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40 大阪(おおさか)

 帰阪後、三木はすぐに大阪府警に連絡して無犯罪証明をとり、市役所で必要書類を集め、猟銃の所持許可を返納して人心地ついた。


 クリスマスが近くなると主税や蓮水から食事の誘いがあったが、恋人同士で過ごすクリスマスを邪魔するのもどうかと思い断り、一人でケンタッキーを買った。もともと、有情がクリスマス・ディナーやカウントダウンなどの人の多い場所を好まなかったので、クリスマスを一人で過ごすことには慣れていた。その流れで大晦日や元旦に出かけることもしなかった。


 年が明けてしばらくしてから主税から新年会を兼ねて三木の送別会をするというメールが来たので、これには参加した。新年会兼送別会には主税や利太、諏訪、蓮水、そして医療系のメンバーと古参のメンバーが集まった。新年の挨拶が終わると主税が聞いてきた。


「東京ではえらい豪勢な食事と高い買い物してくれたな。なんで三日しかおらんかったのに二千万もいるんや?」


「それは莉子ちゃんがロレックスの時計をお揃いで買お言うたからや。仕方がないやないか」


「お揃いで買う言うてもせめてスチールベルトにしたらどうやねん。ホワイトゴールドもスチールもたいして見た目かわらんやないか。そもそもそれぐらい買うお金は二人とも持ってるはずや。それに、時計の分を差し引いても四百万は使うてた。一体どんな神経してるんや」


「いや、私はスチールベルトにしよて言うたんやで。でも、奈央ちゃんがせっかくやからホワイトゴールドにしよ言うて。しかも、ロレックスの時計をお揃いで買お言い出したんは奈央ちゃんやし」


「もちろん、それは分かってるがな。莉子ちゃんはまぁええわ。奈央や。N国でこれからビザ取るにもお金がかかるんや。その辺をわきまえてもらわんとビザ降りへんぞ」


「せやから、ファミリーのカードで買うたんやないか。あんまり自分のお金を使いたなかったしな。餞別やおもて大目に見たらどうや」


「それとパソコン。なんでこんな高いのがいるんや。莉子ちゃんは仕事でいるかもしれんけど、奈央はどうせ簡単な検索とストリーミングで動画見るぐらいしかせんやないか。それに細密なデザインやら高度な設計をするのに使うような超高性能なモバイルワークステーションがいるはずないやろ。うちの会計事務所でもMac Miniしか使うてないぞ」


「私は昔からMacbook Proを使うてるんや」


「それにしても普通に使うんやったら三十万も出せば買えるやろな。大体なんでメモリーが百二十八ギガバイトもいるんや。十六ギガバイトか、多くても三十二ギガバイトもあれば大概なんでもできるのにゲームすらせんやないか」


「うるさいなぁ、メモリの多寡ぐらいでいちいちケチつけんといてくれ。多いに越したことないやろ」


「それだけでMacbook airが一台買えるやないか。パソコンなんか3年、長くても5年したら新製品が出てきて、どうせ買い替えるんや。安い新製品の方が性能ええに決まってるやろ」


「子供ができたら写真や動画をいっぱい撮って編集したりするんや。それぐらいの楽しみはあってええやろ」


「何を取らぬ狸の皮算用してるねん。もうええ歳やねんからまともな卵子が取れるかどうかもわからんやないか」


「あー、加奈さん。あんなこと言うてるで。ほっといてもええん?どう考えてもコンプライアンス的に問題のある発言やし」


「私はもう妊娠してるし、その件については個人差もあるやろから特には気にせんけど」


「えー、ほんまか。おめでとう、よかったな。せやけど、ど変態とやさぐれ検事の間の子供や、頭はええかもしれんけど、きっとこれまたど変態に決まってる。そやから言うてちゃんと可愛がって育てなあかんぞ。どうせ、まだ結婚もせんうちから手錠でもかけて避妊もせずに突っつき回したからできたんやろ」


「ちょっと、奈央ちゃん。それは酷過ぎへんか?」


「いや、これは賛辞と愛情表現や」


「ようもまぁ、それだけ下品で失礼なことがすらすら口ついて出てくるもんやな。まぁ、ありがとう。それはそうと書類と銃の件はちゃんとしたんやろな?」


「うん、それはもう全部揃うてるし、所持許可は返納した」


「ほな、莉子ちゃんは早々に警察署に行って手続きせなあかんな。わからんことはちゃんと教えるから。今からやったら余裕で夏までに間に合うやろ」


「うん、ありがとう。主税さんてほんまににあんまり怒ったりせぇへんねんな」


「そら相手にもよるし、内容にもよるがな。本人も言うてた通り奈央の場合は昔からの付き合いやし、性格もよう分かってる。悪意を持って言うてないことぐらいは分かってるよ。それに多少カードの使用量が多かったところで本気で回収したいなら家賃からちょっとずつ回収したらしまいや。怒るいうのは体力と気力がいるんや。しかもお互いに信頼がなかったら関係性すら壊しかねん。それに奈央はリミットを知ってる」


「リミットって?」


「うーん、例えがあんまりようないかもしれんけど、たとえばトラやライオンみたいな猛獣とじゃれあったり、ワニの口に頭突っ込んだりする人がおるやろ。そういう人らはどの程度のことまでやったらそれをしても自分が危険な目に遭わんいうことがわかってる。たとえば今回みたいに普通は買わんようなペアウォッチを買ったとしても、それはこれから全く知らん土地に行って一人で暮らさないかんから、自分が全面的に心を許せる莉子ちゃんと少しでも繋がりを持っていたいいう気持ちの現れや。しかも、行ったところでちゃんとビザが下りるかも、父親の冷凍精子を使うて子供ができるかもはっきりした保証はないんや。まぁ、弁護士が引き受けた以上はおそらく大丈夫やいうのはわかってるやろけど、不安もあるやろ。他に友達がおるにせよ、その友達に個人的なことを全部話せるわけもない。そんなこと言うても敬遠されるか、信じてもらわれへんだけやしな。それより女性物の服やらバッグがうちに山ほど届いてるけど、あれはどうしたらええんや?」


「ええっ、服はともかくバッグなんか送ってないで。だいたい、そんなもん送る理由がないやないか」


「届いてるんやから仕方ないやろ。どうせネットで買いもんしてちゃんと住所を修正せんと送ったんやろ。邪魔になるからさっさと取りにこいよ。せやないと犬がシッコかけてかけてするぞ」


「刺繍を入れたいのがあるから服は置いていってええか?」


「どうせN国に行くまで暇やねんから莉子ちゃんと刺繍屋に持って行ったらええやろ」


「いや、そうもいかんのや」


「何がやねん?莉子ちゃんの服に下品な刺繍でも入れるつもりか?」


「N国に行くまでに完成せんかったら困るからや」


「その分だけうちに送ってくるようにしたら済む話やないか」


「うるさいな。ほなそうするからそれはN国に送ってな」


「それはちゃんとする」


 新年会兼三木の送別会は主税の口上と三木に対する送辞で始まり、続いて三木の答辞があった。


「奈央、他のお客さんもおるんやから、ファミリーという表現、違法行為の逸話、極端に下品な話は禁止やからな」


「わかってるわ。心配せんでもええ、ちゃんと話す」


「うん、あんまり長ならんようにな」


「本日は主税さんをはじめ、多くのみなさんの列席のもと、このような送別会を催していただいたことに、心より感謝します。振り返ってみると、みなさんと過ごした十四年間は瞬く間に過ぎて行きました。その中で私は、今は亡き有情先生の指導のもと、普通では考えられないような体験をし、様々な知恵を得ました。そして何より、かけがえのない多くの仲間を得ることができました。そのみなさんと共に仕事をして、そして技術の研鑽に励んだ時間はとても楽しく、意味のあるもので、たくさんの贅沢もさせていただきました。N国への出立に際して新しい期待を覚える一方で、みなさんとの別れに、寂しさを感じずにはいられません。もっとも、私がN国に行くことになったのは先生の追悼会で粗相をしてしまったからに他なりません。この場を借りて当事者のれなさんには深くお詫びいたします。しかし、いつまでも過去に囚われることは私自身にもみなさんにとっても有益なことではありません。程なくして私はみなさんと少し違った道を歩き始めますが、その前途には未解決の問題が山積されています。医療事情がめぐるましく変化する昨今、私たちの果たすべき役割も、少しずつ変化していくものだと思います。私たちは海外での活動や国内での経験から得た知識・技術を元に、互いの分野を理解し協力し合い、これから対峙する様々な課題に立ち向かわなければいけません。思えば十四年前のあの日、仕事から帰宅すると寮の前に大きな白い車が止まっていて、その車から降りてきた酒井、もとい山科瑠美さんに声をかけられたのが始まりです。はじめは警察に通報しようかとも考えましたが、吸い寄せられるようにその車に乗ってしまいました。みなさんがどのような経緯で入社したかは計り知ることはできません。今思うとそれは贖いようのないことだったのだろうと思えてなりません。しかし、今日、このような場にいるということはきっと私にとってはもちろん、みなさんにとっても素晴らしいことだと確信しています。最後になりましたが、山科・有情両先生のご指導、そして暖かく見守ってくれた家族があって初めて、本日、N国への出立を告げる日を迎えることができました。私を支え、導いて下さった全ての方に心より御礼申し上げます。そして、皆さんのご健康と更なるご活躍を願い、答辞と致します」


「どないしたんや?ちゃんと話せるやないか」


「当たり前やろ。社会人十六年もしてるんやぞ」


「よっしゃ、まぁ、知ってる人も多いとは思うけど、今月の半ばすぎに奈央はN国に行くことになってるからな。住む場所も決まってるから会おう思うたらすぐに会えはするが、なんせそれなりに遠いからな。俺も先月行ってきたけど、敷地内に射撃場もあるし、川やら、湖もある。冬場はスキー場もすぐ近くにあるらしいから行ける人は行ってみる価値はあると思うで。莉子ちゃんと利太、たまには前に出てきて乾杯の音頭取ってや」


「えっ、俺、なんで?」


「いや、莉子ちゃんだけでもええんやけど、利太がおるからみんなが安心して仕事できるんやから、たまにはええやないか」


「おん、ええよ。ほな、莉子ちゃん、行こか」


「私も色々ご迷惑やご心配をおかけしてしまいましたが、改めて新年明けましておめでとうございます。それと奈央ちゃん、また遊びに行くから気をつけて行ってきてね。じゃぁ、みなさん、乾杯!」


 こうして新年会と三木の送別会が始まった。


 しばらくすると皆酔いがまわり、結構な騒ぎとなった。会は十一時過ぎまで続き、散会となった。


 三木は主税と諏訪、利太、蓮見に見送られ、一月十八日に日本を立った。

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