16話:楽し〜
「じゃあ、始めよっか!」
俺の合図を皮切りに2人とも一気に前に飛び出す。それに反応して魔物たちもこちらに向かってくる。
「マスター、もう転ばないようにねっ!」
「わかってる!同じ失敗はしないよ!」
ここは森の奥で最初に転びかけた場所よりもさらに足場が悪い。日当たりが悪いために地面はところどころぬかるんでいるし木の根っこも地面から飛び出しているところが多い。加えて軽く斜面にもなっている。生えている木々も1本1本が太く魔物の姿をすっぽりと隠してしまえる。
前後左右から攻撃を仕掛けてくる魔物たち。それら一つ一つを足場も確認しながら避け、逆に攻撃を加えていく。
(ゲームでは足場とか環境の情報があったけどいつも気にせずパーティとか組んでたな。実際に戦うとこんなにも難しいのか。)
少しでも足の接地面を間違うと足を滑らせたり木の根に足を取られてくじいたりする可能性がありそうなると魔物の攻撃を喰らいかねない。
(こういう所で2人が言うように経験の差が出るんだろうな。)
慎重に、でも確実に最小限の動きで攻撃を避けながら魔物を倒していく。まだ足の接地の仕方、重心の置き方、関節や筋肉など体の動かし方が見についていない今、下手に大きく動くと本当に転んでしまいかねない。
同時に魔物をよく観察し動きを予測する。だんだんと目も慣れてきて奴らが次にどう動くのかどう攻撃してくるのかが分かってきた。
(ワーウルフが右に1体、ホーンラビットが右側に2体と後ろに1体か。後ろの1体はまだ着地できていないから攻撃まで数瞬猶予がある。ワーウルフは重心が後ろにあるから飛びかかってくるつもりかな。でもこっちもまだ飛ぶには数瞬時間があるし先に攻撃が来るのは右側2体かな。頭の角を飛ばすつもりか。それなら...)
この短時間の観察でホーンラビットは頭の角を飛ばす際耳が少し後ろに傾くことが分かった。そして右の2体はちょうど耳が後ろに傾き角を飛ばそうとしている。ホーンラビットの角は頭から出ている部分は10センチほどだが全長は25~30センチ程あり、その小さな体、特に頭のどこにそんな長さが埋まってたんだと言いたくなる。しかも頭から発射された角はほぼ銃弾と同じ速度くらいあり、当たると一溜りもない。(恐らく身体に風穴が空く。)見た目は普通のうさぎにつのが生えているだけのような可愛らしい形をしているのに戦闘になると顔つきから変わり角の攻撃も相まってとても恐ろしい。
まあ、角は真っ直ぐにしか飛ばないため発射される瞬間の頭の向きをきちんと見ていれば避けることは簡単だ。
ホーンラビットが角を発射する直前に自分とホーンラビット、ワーウルフが一直線上になるように場所を移動する。そしてホーンラビットがこちらに頭の向きを変えて角を発射させると素早く体をよじって避け、角を発射して無防備になった2体を剣で一閃。血が飛び散り2体が身体から力を無くすと同時に後ろからドサッと言う音が聞こえた。
(上手くいったな。)
後ろを見るとワーウルフの頭に見事に角が2本刺さっており、絶命していた。それを確認後、こちらに飛びかかってきたホーンラビットの角部分を剣でいなし、そのままかえす剣でホーンラビットを一刀両断した。
(いい感じにステータスも上がってきてるな。とうとう骨まで難なく断ち切れるようになった!)
「マスター、高く毛皮を売りたいなら首を狙えよぉ?胴体から真っ二つにしちまうと値段が半減するぜ?」
「あ、そっか!ごめん楽しくなっちゃってつい。気をつける!」
カイが次々と魔物たちの首をはね飛ばしながらこちらに声をかけてくる。
(凄い、無駄な動きが一切ない。まるで舞を踊ってるみたいだ。)
首を飛ばしながら踊るというのも物騒な話だが優雅で綺麗に見えてしまうのだから不思議だ。
と、そんなことを考えている間にもどんどん別の魔物が襲いかかって来るので首元を狙って対処していく。
(うん、だんだんこの環境にも慣れてきたな。)
足を運ぶ時の重心移動剣を振るう時の筋肉や関節の動かし方など2人の動きを見て学び修正していく。
「マスターがどんどん進化してる...。上達するの早すぎない...??」
「ははっ!さすが俺たちのマスターだなぁ!俺らも負けてらんねぇぜ!」
あれだけいた魔物たちも3人の前ではかたなしであっという間に全部倒しきってしまった。
「はぁ〜、楽しかったぁ〜!」
周囲は血の海で魔物の死体がゴロゴロと転がっている。そんな中いい笑顔でグーッと伸びをする颯汰。服は魔物の血肉でぐちゃぐちゃだ。
「さすがにこの格好では街に戻れないな。一旦スフィーダに戻って着替えようか。」
冷静に自分の出で立ちを見るととてもじゃないが人前には出れない。恐らくあちこちから悲鳴をあげられることだろう。
ふと2人を見ると2人もあれだけ派手に魔物の首を切り飛ばしながら戦っていたのにほとんど血を被っていないことに気づいた。
「なんで2人はそんなに汚れてないの?」
「ん?ああ、コツがあるんだよ。今度また教えるよ。」
「それよりマスター、解体手伝ってくれ!さすがに量が多い!」
カイから要請を受け慌てて解体作業に加わる。さっきやり方を学んでおいてよかった。
ようやくカイと解体作業を終え(レオンも頑張ってはいた...)スフィーダに帰還した。
「あー、お風呂に入りたい〜。」
血みどろになったのだ。清拭だけで我慢できるはずがない。
「お風呂なら入れるよ?」
欲望を駄々流しにしているとレオンから思ってもみない言葉が聞こえてきた。
「え?」




