親衛隊長とコスプレイヤー
みんな大好きクリス回です。
クリスくんは純粋なので弄るのが楽しいですね……
「やったぁぁぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
暗い部屋の中で、寝台の上に座っていた女性とクリスは同時に叫び声を上げた。
なんだ!?転移に成功したと思ったら、いきなり女性の寝室なんて聞いていない!
「成功した!サモンゲートの魔法が成功したヨ!」
「サモンゲート…?」
その魔法は確か、特定のものを使用者のもとに呼び出すという、超上級魔法のはず……
クリスは薄暗さに慣れてきた目を凝らして目の前の女性を観察した。まず目を引いたのは頭の上に被っている黒い大きな帽子、対照的に露出度の高めの衣装。そして手に持った長い杖。なるほど、確かに魔法使いのようだ。しかも、綺麗な金髪だ。エルブラン公国にもこんな魔法使いがいるにはいる。
というか、アイリ姫にそっくり…?
「……姫……様?」
いや、そんなはずは無い。アイリ姫をそのまま成長させたらこうなると思う。背だって男のクリスと同じくらいあるし、他にもなんかもう、色々大きいし、腰のくびれとかも……うん。
「……あれっ、フブキ?」
女性もクリスの容姿に心当たりがあるらしく、そんなことを呟きながら(ていうかフブキって誰だよ?)寝台から立ち上がると、ゆっくりとこちらに近づいてきた。思わず後ずさるクリス。
「やっぱり!やっぱりフブキだよネ!?そうだよネ!?」
「……なぁっ!?」
女性は歓声を上げてクリスに抱きついてきた!女性の力は意外と強く、クリスは両腕をホールドされて逃げることも剣を抜くこともできない!大変だ!盛大な勘違い&よく分からないシチュエーションになってしまった!誰か助けてくれ!とクリスは天を仰いだ。その時
ドンドンドンッ!と何かを叩く音が近くから聴こえてきた。
クリスが慌ててそちらに意識を向けると、部屋の入り口と思しき扉を外から何者かが叩いているようだ。
「こらぁぁぁっ!!イチャイチャするなら他所でやれやぁぁぁっ!!」
と、別の女性の声が聴こえてきた。
「ゴメンナサァァァイ!!」
と、クリスに抱きついていた女性が大声で叫び返す。
イチャイチャしてるということは否定はしないらしい。それはクリスとしては非常に困るのだが、口を挟めるような暇があったらこの拘束から逃れたい。
というか、さっきから思っていたが、この女性のイントネーションはエルブラン公国の言語とは若干異なっている。要するに訛っている。
西の大陸からやってきた異国人がよくこのような訛りで話すので、クリスにも聞き取れはするのだが。
扉の向こうにいた女性は、しばらく罵詈雑言を発していたが、これ以上クリスたちが騒がないということがわかると、立ち去ったようだ。
「……すみません、そろそろ離していただけると……」
「あっ、ゴメンネ!」
女性は大人しくクリスを解放した。
抱きつかれていた感じだと、女性は色々大きかったりくびれていたりするわりにはしっかりと筋肉がついており、体をよく鍛えているような感じだった。
アイリ姫なら間違いなくこんなに筋肉がついているわけがない……と感心している場合ではなく……
「突然やってきて申し訳ございません。あの、あなたは……?」
「私はヒカリだヨ?フブキ」
「……はぁ?」
「……ウーン、やっぱり似てない?結構頑張ったンだけどナ…」
女性はアハハと笑いながら言う。なんだ、笑い事じゃない。こっちは真剣にやっているのに…
「……それ、イセバケのフブキのコスプレだよネ?私はヒカリのコスプレしてたからびっくりしちゃったヨ!」
イセバケ、コスプレ、フブキ、ヒカリ……クリスにはよくわからない単語だらけだ。女性の容姿を見た瞬間は、もしかしたらエルブラン公国とあまり文化の違いのない異世界にやってきたのかもしれないと期待していたが、やはり異世界は異世界。クリスたちの知らない文化が溢れかえっているに違いない。
「アラ?違った?……もしかして別のキャラクターのコスプレなの?」
クリスの様子を見て女性は首を傾げる。
「……その、コスプレとは何なのかわかりませんが……私は異世界から自分の国の姫を探しに来たのです。どうやらこの世界にいるようで…」
クリスの言葉に女性は力強く頷いた。
「なるほど、そーいう『設定』なのネ?わかったワ、私も合わせるネ?」
「設定ではなく、ほんとに……」
「ウンわかった!わかったから!」
本当に分かってるんだろうなコイツ!?
クリスの不安をよそに、女性は右手を差し出して自己紹介をする。
「ワタシの名前は、エマ。エマ・バネットよ!コスプレイヤーをやってるワ。あなたのその使命、ワタシがお手伝いしまショウ!」
「僕の名前はクリス、クリストファー・アドラーです。よろしくお願いします」
とりあえずクリスはエマの手を握って応える。
エマはにっこり微笑むと、面白くなってきたワネー!などとのたまいながら、ポイポイと着ていた衣装を脱ぎ捨て始めた!
「あばばばば!」
慌てて回れ右をして壁とにらめっこをするクリス。
「なにしてるんですか!」
「なにって、お着替えダヨ?ヒカリちゃんの衣装のほうがよかった?」
「あ、あのね……」
前言撤回だ。この女性はアイリ姫とは似ても似つかない。いや、見た目はちょっとは、ほんのちょっとは似ているかもしれないが、性格がダメだ。お淑やかさの欠片もない。
やがて着替えが終わると、クリスは更に驚いた。
エマはスケスケのネグリジェ姿で寝台に座り、自分の隣をポンポンと叩いている。「こっちに来い」ということなのだろう。
「あばばばば!」
よし、もう構ってられない!ここにいては命が幾つあっても足りない!この世界の女性はみんなあんな感じなのだろうか!恐ろしい!エマはせっかくの協力者だが、仕方ない。1人でアイリ姫を探すことにしよう。そしてさっさと公国に帰ろう!
クリスは部屋から脱出を試みた。具体的には、先程外から叩かれていた扉が外への出口だと見当をつけていたので、その扉に突進し、蹴り破って外へ……
出れなかった。
扉まで一直線に走ってきたはずのクリスだったが、
「セイッ!」
というエマの声とともに、背後から綺麗に足払いをかけられ、顔面が床とこんにちはした。
「もう遅いから外はダメヨ?今日は大人しくおネンネシマショ?」
「……僕は床で寝ます」
「そう、ざんねーん……夜中、気をつけてネ?ワタシ寝相とっても悪いノ……フフフッ」
「あぁぁぁぁぁっ!?」
フフフッどころの騒ぎではない。冗談抜きで背筋が凍った。クリストファー・アドラー、史上最大のピンチである。しかしもう八方塞がり、他に選択肢はない。逃げようとすればまた無様に床に倒されてしまう。エルブラン公国最強の剣士と言われたクリスだったが、本気で戦ってもエマに勝てるかは微妙であった。数回の接触でそれは察していた。
おまけにこれからアイリ姫を探すのに、余計な力は使いたくないし、味方としてはエマはすごく心強い……多分。
クリスは……諦めた。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
あと10話ちょいで完結します。




