↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神様!異世界転生の特典が特売のチラシなんですけど!?  作者: マトンさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/26

第十四話 王都の領主の館から、料理番への正式な招待状が届きました

 王都の宿の朝は静かだった。


 コータは窓際のテーブルで紅茶を飲みながら、今日のチラシが届くのを待っていた。

 昨日までの大騒ぎが嘘のような穏やかな時間である。

 窓の外では朝市が始まっていた。焼きたてのパンの匂いが風に乗って届く。ただし、一個二十万ペイである。見るだけならタダなので、誰も文句は言わない。

 テーブルの端には写真立てが置いてあった。

 駄女神(ブレディア)の肖像画入りで、昼間はお供えの窓口になる。今は静かだった。あまりにも静かで、逆に不気味なほどだった。


 そこへ、扉が勢いよく叩かれた。

「コータ殿!招待状です!」

 立っていたのは女官のフレイヤだった。息を切らせながら、両手で豪華な封筒を掲げている。金の縁取りに蝋の封印。見るからに面倒な代物だった。

「差出人は、ペイペの町を含むこの一帯を治める領主様です」

「俺に、ですか?」

「はい。『領主様が、コータ殿の料理をご所望です』と書いてありますね」

 コータは封筒を受け取り、中身を確かめた。

 確かにそう書いてある。三日後の夜に領主邸で宴が開かれるらしい。領主の末の息子の祝いも兼ねており、料理番として腕を振るってほしいという内容だった。

「俺の料理って、領主様の耳に入るほど有名なんですか?」

「王都のギルドでも噂になっていますから。飢えた獅子の料理番は只者ではないと」

「只者ですよ、俺は」

「ブレディア様の使徒が只者のはずがありません」

 フレイヤは真顔で言い切った。反論の余地はなさそうだった。

「俺は、行かなきゃダメですか?」

「ダメです」

 即答だった。

「領主様のご招待を断れば、ペイペの町での立場が危うくなります。それに、ブレディア様の使徒として堂々と振る舞える、またとない機会です。私も同行いたします」

「フレイヤさんも来るんですか?」

「領主様から、コータ殿のお世話をするよう命じられております。宴の当日も、私が責任を持ってお支えいたします」

 なぜそこまで念入りなのか。

 コータは引っかかったが、突っ込まないことにした。

 知らせを聞いた飢えた獅子の面々は、宿の食堂に集まって大騒ぎになった。

「領主様の宴か!どんな料理が出るんだろうな!」

 リディアは目を輝かせ、早くもご馳走への期待を隠そうともしない。

「料理を出すのは俺です」

「なら、私も護衛としてついていくぞ!料理番の安全を守るのは大事だからな。もちろん、味見も任せておけ!」

「味見が主目的になってませんか?」

「そ、そんなことはないぞ!」

 リディアは胸を張ったが、視線はすでに宴の料理へと向いていた。

「私は礼儀作法が心配です……。貴族の方々に失礼があったら大変ですから」

 フィーナは今から緊張しているようだった。

「私は貴族の宴で使われる食材に興味があるわ。普段は市場に出回らないものもあるかもしれないし」

 セレスティアは、どんな珍しい食材に出会えるのかと目を輝かせている。

 一方、カイルは何か言いたそうに口を開きかけては閉じていた。

「……甘いものも出るのかな」

「気になるのはそこですか」

「大事なことだろ」

 真顔で答えるカイルに、コータは思わずため息をついた。

そもそも、全員が正装など持っていなかった。宴に出るための服も用意しなければならないし、領主の息子への贈り物も考える必要がある。

「とりあえず、必要なものを揃えないとな……」

 コータはそう呟き、テーブルの上を片付けた。


 ちょうどそのとき、今日のチラシが届いた。

「クリスマスパーティー特集、か」

 コータはテーブルにチラシを広げた。

 ピザにフライドチキンにオードブル。真ん中には大きなクリスマスケーキ。

 パーティーに必要なものがひと通り揃っている。写真を眺めているだけで、なんだか楽しい気分になってくる。

 裏面はおもちゃ売り場の特集だった。

 ぬいぐるみや知育玩具、ボードゲームなど、子ども向けの商品がずらりと並んでいる。

「領主様の息子さんへのお祝いは、当たり障りのない積み木のセットにしよう」

 相手は領主の息子だ。

 六歳の子どもに何を贈ればいいのか、正直よくわからない。

 かといって、高価なものを贈って余計な注目を集めるのも避けたい。

 無難で、それなりに喜んでもらえそうなものがいいだろう。

 そう考えたコータは、積み木のセットとパーティー料理を注文することにした。

 ピザにフライドチキン、オードブルにクリスマスケーキ。

これだけ揃えば、宴の料理としても十分なはずだ。


 ふと、裏面の隅に載っていた携帯ゲーム機にも目が止まった。

「これは待ち時間用に自分で買っておくか」

 王都での暮らしは、意外と待ち時間が多い。移動の合間や誰かとの約束までの時間など、手持ち無沙汰になる場面も少なくない。

 別に遊びたいわけではない。あくまで暇つぶし用だ。

 ……まあ、少しくらい遊んだっていいだろう。

 そんな言い訳をしながら、コータはとりあえず、積み木と携帯ゲーム機を購入した。

 パーティー料理は、宴の当日に買えばいい。

 せっかくのパーティー料理なのだから、できたてのほうがいいだろう。


 購入した商品は、いつものように冷蔵庫から出てくる。

 まずは積み木の箱。そして、見慣れたロゴの携帯ゲーム機が現れた。

「……やっぱりゲーム機も冷蔵庫から出てくるのか」

 コータは目の前の冷蔵庫をじっと見つめ、深いため息をついた。

 食品だろうが、おもちゃだろうが、ゲーム機だろうが関係ない。

 注文した商品は、すべて冷蔵庫から出てくるのだ。

 便利なのは間違いない。

間違いないのだが、もう少し出てくる場所をどうにかできなかったのだろうか。

 いつもながら、なんておかしな転生特典なんだ。


 その夜、テーブルの上の写真立てが淡く光った。駄女神(ブレディア)からの呼び出しである。

『ちょっとオトクくぅん!ピザとフライドチキンとケーキの特集ってどういうことぉ!?あたしにもぉ!あたしにも寄越しなさいよぉ!!』

「いや、まだ買ってませんからね?」

『じゃあ今すぐ買いなさい!ほら、チキン!ピザ!ケーキ!全部よ!』

「そんな一度に買えるわけないでしょう。そもそも、三日後は領主邸で大事な宴なんです」

『知ってるわよ!だから言ってるんじゃない!宴でおいしいものを食べるんでしょ!?あたしにもお供えしなさいよぉ!』

「しません」

『即答!?』

「宴の最中に神界通話なんてしていたら、怪しまれるでしょう。お供えは全部終わってからです」

『ええええっ!?終わってからって、宴が終わってからぁ!?』

「そうです」

『そんなの待てないわよぉ!あたしだってぇ、ピザが食べたぁい!フライドチキンも食べたぁい!ケーキだって食ぁべぇたぁいぃのぉぉぉぉ!!!!』

「子どもですか、あなたは……」

『あたしぃ、女神よぉ???豊穣と食文化の女神!!食べ物を大切にするのは当然の務めなのぉ!!』

「自分が食べたいだけでしょうが」

『うぐっ……!と、とにかくぅ!三日後は絶対にお供えするのよぉ!!約束だからねぇ!!』

「約束してません。宴が終わるまでは忙しいので、それまで連絡してこないでくださいね」

『ちょっと待ちなさいオトクくぅん!せめてチキンだけでもぉぉぉ――』

「……はぁ」


 写真立ての向こうから聞こえる悲痛な声に、コータは小さくため息をついた。

 さすがに、ここまで楽しみにされていると少し可哀想になってくる。

「わかりました。今回は特別に、冷凍食品とお菓子、それからジュースを買ってお供えします。それで我慢してくださいね」

『ほ、本当!?やったぁ!オトクくぅん大好きぃ!』

「ただし、宴が終わるまでは忙しいので、それで我慢してくださいね」

『わかってるわよぉ!冷凍食品にお菓子にジュース……えへへぇ、何を食べようかしらぁ!』

 さっきまでの悲壮な声はどこへやら。写真立ての向こうから、すっかりご機嫌な声が聞こえてくる。

「それじゃ、すぐにお供えしますからね」

『うんうん!待ってるわねぇ!あっ、でも、やっぱりチキンも――』


 コータは無言で写真立てを伏せ、駄女神(ブレディア)からの着信を拒否した。

「まったく……これで三日後までは静かに過ごせるな」

 コータは冷凍食品やお菓子、ジュースを買い写真立ての前にお供えした。

 宴当日、写真立ては宿に置いていく。肖像画のない場所には神界通話も神託も届かない。

 王都の領主邸に女神の肖像画が飾られているはずもない。

 これで当日の平穏は守られた。コータはそう信じていた。


 翌日、俺たちはフレイヤに連れ回されることになった。

 向かったのは、王都でも一番だという仕立て屋である。

 扉をくぐった瞬間、店主が飛び出してきた。

「領主様の宴にお出になる方々ですね!お任せください!皆様を最高の装いに仕上げてみせます!」

 店主の勢いに押されるまま、コータは採寸台の上に立たされた。

「腕を水平に!そう、そのままです!」

「……はい」

「肩の力を抜いて!ああ、動かないでください!」

「どっちですか!?」

 腕を広げたまま、コータは三十分も動けなかった。

 隣ではカイルが襟元を押さえ、苦しそうにうめいている。

「……苦しい」

「まだ仮縫いですよ。これから調整しますので!」

「これで……まだ……?」

 カイルの表情が絶望に染まった。

 一方、セレスティアは店主が持ってきた布地を一枚ずつ手に取り、魔法で織り方や染料の成分を調べ始めていた。

「興味深いですね。この糸は植物由来でしょうか。それとも魔物の素材を加工したものですか?」

「お客様、鑑定は後ほど!布が傷みますので、魔法はお控えください!」

「傷むのですか?それなら、こちらの布も調べてみたいのですが」

「そういう問題ではございません!」

 店主の悲鳴が店内に響く。

 フィーナはフィーナで、試着室から出てくるなり、ドレスの裾を両手で持ち上げた。

「フレイヤ様、これでは歩きにくいのですが……」

「裾を踏まないよう、少しずつ歩くのです。宴の場では優雅な所作も大切ですよ」

「少しずつ……こうでしょうか?」

 フィーナが一歩踏み出した瞬間、裾に足を取られた。

「きゃっ!」

「フィーナ様!」

 フレイヤが慌てて支え、なんとか転倒を防ぐ。

「危ないところでした。慣れるまでは練習が必要ですね」

「……冒険者の仕事のほうが、よほど簡単な気がします」

「そんなことをおっしゃらずに。貴族の方々とお会いするのですから、身だしなみは大切です」

 フレイヤはにこやかに告げた。

 その笑顔には、反論を許さない圧があった。

 コータは思った。

 この人、領主様に仕えているだけあって、なかなか手強い。


 そんな騒ぎが続く中、最後に試着室から出てきたのはリディアだった。

 深い赤のドレスだった。

 普段は大剣を背負い、豪快に笑いながら先陣を切る彼女。

 その背筋がすっと伸び、ドレスの裾を気にしながら一歩ずつ歩く姿は、いつもの女剣士とは別人のように見えた。

「……どうだ?変じゃないか?」

 リディアは落ち着かない様子で裾をつまんだ。

 コータは言葉に詰まった。

「変じゃないです。その、すごく……」

「すごく何だ?」

「……似合ってます」

 リディアの頬が、みるみる赤くなった。

「そ、そうか」

 耳まで真っ赤にしながら、彼女はぷいっと顔を背けた。

 その瞬間、背後から小さな笑い声が聞こえた。

「まあまあ。リディアさんが照れていらっしゃいますわ」

 フィーナが口元を押さえながら、わざとらしく感心した声を上げる。

「普段は魔物の群れに突っ込んでも平気な方なのに、コータさんに褒められるとそんな顔になるんですね」

「……別に照れてなどない」

 リディアは平静を装って答えたが、赤くなった頬までは隠せなかった。

「そうですか?お顔が真っ赤ですけれど」

「これは、その……店の中が暑いだけだ」

「まあ。では、少し涼しい場所へ移動なさいますか?」

 フィーナは心配するような顔を作りながらも、目元には笑みが浮かんでいた。

「そういう意味じゃない」

 リディアが慌てて言い返すと、フィーナはとうとうこらえきれず、小さく吹き出した。

 そのやり取りを見ていたセレスティアも、興味深そうに二人のそばへ近づいてきた。


「なるほど。褒められると顔が赤くなるのですね。普段との違いが顕著です」

「セレス、分析するな」

「もう一度コータに褒めてもらえば、変化を観察できそうですね」

「……やめてくれ」

 リディアは顔を覆った。

 コータが助けを求めるようにフレイヤを見ると、彼女も口元に手を添えて微笑んでいた。

「ふふっ。とてもよくお似合いですよ、リディア様。深い赤が、普段の凛々しいお姿にもよく合っています」

「フレイヤまで……」

「わたくしは本当のことを申し上げているだけです」

 フレイヤは涼しい顔で続けた。

「コータ様にも褒めていただけて、よかったですね」

「……そういう言い方はやめてくれ」

 フィーナとセレスティアは、とうとうこらえきれずに笑い出した。

「……おい。笑うなよ」

「ふふっ、すみません。ですが、宴ではいつものように頼りにしていますからね」

「ええ。宴の間も、リディアの反応を観察させていただきます」

「だから、観察するな……!」

 リディアは真っ赤な顔で二人を睨みつけた。だが、フィーナもセレスティアも笑みを浮かべたまま、まるで反省する様子がない。

「……二人とも、覚えておけよ」

「はいはい。楽しみにしていますね」

「ええ。今後の観察も捗りそうです」

「お前たち……!」

 リディアは二人を追いかけようとした。

 だが、ドレスの裾を踏みかけ、慌てて足を止めた。

「……もう。この服、やっぱり動きにくい」

「リディア様、裾を踏まないように。優雅に、ですよ」

 フレイヤがすかさず注意する。

「わかってる」

 リディアは不満そうに答えたものの、ドレスを脱ごうとはしなかった。

 コータはその様子を見て、思わず頬を緩めた。

 普段は頼もしくて、少し強引で、何があっても動じないリディア。

 そんな彼女が、たった一言褒められただけでここまで慌てるとは。

 ……なんだか、こっちまで照れくさくなってきた。

 そう思っていると、リディアがちらりとこちらを見た。

「……何だ?まだ何かあるのか?」

「いえ。やっぱり似合ってるなと思って」

「そ、そうか。……なら、いい」

 リディアはすぐに顔を背けた。耳まで赤くなっているのを隠すように、わざとらしく咳払いをする。

「コータさん、追い打ちはいけませんわ」

「でも、本当に似合ってますよ。いつもの凛々しい姿もいいですけど、こういう格好もすごく綺麗です」

「…………っ!」

 リディアの肩がびくりと跳ねた。

「な、何をさらっと……!いや、だから、その……!」

 言葉に詰まった彼女は、とうとう両手で顔を覆ってしまった。

「今の反応も興味深いですね。照れを隠そうとして、かえって目立っています」

「隠そうとしてなどいない!」

 リディアは即座に言い返したが、声が少し裏返った。

「皆様、リディア様をあまりからかってはいけませんよ」

 そう言いながらも、フレイヤの口元には笑みが浮かんでいた。

「……まったく。お前たちは、そろいもそろって」

 リディアは三人を順番に睨みつけた。どうにかいつもの余裕を取り戻そうとしているらしい。だが、最後にコータと目が合うと、また慌てて視線をそらした。

「……宴が終わったら、覚えておけ」

「えっ、俺もですか!?」

「お前が一番の原因だろう……!」

 リディアは胸を張って言い切ったものの、赤くなった顔までは隠しきれなかった。

 どうやら、褒めただけでは済まなかったらしい。


 コータは、貴族の宴よりも恐ろしいものがあるのだと、このとき初めて知った。


 次回予告 第十五話 料理を振る舞っていたら、なぜか貴族たちが青ざめました

 領主主催の宴に招かれたコータ。

 ピザにフライドチキン、クリスマスケーキと、次々に料理を振る舞い、貴族たちを驚かせる。

 しかし、平民の料理番を見下す男爵も現れ、宴は早くも波乱の予感……。

 そんな中、思いもよらない出来事が起こり、和やかだった宴の空気が一変する。


 ――果たしてコータは、無事に宴を乗り切れるのか?

ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回は、領主主催の宴への招待と、正装に振り回される『飢えた獅子』の面々のお話でした。

普段は頼もしいリディアも、コータに褒められると調子が狂ってしまうようです。いつもの豪快な姿とは違う一面が見られましたね。

一方、コータを待ち受けるのは、貴族たちが集まる華やかな宴。料理番として腕を振るうだけで済めばいいのですが、どうやらそう簡単にはいかないようで……。

次回、第十五話

「料理を振る舞っていたら、なぜか貴族たちが青ざめました」

豪華な料理に驚く貴族たち。そして、宴の空気を一変させる思いもよらない出来事。

コータは無事に宴を乗り切れるのでしょうか?

次回もお楽しみに!

ブックマークや評価、感想などで応援していただけるとうれしいです。


※ブレディア様へのお供え物は任意です。

 ……冷凍食品は常にストックしておきたいので喜ばれます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。