第三話 海へ行くなら、BBQは我慢できません!
家を買って、一週間。
あの炊飯器の日から、俺の家電熱は止まらなくなっていた。
新聞に挟まっているヤマモト電機のチラシがどれも魅力的すぎるのだ。
電子レンジ 八千円。
オーブントースター三千円。
ドラム式洗濯機、十四万八千円。
全部ペイに直すと、この町では卵一個にも満たない。
「安い。安すぎる」
電子レンジは魔力を通すと、チン、と軽快な音を立てた。
冷めた味噌汁も、これで温かい。
オーブントースターで食パンを焼く。外はサクッと、中はふわっと。
「文明って、すごい……」
洗濯機を置いて魔力を流してみると、ホースもつないでいないのにどこからともなく水が出てきてくるくる回りはじめた。
「……どこから水が出てるんだ?」
魔力なのか、なんなのか不思議だ。
だが、便利なので深くは考えないことにした。
掃除機。ドライヤー。電気ケトル。ホットプレート。エアコン。
どれも安い。どれも便利。
安い、安いと言いながら買っているうちに、気づけば大変なことになっていた。
「……百万ペイ、超えてるわ」
家電の購入金額がついに百万ペイの大台に乗っていた。
「いや、でも、まぁ、ネズミ二匹ぶんだしな。それに、この家電で毎日が快適になるなら……」
誰に言い訳しているのかは、よくわからない。
最後に、大画面のテレビも買った。
リビングに置いて魔力を通す。
画面が、ぱっと明るくなった。
信号がありません。
「…………」
チャンネルを変えても、何度かリモコンを押してみたが結果は同じだった。
「……そりゃ、映らないよな」
異世界に、テレビ局があるはずがない。当たり前だった。
立派なテレビは、黒い画面でリビングの隅に鎮座している。
「……いつか、何か映るかもしれないし」
そう言い聞かせて、俺はテレビの電源を切った。
炊飯器と生姜焼きにひと通りの家電。
おかげで、俺の生活はすっかり安定していた。
だが、スローライフを送るにしても多少は稼いでおきたい。
「コータさん、ちょうどいい依頼がありますよ」
ギルドの受付のお姉さんが一枚の依頼状を差し出してきた。
『海岸の魔獣討伐パーティの料理番募集 日当三十万ペイ 食材はパーティ持ち込み』
「料理番?」
「はい。ただ、今までに三人料理番が辞めているんですよ……」
「なんか不穏だなあ……」
三人も辞めるなんて普通じゃない。
仕事内容がきついのか。それとも報酬に問題があるのか。
「ちなみに、どうして辞めたんですか?」
俺が尋ねると受付のお姉さんは少し困ったように眉を下げた。
「一人目は、食事がまずいと言われて自信をなくしてしまって……」
「まあ、料理人ならそういうこともありますよねぇ」
「二人目は、毎日同じ干し肉と硬いパンばかり出すことに耐えられなくなったそうです」
「それは料理番というより、食材の問題じゃないですか?」
「ええ。食材はパーティー側が用意する決まりなので……」
なるほど。
新鮮な食材が手に入らない遠征先では、料理番が工夫できることにも限界があるのだろう。
「では、三人目は?」
「……料理を出すたびに、リーダーのリディアさんから『まずい!』と言われ続けたそうです」
「うわあ……」
それはなかなか精神的にくる。
しかも相手は冒険者。食事のたびに四人分の期待を背負うことになるわけだ。
「でも、あのパーティの4人はお腹を空かせているだけですから……悪い人たちではありませんよ?」
「フォローになっているような、なっていないような……」
料理番が三人も辞めている時点でかなりの難物ではないだろうか。
その「腹を空かせている」パーティは、ギルドの隅のテーブルで、確かに空腹だという顔をしていた。
金髪の女剣士が、いきなり立ち上がってこちらを見る。
「キミが料理番をやってくれるのか!?」
「んー……まだ受けるかどうかはわからないですけどねぇ……」
金髪の女剣士は俺の返事を聞くなり身を乗り出した。
「私はリディア。冒険者パーティー『飢えた獅子』のリーダーをやってる」
リディアはそう名乗ると疲れたように肩を落とした。
「私たちのパーティーは魔物討伐を専門にしているんだけど……長い遠征になると食事がね。干し肉と硬いパンばかりで、温かい料理なんて滅多に食べられないの」
どうやら料理番を募集している理由は、その食事事情にあるらしい。
彼女はそこで言葉を切り俺の手をぎゅっと握った。
「もう限界なの!せめて、せめて一日に一度でいいからちゃんとした温かい料理が食べたいのよ!」
なるほど。冒険者の食事事情もなかなか厳しいらしい。
……いや、だからって初対面の相手の手をそんなに強く握らなくてもいいだろ!
……まあ、相手は美人だし、女性に手を握られるのは悪い気はしないけどさ。
「ちょっと、リディア。初対面の相手に近すぎるでしょ」
茶髪のポニーテールの弓使いが、笑いながらリディアを引き剥がす。
「ごめんね。私はフィーナ。弓担当で一応このパーティーの調整役。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします。コータです」
「コータくんね。ふふ、なんだか育ちがよさそう」
「そ、そうですか?」
続いて、銀髪の女魔法使いが静かに立ち上がって会釈した。
「セレスティアよ。魔法を担当しているわ。……あなたの料理、期待しているわ」
「えっと、料理といっても普通のものですけどね。あまり期待しないでくださいね」
「普通で十分よ。今までの食事は乾燥豆を戻して食べるだけだったもの」
「それは……大変でしたね」
最後に、黒髪の剣士が軽く頭を下げた。
「カイルだ。剣と盾を担当している。うちのリーダーが失礼をしたな」
「いえいえ、全然」
「見ての通り食べ物のことになると周りが見えなくなる。迷惑をかけるかもしれないが悪い奴じゃない。どうかよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
三人の美女と一人の美青年。いかにも冒険者パーティーらしい、華やかな顔ぶれだった。
……ただし、全員、お腹を空かせた顔をしている。
まあ、神託という名の飯の催促を繰り返す駄女神に比べればまだかわいいものだろう。
駄女神は食欲のためなら神の威厳すら投げ捨てるのだから。
俺は依頼状を見直した。
海。
潮の香りを含んだ風が頬を撫でる。青く広がる海原に白い波が砕けていく。
水平線の向こうまで続く大海原を想像しただけで胸が躍った。
海といえば、海鮮だ!
炭火の上でジュウジュウと音を立てるエビ。殻を開けばふっくらとした身が顔を出すホタテ。
香ばしく焼けたイカに醤油を垂らせば、たちまち食欲を刺激する匂いが立ち上る。
想像の中で、俺の口からよだれが滝のように流れ落ちた。
エビ! ホタテ! イカ!
……ダメだ。もう頭の中が海鮮BBQでいっぱいだ。
「……わかりました。受けます」
「本当か!?」
リディアが、ぶんぶんと俺の手を振った。
「ありがとう!これで明日からまともな食事ができるわ!」
「リディア。まだ出発前よ。今からそんなに喜んでどうするの」
フィーナが呆れたように笑う。
「だって、料理番が来てくれるんだぞ!温かい料理が食べられるんだ!」
「その前に、魔獣を討伐する仕事があるだろう」
カイルが冷静に突っ込むと、リディアはハッとした顔で背筋を伸ばした。
「そ、そうだった!よし!明日はいつもの三倍頑張るぞ!」
「三倍って……食事のために張り切りすぎじゃない?」
フィーナが肩をすくめる。
「でも、私も楽しみ。セレスティアは?」
「温かい食事がいただけるなら文句はないわ。できれば、料理の作り方も教えてほしいけれど」
「おいおい。まだ一口も食べていないんだぞ」
カイルが苦笑する。
どうやらこのパーティーは食べ物が絡むと全員の調子が狂うらしい。
まあ、駄女神に比べればまだ理性が残っているだけマシか。
そんなことを考えながら、俺は四人と翌日の集合時間を確認しギルドを後にした。
出発の前夜。
家の縁側で荷物をまとめていると、頭の中に聞き慣れた声が響いた。
『もしもーし?オトクくーん!豊穣と食文化の女神ブレディア様ですよ~!』
「コータです。……はぁ、今何時だと思ってるんですか?夜ですよ?美容のために夜は寝てるんじゃなかったんですか?」
『今日は特別です!海に行くんですよね!?海鮮ですよね!?』
「耐えてください。仕事ですから」
『でもぉ、海だろうが何だろうがお供え物は毎日必要じゃないですかぁ???』
「いや、帰ってから……というか、いつから毎日になったんです??お供えはたまにですよ。たまに」
『たまにではダメです!毎日です!ま・い・に・ち!そのためにも、写真立てですよ!!写真立て!!』
「写真立てですか……」
『そこからお供えすればどこからでも神界に届くんですよ!海のお供え物はぁ~……ぜぇ~ったいにぃ!忘れないでくださいね!!絶対ですよぉ!!』
「わかりました、わかりましたから……」
『海鮮!!あっそーれ!!海鮮!!』
ブツッ。
切れた。こちらからは何も言っていないのにお供え物の予約だけはしっかり取りつけられた。
「……ったく……食い意地の女神め」
俺は、五割増しの肖像画入りの写真立てを荷物に放り込んだ。
海岸への道中。
パーティーが持ち込んだ食材は、豚肉、野菜、パン、豆類。
どれも、なかなかのお値段だった。
野営地に着いた夕方、俺はそれらを使って豚肉のソテーと野菜のスープを作った。
「「「「「いただきます!」」」」」
リディアが、肉にかぶりつく。
「……うまぁ!温かい!これは肉の味がする!」
「そりゃあ肉ですからね」
「温かいスープって、こんなにありがたいのね」
セレスティアが、しみじみと言う。
「干し肉より何倍もいいな」
カイルもうなずいた。
四人とも喜んでくれた。これはうれしい。
うれしいんだけど。
……なんか、足りないな。
料理のことじゃない。
俺の頭の中にどうしても日本の食卓が浮かんでしまうのだ。
焼肉のタレ。
香ばしく焼けた肉。
黄金色の唐揚げ。
「いやいや、贅沢を言うな。今は能力を隠すことが最優先だ」
俺は頭を振った。
チラシの能力が知れれば、商人に目をつけられるかもしれない。
貴族に囲い込まれるかもしれない。
面倒なことになるのは目に見えている。
「……普通の料理番でいこう」
このときは、本気でそう思っていた。
翌朝。
飢えた獅子は海の魔獣の討伐に出発した。
「右から来る!」
「任せろ!」
「援護します!」
「《ウォーターボール》!」
四人の声が、海岸の向こうへと遠ざかっていく。
俺は野営地に残って夜に備えて料理の下準備を始めた。
……始めたのだが。
「…………」
目の前にはどこまでも広がる青い海。青い空。波の音。
浜辺に打ち上げられた貝殻。
「……海鮮」
頭の中に、料理が次々と浮かんでくる。
エビの塩焼き。
焼きホタテにバターしょうゆ。
イカ焼き。
サーモンのホイル焼き。
そして、焼肉。
「……BBQ」
ジュウウウウッ。
脳内で、肉が焼ける音がした。
「……無理だ」
俺は静かに目を閉じた。
「海に来て海鮮を我慢しろというのが無理なんだ」
人間の食欲は理性に勝つ。
「……ちょっとだけなら」
誰に言い訳しているのか、自分でもわからない。
俺は大きな岩の影に回り込み誰もいないことを確かめてから懐からチラシを取り出した。
今朝のチラシの一枚に、こんな見出しが躍っていた。
【スーパー・マル得 BBQ大特売!】
━━━━━━━━━━━━━━
豚バラ肉500g 698円
牛カルビ500g 1,280円
エビ500g 798円
ホタテ6枚 980円
イカ2杯 398円
サーモン切り身 598円
とうもろこし1本 128円
焼きそば3食入り 198円
北海道バター 498円
生しょうゆ 198円
焼肉のタレ 298円
バーベキューコンロ 4,980円
バーベキュー用炭 980円
━━━━━━━━━━━━━━
「……最高かよ」
この世界では豚肉100gが五十万ペイ。
このチラシならこれ全部を数千ペイで買える。
「だめだ。もう我慢できん」
俺は買い物を済ませると岩陰に冷蔵庫をどんと展開した。
中から取り出したのは肉に海鮮に野菜。
さらに焼きとうもろこしと焼きそば。そして焼肉のタレだ。
……まさかスーパーでバーベキューコンロまで売っているとは思わなかった。
特売チラシに載っていたのを見つけた瞬間。俺は迷わず購入していた。
せっかく海まで来たんだ。これだけの食材が揃っているなら本格的にやるしかない。
特売で買ったバーベキューコンロを組み立てる。
さらに草原で使ったコンロと網も並べて炭に火をつけた。
炭が赤くなったのを確認してから肉と海鮮を手元に並べる。
「よし。ここは『なんとかなる』で乗り切ろう」
誰に聞かせるでもなく呟き俺は網の上に肉と海鮮を並べた。
夕方。
討伐を終えた四人が野営地に戻ってきた。
「ただいま……ん?」
カイルが足を止めた。
「……何だ、この匂いは」
海風に乗って、甘辛いタレの香りと、肉の脂が焼ける音、そして磯の香りが広がっている。
「……え?」
「……ええ?」
「……えええ!?」
そこには、豪華なBBQの準備が整っていた。
「お疲れさまです!今日は、BBQです!」
「ば……ばーべきゅー?」
リディアの目が、肉とエビとホタテを行ったり来たりしている。
「これを?コータが用意したのか!?」
「ええ。せっかく海まで来たんですから。冷めないうちにどうぞ」
俺が椅子代わりの岩を勧めるとリディアたちは吸い寄せられるようにバーベキューコンロへ近づいた。
「……あ、その前に」
俺は荷物から、写真立てを取り出した。
岩の上に立て、大皿に焼いたホタテや海鮮に焼きそば、肉や野菜をたくさんのせてその前に置く。
「何をしてるのだ?」
リディアが首をかしげる。
「お供えです。……ブレディア様に」
「ブレディア様に?」
カイルが、目を丸くした。
「ええ。いつもお世話になっているので」
嘘ではない。
食材を提供してくれる特売チラシのスキルもこの女神から授かったものだ。
もっとも本人はその見返りとして食べ物を要求してくるのだが。
「豊穣と食文化の女神様か。なるほど……旅先でお供えをするとは感心だな。食事に恵まれるよう祈るのは冒険者にとっても大切なことだからな」
リディアが感心したように言うとフィーナがくすりと笑った。
「料理をする人間にとっては守り神みたいなものですからね。おいしい食事は冒険者の命綱ですし」
「なるほど。料理の腕は信仰の賜物というわけね」
セレスティアが、感心したようにうなずく。
「いや、そういうわけじゃ……」
そのとき、大皿がすうっと光に包まれて消えた。
「おお!?」
「奇跡だ……!ブレディア様が、受け取ってくださった!」
リディアが目を輝かせる。
直後、頭の中に声が響いた。
『ほたてぇぇぇ!!バターがとろっとしてますぅぅぅ!!』
……頼むから今だけは静かにしてくれ。
俺は、顔が引きつるのを必死にこらえた。
これ以上変なことを口走る前にさっさと食事を始めよう。
俺は、焼いた牛カルビを皆に配った。
「い、いただきます……」
リディアは恐る恐るカルビを口に運んだ。
「…………っ!!」
その瞬間。彼女の目が見開かれた。
「ちょっと、何その顔!私も!」
フィーナがカルビに飛びつく。
「……なにこれえええええ!!」
ひと口食べただけで叫ぶな。いや、気持ちはわかるけど。
「そんなにおいしいのですか?」
セレスティアも興味を引かれたようにエビへ手を伸ばした。
殻をむいてひと口かじった途端、彼女の動きがぴたりと止まる。
「……身の弾力、塩味の調和、殻から漏れる香り……これは、どういう魔法を?」
「使ってません」
「そんなはずはないわ!」
「本当に使ってませんって!」
魔法どころか、塩を振って焼いただけなんだけどな。
一方のカイルは無言でホタテを黙々と食べていた。
ひと口食べるたびに目を細めその目にはうっすらと涙まで浮かんでいる。
……そんなに感動するほどだったのか。
干し肉と硬いパンの生活が相当こたえていたらしい。
リディアはカルビを飲み込むと俺に詰め寄った。
「この肉汁!この香ばしさ!いったい何をしたらこんな料理になるの!?」
「普通に、焼いただけですけど……」
「普通とは何だ!?」
「普通とは、普通ですよ」
この世界では肉を焼くだけでも驚かれるのか。いや、さすがにそれはないと思いたい。
「よし、明日も作ってくれ!」
「毎日ですか!?」
「当然だろう?」
何が当然なんだ。
俺は料理人として雇われたはずだけどいつの間に専属料理人になったんだ?
そのやりとりをフィーナがコンロの向こうからじっと見ていた。
彼女はカルビを口に運びながら何かを考えているようだった。
……その視線が妙に気になるんだけど。
食事もすっかり終わりかけた頃。
俺は最後のお楽しみを用意することにした。
岩陰に置いた冷蔵庫からプリンを三つ持ってきて女性陣の前に並べる。
「これは?」
「プリンです。デザートにどうぞ」
「ぷりん?」
リディアたちは見慣れない食べ物を前に首をかしげた。
俺はそれぞれにスプーンを渡した。
リディアが恐る恐るプリンをすくい口に運ぶ。
「…………っ!!」
その目が大きく見開かれた。
「なにこれ!とろっとして、甘くて、ほろ苦くて!」
「ふわあ……」
フィーナが、頬に手を当てて目を細める。
セレスティアは真顔でスプーンの上に残ったプリンを見つめていた。
「……調理工程を、記録しなければ」
「いや、そんな大層なものじゃないですよ」
俺は思わず突っ込んだ。
調理工程も何も容器のふたを開けてプッチンしただけだ。
これを記録したところで得られる知識は「プリンは皿に出して食べるとおいしい」くらいのものだろう。
……まあ、異世界の人たちにとっては未知の甘味だ。
気持ちはわからなくもないけど。
そのとき、頭の中に聞き慣れた声が響いた。
『オトクくぅぅぅん!!プ・リ・ン!!あたしにもプリンをお供えしなさぁぁぁい!!』
……はいはい。
すぐ用意してやるから待ってろ。神託してくるな!
『はぁい!!オトクくん大好きぃぃぃ!!ん~っちゅっ!!プリンですよ!!はよプリン!!』
……ったく。プリン一個でここまで騒ぐ女神がいるか。
俺は心の中でため息をつきながらプリンをお供えした。
カイルはといえば食後のコーヒーを手にさりげなく視線をそらしていた。
だが、その視線は時折プリンのほうへ流れている。
……いや、隠せてないから。
俺は気づかないふりをして冷蔵庫からもう一つプリンを取り出しそっと彼の隣に置いた。
「…………すまない」
カイルが小声で礼を言う。
「内緒です」
俺も小声で返した。
カイルは一瞬だけ口元を緩めるとプリンを手に取った。
その様子を見ていたフィーナが何か言いたそうにこちらを見たが俺は知らん顔でコーヒーをすすった。
リディアとセレスティアはすっかり満足した様子で横になりカイルは食後のコーヒーを味わっている。
ついさっきまで空腹で騒いでいたとは思えないほど静かだ。
皆、幸せそうな顔をしていた。
そこへ、フィーナが近づいてきた。
「ねえ、ちょっと聞いていい?」
「何でしょう?」
「お肉も魚介類も野菜も、あんなに大量に用意できたのはどうして?」
「……買い置きです」
「どこで?」
「……いろいろと」
「ふぅん?」
「……」
フィーナは、しばらく俺の顔を見つめたあと、にっこりと笑った。
「まあいいけど。秘密があるなら無理には聞かないよ」
「……助かります」
「その代わり、またプリン食べさせてよね!」
「それが目的か!!」
笑いながらツッコミを入れて、俺はこっそり安心した。
これで、しばらくは大丈夫だろう。
……などと思っていたのは、俺だけだった。
実のところ、四人全員がうっすらと気づいていた。
リディアは「出どころはともかく、うまければいい」と割り切っている。
セレスティアは魔力の痕跡がないことに首をかしげている。
カイルは「触れないほうがいい」と静かに判断した。
フィーナは、焚き火のそばの写真立てをじっと見ていた。
食材の出どころだけではない。
料理が消えたことも。
写真立てに向かって話しかけていたことも。
そんな四人の視線に、俺は最後まで気づかなかった。
次回予告
第四話 俺を囲い込む会議が、俺の家で開かれているんですが?
海から戻ったコータの家に、突然やってくる四人のパーティ。
「明日は唐揚げだ!」
「私はプリン!」
「オムライスの調理工程を記録させて、コータ」
「俺は普通の定食でいいよ」
「ここ、俺の家なんですけど!!」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
第三話は海辺での豪華BBQ回でした!
牛カルビにエビにホタテ。そして食後のプリン!
干し肉と硬いパンの生活を送っていた冒険者たちにとっては、まさに夢のような食事だったようです。
果たしてコータは、これからも冒険者たちの胃袋を満たし続けることになるのでしょうか?
次回は、海から帰ったコータを待ち受ける新たな展開!
どうやら『飢えた獅子』の面々は、まだまだ彼の料理を諦めるつもりがないようです……。
よろしければブックマークや評価、感想などで応援していただけるとうれしいです!
これからも『メガチラ!?』をどうぞよろしくお願いします!
※ブレディア様へのお供え物は任意です。
……ただし、ホタテとプリンは特に歓迎だそうです。




