2話:失望
声のした方を見ると玉座のようなところに王冠を被り立派な白い髭を生やしたいかつい初老の男性が座っており(おそらく国王)、その隣には厚化粧でジャラジャラと宝石を体中に纏った女性が同じく座っていた(おそらく王妃)。そして男性の斜め前方に司書のような格好をして先に手のひらほどの水晶が付いた杖を持ち、メガネをかけた30代前半くらいの男性が佇んでいた(おそらく宰相、何故かちょっとくたびれてる)。さらにいつの間にか俺たちを囲むように両サイドにズラっと鎧を着て武装した兵士たちが立ち並んでいた。
「突然お喚びしてしまい申し訳ありません。皆さんの戸惑いも十分承知の上ですがまずは私たちの話を聞いていただきたいのです。」
話し出したのは司書の格好をした男性。予想通りこの国の宰相だそうで同時に国筆頭の大魔道士でもあるらしい。話をまとめるとこの世界は現在魔王軍に侵略されておりこのままだと人間族は滅んでしまうため神からのお告げに従って異世界から勇者を召喚することにしたのだそう。
そして召喚されたのが俺たち。ただこれは宰相も予想外の事で勇者1人だけを召喚するつもりがなぜか勇者の近くにいた人たち丸ごと召喚してしまったとの事。つまり勇者以外は巻き添え。
喚んだはいいものの異世界ものあるあるで戻し方は分からないということで結局全員異世界に留まることが決定した。さらに流れで全員魔王軍討伐に参加することにもなった。
「ではまず皆さんには1人ずつこの水晶に手を当てていただきます。すると水晶に皆さんの職業が写し出され、それ以降、『ステータス』と唱えればいつでも職業とスキル、それ以外にも自身の詳細な情報を見ることができるようになります。じゃあまずはどなたからいきますか?」
「名前順でいいんじゃないかな?ってことで僕から行くよ。」
名乗りをあげたのは天野優斗。こういう時のリーダーシップはさすがと言うべきか、未知の事にも臆することなく壇上に上がると水晶に手をかざした。そして写し出されたのは予想通りの文字。
【勇者】
「おや、1人目で当たるとは。」
「あはは、どうやら僕がみんなを巻き込んでしまったみたいだね。すまない。」
「さっすが優斗!話を聞いた時から優斗以外ありえないって思ってたの!一生ついてくわ!」
「ちぇっ!やっぱお前かよ〜。俺はなんの職業かな。」
クラスメイトたちが次々と優斗を囲んで持て囃す。優斗も満更ではない顔だ。
「既に勇者は分かりましたが一応他の方も職業を見ておきましょう。」
宰相の声でその後も一人一人職業を見ていった。弓使いや魔法士、剣士、毒使いなどどの生徒も戦闘に特化した職業ばかりであり、特に来栖は狂戦士、真城は宰相と同じ大魔道士、北条は精霊使いなど珍しい職業を引き当てていた。
中でもそれ以上に勇者と同等の価値がある職業を引き当てたのが星見で彼女は聖女だった。ステータスの能力値もレベル1にしてはとても高いらしくほかのクラスメイトたちが各能力値10~20の間であるのに対して星見は高いもので既に50以上あるようだった。これには嬉しい大誤算というように宰相は目を見開き、ずっと微動だにしなかった国王と王妃も思わずと言ったように立ち上がり口元をにやけさせていた。
あっという間にクラスメイトや国王、王妃、宰相などに囲まれた星見は人混みの中から顔を出し、助けてというような目線を送ってきたが俺にはどうしようもないのでそっと合掌しておいた。
そして星見がわちゃわちゃされている間に残りの生徒たちも順番に職業を見ていきやっと最後の俺の番が来た。
ちょっとワクワクしながら水晶に近づきそっと手をかざす。その瞬間、なにか声が聞こえた気がしてバッと周りを見渡すが特に変わったことはなく、まだ星見がもみくちゃにされてるだけだった。
気のせいかと思い水晶に目線を落とすとそこには俺の職業が写し出されていた訳だが……。
【マスター】
(???)
思いもよらない職業?に首を傾げていると宰相が寄ってきた。
「マスター?初めて見る職業ですね。どんな職業なんでしょう。すみませんがステータスを見せて貰えますか?」
「…分かりました。『ステータス』」
宰相に促されステータス画面を開く。すると目の前に薄い青色の板が写し出された。
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【名前】柳颯汰
【職業】マスター
【レベル】1
【能力値】
HP10/10
MP10/10
SP1
筋力:1
攻撃力:1
防御力:1
敏捷:1
【スキル】ガチャ
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出てきたステータスに唖然とする。
「……なんで、」
「えっ!柳、能力値オール1じゃん!まじウケるんだけど」
来栖が近くに寄ってきて俺の肩に腕を回しながらステータス画面を覗き見て嘲笑する。
「スキルがガチャって他のみんな戦闘系なのに柳だけ異世界に来てもゲーム??超お似合いじゃん!」
「柳〜、さすがにないわ〜!頼むから私たちの足を引っ張んないでよ?」
「魔王軍討伐という目標に向かってみんなで一丸となって戦わないといけないのにその能力値とスキルじゃ例えレベルが上がったとしても無理じゃないかな。心苦しいけどみんなのために僕が代表して言うよ。君は僕たちの仲間に相応しくない。」
(いや、そんなことを言われても俺にどうしろと。)
天野の声を皮切りに次々とクラスメイトたちも同意の声を上げていく。
「ふむ。戦闘向きの職業ではなく、かと言ってサポートとしても役に立たないということですね……。これは困りましたね。今王国は1人も余分に養う余裕が無いのですよ。ですが、あなたでも唯一役に立てることがあります。」
ニヤッと口元を歪ませる宰相に嫌な予感がする。星見もさっきからずっと反論をしようとしてくれてるのだが北条達に体や口元を抑えられて身動きが取れないようだ。
「現在この国は魔王軍に進行されていると申しましたがある取引で何とかその進行を遅らせているんですよ。それは1ヶ月にに1度、職業をもつ人間を生贄として魔王軍に捧げることです。今までは罪人や奴隷から職業持ちを捧げてきましたがそもそもこの国では職業を持って産まれてくる人自体が少なく、そろそろつきかけていたんです。それに魔王軍と戦えるのも職業持ちだけなので戦闘向きの職業持ちを捧げるのは国としても痛手なのですよ。」
宰相の言葉からもう何を言いたいのかが分かり、ここでもやっぱり同じなのかと怒りよりも失望と虚無感が襲ってきた。
その後の宰相の言葉は耳に入らなかった。ただ下卑た笑みを浮かべた宰相と扇で口元を隠して冷めた目でこちらを見下ろす王妃、ただただ無感情な目を向けてくる国王、そしてくすくすと笑っている天野たちと自分は関係ないとばかりに目を逸らすクラスメイトたち。ただ一人、星見だけが目に涙を浮かべながら必死にこちらに向かって手を伸ばしていた。
そしてこれは餞別ですと金貨の入った袋を俺の手に握らせ、宰相が呪文を唱えると来た時と同じように今度は俺の足元だけが光出し次の瞬間にはまた見たことの無い場所に俺1人だけが佇んでいた。




