5話:ギルド
「うわっ、すご……。ここがスフィーダの中……。」
あのあとレオンに言われるがままにスフィーダを起動させいつもゲームを始める時のようにログインボタンを押すと目の前が真っ白になって平衡感覚を失い、次の瞬間にはレオン、カイと共にまた森の中にいた。
しかし先程までとは違い木々の間には光が降り注ぎ、空気も綺麗に澄んでいる。聞こえてくるのも魔物のおぞましい声ではなく、小鳥の軽やかなさえずりだ。
そしてレオンやカイに促され少し歩いていくとそこにはゲームでよく見慣れた俺の、いや、俺たちのギルドがあった。
ただ、厳密に言えば今の俺たちギルドとは違い、拡張する前の、ゲームを始めた時に与えられた初期のギルドの姿がそこにあった。
「やばい、まさかレオンやカイに会えただけじゃなく実際にスフィーダの中に入れるなんて……!な、なあ、中、中入ってもいいか!?」
最近は特に食事も睡眠もそっちのけで授業中も隠れてスフィーダをプレイするほどにスフィーダ自体を愛していたため、自分がその空間に入りゲームのキャラ達が暮らしてきたギルドを体感できることに興奮を隠しきれなかった。
「ふふっ、ああ、もちろんさ!マスターのギルドなんだから!」
「大はしゃぎだな。俺にとったらギルドが小さく戻っちまってちょっと残念な気もするんだが……。まあ、またこれから大きくしていけばいいだけか。」
俺のあまりのはしゃぎようにレオンもカイも苦笑しながら着いてきた。中に入るとやはり初期の設計で1階には広間と受付があり受付の両サイドの扉を開けると廊下を挟んで応接室が2部屋とその間に倉庫があった。そして廊下の両端には2階に上がる階段があり、上ると広間の真上の位置に真ん中に廊下を挟んで左右に3部屋ずつギルド員たちの部屋が6部屋あり、応接室や倉庫の上にはトイレと金庫がそれぞれ用意されていた。
「おおー!!ゲームで見たのと一緒だ!ちゃんと綺麗だし部屋も広い!はあ〜、夢みたいだ……!」
全ての部屋を見終わり、2階の1番奥の部屋のベッドに寝転がる。ベッドも思ったよりもふかふかでこのまますぐにでも寝れそうだ。その様子をレオンやカイが微笑ましそうにやれやれと言った感じで見ている。
「あ、そういえばレオン、なんでここに来られることを知ってたんだ?」
「ああ、確かに。俺もまさかマスターと一緒にここに来れるとは思わなかったぜ?」
今までは驚きと感動で疑問に思うこともなくギルド内を満喫したが、一通り見て回って満足した途端疑問が降って湧いた。
「んー、えっと説明が難しいんだけど、俺ってさマスターがプレイしてたゲームのキャラクターだったわけでしょ?」
「ん?うん、そうだね?」
「で、その中でも俺はプレイヤーたちに提供される初期キャラクター、いわゆるチュートリアル?のキャラクターの1人だったわけじゃん?」
スフィーダではゲームを始める時に14人のキャラクターの中から最初のギルドメンバーとなる1人を選ぶシステムがある。そしてその選んだ1人がその後のチュートリアルやゲームの説明などを担当するのだ。(ちなみに選ばなかった残りの13人はそれ以降ガチャ召喚でも一切出てくることはない。)
なので困った時や分からないことがあった時はレオンのキャラクターをタップして教えて貰っていた。
「だからか分かんないんだけど、何となくこのゲーム?マスターの職業?に関することだったらどうすればいいかが分かるんだよね。だから森を抜けるにはって考えた時にボヤーっと頭の中に『スフィーダにログインする』って考えが浮かんでそれを実行してもらったって感じ?どう?伝わってる??」
レオンがうんうんと唸りながらどうにか説明しようと頭を悩ませている。カイは途中から思考を放棄したのか宇宙猫のような顔になっている。
「えっと、じゃあ今一応森とは違う場所って事でスフィーダの中に入ってきたわけだけどこれさっきの世界には戻れるの?というか戻ったらまたあの森に戻ることになるんじゃ……?」
「えーっとね、さっきの世界に戻るにはスマホのゲーム画面からログアウトしたら戻れると思う。で、戻る場所に関してはなんかこのスフィーダの中の空間とさっきの世界の地図がリンクしてるみたいでログアウトする場所によって戻る場所が変わるっぽい。例えばこの空間の森の中でログアウトすると魔王軍の領地に戻っちゃうけど、森以外の場所でログアウトすると王国側の領地に戻る感じ。特にこのギルド内でログアウトしたら王国の中心都市、王城がある場所に出てきちゃうみたいだよ。」
「えっ!それってほぼほぼ瞬間移動できるってこと??」
レオンの言葉に寝転がってた状態から勢いよく起き上がり尋ねる。
「そういうことになるね!」
レオンも自分の説明を理解して貰えたと思い、パッと顔が明るくなる。
「えー!めっちゃ便利じゃん!じゃあ危なくなったりしたらスフィーダにログインして逃げれるし遠くに行きたい時もここでちょっと移動してからログアウトしたらすぐ行けるってこと?」
俺の言葉にレオンがうんうんと頷く。カイは相変わらず思考を放棄したまま、というかいつの間にか俺の横でスヤスヤと眠っている。
初め自分の職業とスキルを知った時はハズレくじを引いたと絶望したが、大好きな仲間に会えて、大好きな場所に来れて、その上思ったよりも数倍できることが多く有用な職業だと知り俄然ワクワクしてきた。
まだまだ自分の職業やスキルについて分からないことや知らないことも多いがおそらく今のようにレオンに聞けばほぼ答えを得ることができるだろう。
「マスターが嬉しそうで俺も嬉しい。俺、これからもっともっと強くなるからいっぱい俺を頼ってね!」
ニヤニヤとしているとおもむろにレオンがベッドに座っている俺の前に跪き、俺の手を取って甲に唇を落としながら言った。ゲームの中でもよくしていたが実際にされると恥ずかしいなんてもんじゃない。
「れ、レオン!分かったから手離して!」
急激に顔や耳が熱くなっていくのを感じながら取られていた右手をバッと引っ込める。
そのあとはレオンも色々と傷を負っていたのを思い出し、自分と場所を交代して慌ててベッドに横になって貰いながら手当を行った。もともと身につけていた鎧を全て外し、身体を綺麗に拭いた上で包帯を巻いていく(部屋に救急セットが備え付けてあったのでその中のものを使った)。深い傷は無かったもの身体中に傷ができていたので丁寧に消毒をしながら行った。最初はマスターにこんなことをしてもらう訳にはと抵抗していたが宥めすかして今は大人しく手当されている。(カイは手当中も起きる気配はなくグースカ寝ていた。)
「ごめんな。ゲームみたいに一瞬で治療してやれたらいいんだけど金貨も使い切っちゃってないから今日はひとまずこれで我慢してくれ。」
ゲームの時も治療にはゴールドが必要で怪我の度合いによって金額が変わっていた。ここでもそうかと思ってレオンに聞くと予想が当たってたようで普通の人間と同じく自然治癒も可能だがすぐに治療するには金貨が必要とのこと。
「気にしないで!それにマスターがこうやって直接手当してくれたからすぐに治るよ!身体中すごくポカポカして気持ちいいんだ!」
また、ゲームにはなかったことだが俺が直接手当することによって、気休めではなく本当に治癒が早まるらしい。レオン曰くこの調子には明日の朝には完治しそうとの事。
それについてはちょっとまだ信じられないがレオンが嬉しそうなので良しとする。
安心すると眠気が襲ってきて段々と瞼が重くなってきた。
(今日だけで本当に色んなことがあった。)
急に異世界に召喚され、そうと思えば職業やスキルがハズレだとバカにされ能力値も低かった為に魔王軍の生贄に選ばれた。最初は踏んだり蹴ったりで絶望しかけたがそんな時にレオンが来てくれて、次にカイも助けに来てくれてこうして大好きなスフィーダの中でゆっくりできている。
身体的にはそれほど疲れていないはずだが一日に多くのことがありすぎて精神的に疲れてしまったみたいだ。
カクンとベッドに頭を落とし、急激に意識が深く落ちていく中、レオンの優しい声を最後に眠りについた。
「おやすみ、マスター。いい夢を。」




