうです…
「うーん、確かに風属性魔法で着地決めようとしたら発動しなくて怪我しちゃったところで、この世界では基本的に魔法が使えないってことを察するべきでしたね…」
カスミは神妙な表情で呟きました。そこは、異世界に転移した後にすぐに戻って来なかったことから察して欲しいです。なにか魔法が使えない理由があるんだって…
「……こいつアホなの?」
「……ちょっとだけ」
リュウジと私はヒソヒソ声で会話します。しかし
「聴こえてるっすよー!?」
と地獄耳のカスミ。さすがシノビです。
するとカスミはなにかを思い出したような表情でポンッと手を叩きました。
「あ、そうそう、アイリ姫様を見つけるまでの間に、マイズナー帝国の兵士をたくさん見かけたっすよ。どうやらこの世界にアイリ姫様を探しにやって来ていたみたいっすね。そろそろここに来るので逃げた方が……」
「……!?」
その時、ガシャンガシャンと懐かしい鎧のなる音がして、私達の背後から10人ほどの兵士が現れました。……そして前からも……完全に囲まれてしまいました。
「それをもっと早く言えよぉぉぉぉ!!!」
リュウジが絶叫します。
「だって、アイリ姫様と合流できたらそのまま帰れると思ってたしぃぃぃぃっ!!」
「だからお前はアホなのだぁぁぁっ!!!」
「叫んでる場合ですかぁぁぁっ!!!」
カスミとリュウジ、私は口々に叫びましたが、叫んだところでなにか変わるはずもなく…
「アイリ・エルブラン姫だな…?」
と、兵士の1人が剣を抜いてこちらに向けながら私に尋ねます。
「……どうします?いつもならアイリ姫様だけでも抱えて逃げ切る自信ありますけど、今は無理っすよ?」
「魔法使えないからな」
「いえ、足を痛めているからっす」
「そっち!?」
カスミとリュウジが背中に私を庇いながら小声で話しています。
特に策のなさそうな2人に無駄な危害が加えられないうちにさっさと名乗り出るのが得策でしょうか。
「いかにも、私がアイリ・エルブランですが?」
「漆黒騎士様がお待ちだ。我々と来てもらおうか」
「嫌だと言ったら…?」
私は震える足を押さえながら、努めて不敵に笑いました。
「怪我をすることになるかもな…?」
兵士も不敵に笑い返しました。
するとカスミは何やらリュウジに耳打ちすると前方の兵士の一団に向かってなにかを投げました。
パンッ!パンッ!
という音がして、瞬く間に前方に煙が広がります。
「クソッ!なんだこれは!?」
慌てる兵士たち。その先頭にいた、先程私に剣を向けていた兵士に向かってカスミが走ります。どこからともなく小刀を取り出すと
「エイヤッ!」
という掛け声とともに打ちかかりました。
「いまだっ!」
「ちょっ!?」
兵士たちの注意が逸れた瞬間に、リュウジは私の手を引くと走り出します。そのまま煙で混乱している前方に…
「手を握るのはだめだとあれほど!」
「んなこと言ってる場合かよ!」
後方を振り返ると、あっけに取られていた後方の兵士たちも我に返って私達を追いかけ始めました。私とリュウジは兵士たちの気を引くようにわざと大胆に戦っているカスミの横をすり抜けて走りました。すぐに後方から兵士たちが追いかけて来ましたが…
ブォォォッ!!
と炎の壁が私と兵士たちの間に立ち塞がりました。
「うぉぉぉっ!?なんだ!?」
「あ、あつっ!!」
たちまち浮き足立つ兵士たち。見ると、カスミがなんと口から炎を吐き出しながら戦っていたのです!あれどうやってやるのでしょうか!?シノビの技はほんとに不思議です!
「よそ見してないで走れよ!」
「は、はいっ!」
リュウジに急かされて私は走りました!といってもどこへ?とりあえず安全そうなのはあの神社ですが、そこまではまだ距離があります。
「とりあえずは不審者に襲われたって交番にでも行ってみるか」
「お任せします!」
コウバンとは何なのかわかりませんが、恐らく不審者という単語から推測して、治安を守る騎士団の駐屯地のような場所なのでしょう。
「……はぁはぁ」
あまり魔法を使わずに全速力で走ったことの無い私は情けないことにバテてきていました。
「頑張れもう少しだから!」
リュウジが励ましてくれます。ありがたいことです。
そして背後からは兵士たちが追ってきてる気配はありませんでした。カスミが上手く撹乱しているのでしょうか?
「……ちょっと待って!」
「!?」
人通りの多い大通りが見えてきたあたりでリュウジが突然立ち止まりました。何事でしょうか?
「……やつらがいる」
「やつら?」
「〝死神〟だよ!」
「なっ!?」
私にはよく見えませんでしたが、リュウジには人混みの中に彼らの姿を確認したのでしょう。この状況でグリムリーパーとやらに遭遇するのは非常にまずいです。
しかし2つの敵から逃げる余裕は…
「お姫様はここで待ってて。俺がやつらの気を引くから、そしたら走ってあの白い建物に逃げ込んで助けを求めるんだ。いい?」
「……はい」
リュウジと別れてしまうのは不安でしたが、他に道はなさそうでした。
私は頷くと、道端にある柱 (電信柱というらしいです。どうやら科学技術の結晶である〝電気〟という、マナとは違ったエネルギー源を伝達するものらしいです)の裏に身を隠しました。しかし、リュウジが大通りへ消えていき、私が走ってコウバンへ向かおうとしていると、突然背後から肩を叩かれました。
「……探したぞアイリ姫」
先程の兵士でした!私は慌てて大声を出して助けを求める……前に、ドスンッ!という衝撃が腹部を襲い、私は気を失ってしまったのでした。
お読みいただき、ありがとうございます!
はい、もうお察しの方多いと思いますが、カスミさんはドジっ子キャラです。
しかしやる時はやる子です。




