34話:窪み
地面と壁のちょうど境界に当たるところにあったのは小さな窪み。ただ、自然にできたものと言うよりは人工的に作られたと言った方が表現が合うほどキレイな直方体の形に壁がへこんでいる。
「ちょっとみんな来て!」
自分では何か判断がつかないので解体途中だった仲間を呼ぶ。
「どしたの?マスター。」
「これなんだと思う?」
問題の箇所を指さして見てもらうがみんなも首を傾げている。
「なにかの罠でしょうか?むやみに触らない方がいいかと...。」
「もしくはこれと同じ形のものをはめ込んで作動させるものとかですかね?まあどの道触らないに越したことはないですね。」
「触るなと言われると触りたくなっちゃう〜!でもナナはいい子だからさわらない〜!マスター褒めて〜!」
あざとかわいいナナをヨシヨシしつつ、なにか重要なものである可能性もあるため、窪みの場所だけ地図に記し、スフィーダに戻ることにした。
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「おー、おかえり。遅かったな。今レオンとアイリーンが夕食の買い出しに行ってるぜ。」
「ただいま。ほんと?それはありがたい。じゃあふたりが帰ってきたら食べながら情報共有しようか。」
スフィーダに戻ると既にカイたちは戻ってきていたらしく、倉庫に魔物の素材を移動させていた。まだ買い出しに行った2人が戻るまで時間がかかりそうということでその間に俺は建物の改装・増築を行うことにした。なぜなら今日一日で多くの魔物を狩りとることができ、近々また仲間を召喚できそうだからだ。
とりあえずギルドの両隣に渡り廊下を設置した上で別棟をそれぞれ建て、部屋を増設した。
北側と南側の1階にはそれぞれ大浴場を設置した。北側が男湯で南側が女湯だ。だから今後は北側を男性、南側を女性の宿舎として利用するつもりだ。決してアイリーンの夜ばいが怖いから棟を分けたわけではない。決して。
こうして手元の金貨を使い果たして別棟を増設し終わる頃にはレオンとアイリーンが手にいっぱい食べ物を持って戻ってきた。
「あ、マスター達も帰ってきてたんだね。って、えっ?新しい建物が増えてる...?」
「あ、おかえり!食べ物ありがとう。うん、これからまた人が増えるだろうしね。それよりせっかく買ってきてくれたものが冷えないうちに中で食べながら情報交換しよう!」
2人が買ってきてくれた食べ物を手分けしてギルド1階のテーブルに並べ、(カイは途中でつまみ食いしてレオンとシアンにはたかれていた)準備が整ったところでみんなで食事を始めた。
「レオン達の方は何か変わったことはなかった?」
「うーん、特になかったかなぁ。強いて言うならホーンラビットがいたんだけど森で見たものより少しだけ体が大きかったことぐらいだね。」
パスタをフォークで綺麗にクルクルと巻きながらレオンが答える。
「魔物の数もそれほど多いとは感じなかったし強さも普通だったと思うわ。」
アイリーンの言葉にヴァンも頷く。カイは食べるのに夢中でそもそも会話に入ってこない。
「そっか。こっちも魔物は...うん、特に異変はなかったと思うよ...。」
「ん?どうしたの、マスター、顔色悪いけど。」
「マスターはねぇー、虫さんが苦手みたいなの〜。」
さっきの様々な虫の魔物を思い出して身の毛がよだっていると、レオンが心配そうに声を掛けてきた。
「どういうこと?」
「私たちが進んだ道はどうやら虫の魔物の巣だったようで出てくる魔物のほとんどが虫型だったのだが、マスターはそれらを視界に入れるのも苦手らしく...。」
「ああ、なるほどそれは大変だったね、マスター。」
せっかくのご飯なのに無視を思い出して食欲を無くしているとレオンがよしよしと頭を撫でてきた。
「マスターったらそんな可愛い一面もあるのねぇ〜。怖かったらいつでも私の胸に飛び込んできていいのよ〜?」
アイリーンもこちらに向かって腕を広げてきたがいつも通り遠慮する。
「そ、それよりも少し気になったことがあって、小さい四角の人工的な窪みを見つけたんだけどそっちは見なかった?」
「窪み?いや、俺は見なかったな。みんなは?」
「私は見てないわ〜。」
「俺も見てはいない。」
レオンの問いかけにアイリーンとヴァンが答えたところでカイにも視線が向けられる。
「ん?四角い窪み?んー、あ、見たぜ。」
口いっぱいに頬張った骨付き肉をもぐもぐと咀嚼して飲み込んだあと、カイから衝撃発言があった。
「え、見たの!?どこら辺で?」
「見たっつーか、マスターたちと分かれてしばらく歩いた時に壁になんか変な窪みがあるからよー触ってみたんだよ。」
「え!?触った!?ちょっと、俺そんな話一言も聞いてないんだけど!!」
さらなる衝撃発言にカイと同じグループでリーダー的役割を任されていたレオンが机を叩いて立ち上がり驚きの声を上げる。
「やー、だって聞かれなかったし?んで、触った時にガコンっつってそこの壁だけ少し奥に入ったからよ、やべっと思ったんだけど何も起きねぇからまあいっかってなって...」
「そういうことはすぐに言えよ!!」
バシッと大きな音を立ててカイの頭を叩くレオン。それを見て珍しく額を抑えてギュッと目を瞑るアイリーン。ヴァンも心做しかどこか呆れた顔をしている。
「いってぇな!叩くこたぁねぇだろ!!」
カイがギャーギャー言っているが今回は擁護できない。
「まず変なくぼみがあった時点で触らずに報告するべきだ。ダンジョンにあるものなんて罠の可能性が高いのに考え無しに触って仲間を危険に晒す気か?あのダンジョンにはマスターも同時刻いたのに、マスターに何かあったらどうするつもりだったんだ!」
シアンの言葉にカイはハッとなって俺を見たあとしょんぼりと肩を落として謝った。
「...そうだな、軽率だった。...すまん。」
いつになくしおらしいカイの姿にシアンも面食らったのかそれ以上言うことなく口を噤んだ。
「まあ何も無かったから今回は良しとしよう。でも次からは気をつけてね、カイ。」
「わかった、マスター。」
まだしょんぼりしているカイをナナがよしよしと撫でている。こういう時のナナは癒し役として最強だ。
「でもまあ触っても目に見える範囲には何も変化が起きないということはわかったね。とはいえ何のためのものか分かった訳じゃないから今後は見つけたら場所だけ記録して触らないようにしよう。一応このことも明日リガルドさんに共有して何か知ってたら教えてもらおう。ということで今日はおしまい!おつかれ!明日に備えて早く寝よう!」
あらかた情報共有も終えたので、今日はもう解散することにした。せっかく広いお風呂も作ったことだし今日はゆっくりお風呂に浸かって明日に備えることにする。俺と一緒に男湯に入ろうとするアイリーンをナナとルナが引っ張って南棟に連れていき、俺はしょげたカイを引っ張って男性陣と北棟の男湯に向かう。
男湯でなんやかんや元気を取り戻したカイや湯あたりしてふらつくシアン、まさかの風呂嫌いで1番手を焼いたヴァンに疲れからか睡魔に負けてふらつく俺、そしてそれを支えるレオン。
早朝から色んなことがあった長い1日だったがなんとも充実した1日でもあり、俺たちはそれぞれ部屋のベッドに倒れ込むなりすぐに夢の世界へと旅立ったのだった。




