32話:調査結果
「ここを抜けたらもうさっきの場所だ。みんな準備はいい?」
「ああ、いつでも大丈夫だよ。とにかく少しでも異変を感じたら無闇に攻撃せずに各自スフィーダに戻ろう。」
レオンの言葉にみんな頷き返し、緊張感を漂わせながら遺体のあった場所に足を踏み入れた。
「......」
それぞれが警戒しながら周囲を見渡すが、特に魔物の姿はなく、気配に敏感なナナ、ヴァン、ルナからも特に魔物の気配は感じられないとの事だった。
「やっぱりもう移動しているみたいね。」
「さすがにずっと同じ場所にとどまったりはしないか。」
アイリーンやレオンも警戒を緩めることなく周りを見るがそれでもやっぱり魔物の気配は感じられない。
「恐らく冒険者たちを殺した魔物はあの奥に移動したんでしょう。すぐに奥へ移動しますか?マスター。」
「...いや、さっきはあまり詳しくここを調べられなかったから何か魔物の出係になるような痕跡はないか調べてから移動しよう。」
シアンがさらに奥の道を警戒しながら問うてくるが、やはり何かしら魔物の手がかりとなるものは欲しいためダメ元だがここを詳しく調べてから移動することにする。
俺の言葉で各自岩場に囲まれたこの空間を調べてまわる。
「ご主人様!ちょっとこちらへ来てくださいますか?」
最初に手がかりを発見したのはルナで入口から少し離れた隅、冒険者の1人が倒れていたところの地面を凝視している。
ルナに呼ばれて近くに行くと先程は気づかなかったが、冒険者の赤黒い血痕に混じって緑色っぽい何かが地面に付着していた。
「これは...魔物の血...かな?」
「恐らくそうかと思います。」
「マスター、こっちにも似たような血痕が」
よくよく見てみると至る所に魔物の血痕らしきものが落ちていた。
「うぇ〜、これなんか変なにおいがするのー。」
「確かに、この臭いはにおいだことがないですね...」
「血のにおいに混じって独特なにおいがします。」
地面についた緑色の付着物を指に取りにおいを嗅いでみるがナナたちが言うような独特な臭いはおろか、血のにおいも分からなかった。どうやら獣人の鼻でしか判別できないほどの薄い臭いらしく、ナナたち以外のメンバーも同様に首を傾げている。
「その独特な臭いってのは今まで倒した魔物からはしなかったのか?」
「しないよー!血の臭いだけ!でもこの緑はなんか変なにおいも混じってるのー!」
ルナとヴァンも同じだというように頷く。
「これはにおいが鍵ということでしょうか。」
「一理あるね。においに何らかの幻覚作用を持たせる魔物かもしれない。血に混じっているということは攻撃して魔物が血を流すほど俺たちが正常でいられなくなる可能性があるということかな。」
「そうだとしたら魔物を一撃で倒し切るかもしくは血を流させずに倒さないといけないわね。」
(俺の仲間達がこんなにも優秀。)
においというキーワードからどんどんと考察を進めていく仲間たち。優秀なのはわかっていたが、マスターとしては立つ瀬がなくちょっと寂しい。
結局、1度この情報を持ち帰り、念の為臭い対策をした方がいいだろうということでギルド長の所へ戻ることになった。
帰り道で出会った魔物も全て掃討しつつまだ日があるうちにギルドに戻った俺たちは新しく得た情報をリガルドさんに共有した。
ついでに共有している間に魔物の素材を買い取ってもらい、金貨も順調に増やすことができた。
「においか...、ん、まてよ。確か文献で似たような事例があったような...。」
リガルドさんに情報を共有したあと、なにか思い当たることがあったようで奥の本棚から古びた1冊の本を取り出してきて俺たちにみせる。
「これを見てくれ。今回の魔物と同じかどうかは分からないが、共有してもらった内容といくつか類似している点がある。」
見せてくれたのは30年ほど前の資料でそこには幾つもの鱗に体をつつまれたオオトカゲの絵が描かれており、特徴とその時の被害状況も一緒に記されていた。
「強靭な鱗を持っており物理攻撃体制が強い。鱗は自由に色を変えられ、周囲の景色と同化できる。炎属性を持ち、口からは高温の炎を吐き出す。また、その血には幻覚作用を持つ物質が含まれており、においを嗅いだ者の五感を狂わせたり精神に異常をきたしたりするため注意が必要...。この魔物の討伐にあたり、特性を掴むまでに時間を要してしまったこともあり、総勢50名以上の死者を出し、30名以上の冒険者が再起不能となった。最終的には少数精鋭でAランク冒険者5人でオオトカゲの首を斬り討伐に成功。においを遮断するマスクの着用と精神異常無効化のしようが可能な冒険者、もしくは耐性の強い冒険者の派遣が必須である。」
読んでみると中々にボス級の魔物のようで昔も多くの死傷者を出したと記載があった。
「「「「............」」」」
「え、これ本当に俺たちで大丈夫ですか?」
資料を読み、もし今回もこの魔物の仕業だとすれば俺たちには荷が重いと思ったのか難しい顔をしている。
「...そうだな、最悪の場合を考えて他国に高ランクの冒険者を要請しよう。ただ、さっきも述べた通り現状この街に高ランクの冒険者はおらず、適度に魔物を討伐するためにも君たちの力を貸してもらいたい。もちろんガスマスクと緊急避難用の転移石、それと各種ポーションはギルドの方で負担させてもらう。どうか頼めないだろうか。」
頭を下げるリガルドさんに、1度は引き受けたことであるし最低限の安全保障はしてくれるとの事なので、一応仲間とも相談したあと再度了承することにした。
「すまない、本当にありがとう。」
そう言って深く感謝の意を示すリガルドさんに少し恐縮しながらも、俺たちは再びダンジョンに足を向けるのだった。




