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50 プレゼン

 料理屋にはそれぞれが思い思いの服装で来ており、正行の東洋の長袖アロハとリサのスカジャンが目立つこともなかった。一堂に介したファミリー・メンバーは古参のものから、比較的新しい正行と同年代のものまでおり、全部で二十七人だった。主税や山科はとうに六十歳を超えているはずなのに五十歳そこそこにしか見えなかった。


 正行はおよそ一時間かけて研究内容に関してのプレゼンテーションを行った。大抵は機能が著しく低下した臓器に対する修復が主であった。それには悪性新生物が発生した臓器に対する遺伝子学的な治療も含まれていた。また、外観上の若返り、要するにアンチエイジングに関する説明もあった。その後、質疑応答が行われたが、実際に正行が画像や言葉を用いて伝えた内容に関する質問は少数であった。


 最も多くの人が興味を示したのはアンチエイジングを行う場合になぜ他の単一臓器の修復よりもより煩雑な過程を踏まなければならないかということだった。


「外観的な修復を行う場合、色素斑の消失や小皺の改善といった皮膚内だけで起こっている事象に対して処置を行う場合を除いて、必ず皮膚の支持組織の修復が必要になる。それはいわゆる軟部組織全般に及ぶが、こと横紋筋のアンチエイジングを行った場合には筋力の増強が伴う、今のところ一部の横紋筋のみを修復する技術はない。これは心筋の増強も必然的に生ずることを意味する。現在の生活を維持するだけでは問題にならないものの、人は欲深いものなので、心機能が改善されれば行動範囲も広がり、運動量も増える。そうなってくるとさらに筋力が増強され、それを支持する骨や付帯する靭帯、関節円盤などが耐えられなくなる。また、運動に伴い排泄される有害物質の代謝が追いつかなくなる。当然、酸素消費量も増えるので呼吸器の増強も必要になる。アンチエイジングはもともと健康な人に行うものなので極めて繊細な全身臓器への対応が必要となる。そのため過程が複雑になり、どの程度の年齢を目標にして行うのかが重要になる。当然、価格が高くなるのはいうまでもない」


「価格が高くなるというのはその分収益も増加するということか?」


「それは価格の付け方によるので一概には言えない。たとえば二十代から五十代くらいの比較的軟部組織や骨の老化が少なく健康な個体であれば十歳程度皮膚年齢を戻しても特に全身臓器への対応を行わなくても骨折や腱断裂など重篤な問題はほとんど発生しない。しかし、八十代以上の個体に二十歳以上の皮膚年齢の還元を行えば高率にそれらの問題が出現する。お手元にある資料の十七枚目を見ていただきたい。これは八十代男性と四十代男性それぞれ三百個体に対し、皮膚、皮下組織、横紋筋のみ二十歳程度還元した場合の有害事象の発生率を三年間に渡り追跡調査したものである。年月が過ぎるに従って有害事象の発生率は減少するが、これは逆に身体機能が皮膚組織等に順応していった証左ではある。ただ、これは私の主観ではあるが、全身臓器の還元を行わなかった個体群と比して当然老化は早くなる。ただ単に収益のみを考えれば皮膚年齢の還元と全身臓器への対応を同時に行わないことがいちばんの選択ではあると思う」


「特許番号:NZ-20**-******01から23までの機械に関してお聞きしたい。これはいわゆる人工心臓で間違いないか?使用実績は?装着後の抗凝固剤の使用はどの程度必要か?電池寿命はどのくらいか?」


 正行はすぐにパソコンから画像をスクリーンに投影した。


「ご指摘通りこれは人工心臓の本体である。ヒトでの使用実績は少ないが、ブタに対する使用では術中死を除けば正常稼働率九十四から九十七パーセントくらいで、数値のばらつきは改良がある程度進んだことに起因する。ヒトに対しての適応は五十七例しかないが、適応を開始から十一年で死亡例は九例、死因は事故死、悪性腫瘍の発生、慢性呼吸器疾患などの人工心臓とは直接関係のないものに限定される。抗凝固剤は原則的に必要としない。ブタにおける実験では抗凝固剤を使用した群と使用しなかった群の間に有害事象出現率の優位差はない。ただ、安全性を重視するならアスピリン百ミリグラム毎日くらいを投与するのが望ましい。電池寿命は半永久的に使用できる。ただし、補助電源に関してはこの限りではないが、通常の生活を行うのであれば補助電源は充電さえ行えば、これも半永久的に使用可能だ」


「特許番号:NZ-2058-******34から以降の塩基配列は何のためのものか?また、構造的に側鎖、もしくは直線的に塩基配列が延長できるように見えるが、これは何のためか?また、頭文字がUSで始まる塩基配列は何のためのものか?」


「まず、側鎖をつける位置は四箇所あるが、このどの部分に側鎖をつけるかで概ね五年程度の外観上、機能上のアンチエイジングが可能になる。たとえ側鎖をつけなくても二十五年以上の若返りはできないようになっている。要するに側鎖はどの程度損傷した塩基配列を修復するかを規定するためのものだ。機能を終えた抗老化遺伝子は同時に産生されるタンパク質により破壊されるので、若返りの処置がされたこと自体は解明不能になるが、極端な外観上の変化は社会的に問題が生ずる可能性が高いので、これ以上の外観上のアンチエイジングはできないようになっている。また、これ以上の外観上の変化を求めるものにはむしろ使用しない方が望ましい。加えて臓器に関しても若返りと共に個体の寿命も伸びることになる。そうなると戸籍や出生証明書との整合性が取れなくなる。延長が可能な部分に接着するのは標識された個体に対して人為的に発癌を促し、処理するための塩基配列で特定の電離放射線に対して過敏になるよう作成されている。万が一、アンチエイジングを行った個体が問題行動を起こすか、起こす可能性が高い場合に消去する目的で使われる。そのため一般的には使用する必要がないが、念のためと考えていただきたい。標的臓器は使用する塩基配列により任意に設定できる。たとえば肝癌を誘発させたければ電離放射線に脆弱な細胞を肝に集積させれば良い。これはあくまで特定の電離放射線に対して脆弱性を示すだけで通常は他の肝細胞と同様に生命活動に寄与する。また、それらの塩基配列は通常人体に存在するものと酷似しているので、その個体の全ゲノム解析でも行わない限り発見されることはない。発見されたとしても突然変異とみなされる程度の差しかない。このような性質を持つため、延長鎖は言うまでもなく特許登録はしていない。そもそも延長鎖を接着して使用する必要がある個体にはこの治療法を行わない方が良い。頭文字がUSで始まる塩基配列は既存の特許を侵害することなく、同等の効果を生み出す性質のものである。すなわち特許を侵害することなく抗老化作用を示すゲノムであるが、これらはここにいるリサが開発したもので、この両者を所有することで私たちファミリーの抗老化遺伝子治療は盤石のものとなり、よほど遺伝子工学が発達しない限り特許を侵害することなく、これを行うことは不可能である」


「これらの治療を行うことで従来の移植を中心とした治療の必要性はなくすことが可能か?」


「それなりの正常に機能する細胞が残存していれば機能の改善は可能であるが、ある程度以上の細胞が破壊されていたり、物理的な損傷等で臓器が取り除かれてしまっていたりした場合には不可能である。もちろん、in vitroで臓器を作成すればできないことはないが、時間とお金がかかるので現実的ではない。そのような場合は移植を行い遺伝子操作で免疫反応を抑えた方が容易であると考える」


「特許の使用料はどのような形で支払えば良いか?」


「特許はすべてファミリー共有の財産である。従って特許料が発生することはない。また、使用に関して手伝いが必要な場合は私とリサが全力を持って協力をするにやぶさかではない。なぁ、リサ」


 リサは正行の腕を取り、Sure, hon、と言った。


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