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38 電話(でんわ)

 帰りも何度か運転するものが交代して無事にファームハウスに戻ってきた。四人で三木が茹でたイセエビを肴にワインを飲んでいると農場の固定電話がなった。


「誰やろ?」


たまたま三木がトイレに行っていたので主税が電話に出た。


主税は流暢なアメリカンアクセントで話した。


「はい、スリーパインズ・ステーションです」


「あぁ、主税君。こっちにきてたんや」


「あっ、美和子さん。先日は面倒な書類ありがとうございました」


「こっちにはいつまでおるん?」


「私らは会計事務所の年末の締めやら忘年会がありますんで、明々後日に帰ります」


「それならええけど、あの子らはいつまでおる予定や?」


「はっきり知らんのですわ。今、奈央がトイレ行ってるんで出てきたら代わります」


「どっか観光には行ってきたんか?」


「ええ、今日もカイコウラ行って、買うてきたイセエビ食べてますねん」


「おいしそやな。長いこと行ってないわ」


「ええ、向こうでも食べはしましてんけど、佳奈がまだ食べたらんいいまして」


「あの子らクリスマスをこっちで過ごすつもりやないやろな?」


「ちゃんとした予定聞いてないからわかりませんて。今、奈央が戻ってきたから代わりますわ」


 程なく三木が用を済ませて出てきたので主税は受話器を差し出して言った。


「美和子さんから」


「えっ、なんやろ?」


「なんか予定のこと聞いたはったで。代わって」


「もしもし、三木です。いろいろ書類集めていただいてありがとうございました」


「あぁ、奈央ちゃんか。それはええよ。ちゃんと協力する言うたやろ」


「ありがとうございます。どないしはったんですか?」


「大したことやないねん。あんたらクリスマスと年末年始はどないするんや?」


「クリスマスはCCに行ってご飯でも食べて、年末年始はカウントダウンにでも行こか思うてます」


「こっちのクリスマスと年末年始は日本とはちゃうからな。CC行ってもどこも店開いてないで。どうしても農場で過ごしたい言うんやったら別に構わんけど、十二月中頃から一月の中頃までは国中おやすみ気分で、おっても意味ないから早めに帰って日本で楽しんだ方がええで」


「えぇ、そうなんですか?知りませんでした。クリスチャンの国やからてっきり盛大にクリスマスを祝うんやと思うてました」


「そら祝いはするやろけど、家族でな。あんまり外食したりはせんよ。伝えたかったんはそれだけや。早めに帰って無犯罪証明とか、他の書類を集めて、年明けてからゆっくり来たらええよ。どうせ弁護士も休暇で一月の中頃まではおらんやろしな」


「わかりました。ありがとうございます。私らも主税さんらと一緒か、すぐ後に帰ります」


「うん、それがええ。道中、気ぃつけてな」


「はい失礼します」


三木は電話を置いた。


「美和子さんなんて?」


「いや、大したことやない。クリスマスまでに帰った方がええて」


「なんでや?」


「こっちのクリスマスはみんな家族で過ごすからおっても楽しないし、早めに帰って年末年始は日本で楽しんだ方が有意義やて」


「それだけか?」


「それだけや。まぁ、一月の半ばぐらいまでに書類を揃えておけみたいなことは言うてはったけど。せやから私らも主税さんらと一緒に帰るわ」


「なんでわざわざ俺らと一緒に帰るんや。佳奈と二人でおるんを邪魔するつもりやないやろな」


「そんな無粋なことせぇへんがな。ちょっとレンタカーに乗せていってもらうだけや。せっかくやから東京観光もしてみたいしな」


「怪しげなところに行くなよ」


「行かへん。秋葉原でパソコン買って、アメヤ横丁でジャケット買うて、どっかおいしいレストラン行くだけや。莉子ちゃんがどうしても行く言うたら多少は怪しげなところに行くかもしれんけどな」


「そんなとこ行くわけないやろ。大体、そういう怪しいとこが好きなんは自分やないか。私もパソコン、新調しよかな。四月から仕事やし」


「パソコンいうたらMacがええぞ。使いやすいし」


「いや、汎用性に問題があるやろ」


「汎用性て、家で使うパソコンなんか、調べもんしたり、映画見たり、せいぜいちょっと文章書くぐらいやないか。どうしてもウィンドウズ入れたかったらパラレルデスクトップ入れたらええし。MacやったらMac OSも使えるし、ウインドウズも使えるけど、ウインドウズパソコンやったら、ウインドウズしか使えん。莉子ちゃん、世界で一番性能のええ、ウィンドウズが動くパソコンは何か知ってるか?」


「何やろ?やっぱりサーフェスかな?」


「違う。おかしな話やけど、Macが最強や言われてるらしい」


「ほんまかいな。まぁ、実機見てから考えるわ」


「うん、一緒に見に行こ」


「帰りの便、予約変更できるかな?」


「わからんわ。せやけど、奈央ちゃんはどうせまた帰ってこなあかんねんから、最悪、スカイカウチを一人で占有してきたらええやん」


「いや、方向が逆やろ」


「あ、そうか」


「普通運賃で買ったから、プラスいくらか払えば大丈夫やとは思うねんけど。ちょっとパソコンで確認してみる」


そう言って三木は有情の使用していたパソコンを開いた。


「変更はできるみたいやな。明々後日の九一便な。二席しか空いてないやないか。主税さんはどこの席や?」


「右側の一番後ろ二つや」


「悪いな。すぐ前の二つや。邪魔するつもりはないねんけど、空いてへんもんは仕方ないな」


「次の日にしたらええやないか」


「そないするとCCの空港まで行くんが大変やがな。なるべく邪魔はせんし」


「自分らとおったらなんとのう落ち着かん」


「そない冷たいこといいないな。当分、一緒に飛行機乗られへんねんで」


「まぁ、せやな。酒飲んで大騒ぎすんなよ」


「私は飛行機の中でお酒飲むんはあんまり好きやないんや。せいぜい、ワイン一杯ぐらいしか飲まへん。莉子ちゃんは知らんで」


「私かてちょっとは飲むけど、騒いだりせぇへんわ。ビジネスクラスは初めてやし」


「ファーストクラスしか乗ったことないんか?」


「違う。エコノミーしか乗ったことないんや」


「なんでや?狭いし、人が多いから怖いやないか?」


「高いやないか」


「莉子ちゃん、言うたれ、言うたれ。父親がわざわざ一人で病室まで言って、奈央のことを頼むで言うてたんはこのことや」


「なぁ、奈央ちゃん。ビジネスクラスとエコノミークラスの座席数はどっちが多い?」


「そら、エコノミーやろ。見たらわかるやないか」


「それはなんで?」


「飛行機がそういう構造になってるからやないのか?」


「そうやないて。たとえば旅行に行くときに旅行先でお金かけるのと、そこまでの移動にお金かけるのとどっちが楽しい?」


「そら旅行先で色々楽しいことにお金かける方がええに決まってるやないか。なにつまらんこと聞いてるねん」


「ようわかってるやないの。大抵の人はそう考えるから、多少、お金に余裕があってもエコノミークラスに乗るんよ。ちなみに座席はオプションやから、飛行機を買うた航空会社が航空機メーカーに言うて好きなように配列できるようになってるんや。ビジネスクラスに乗るお客さんの方が多いんやったらビジネスクラスの座席がたくさんあるような仕様にするやろ」


「あぁ、それで病院の友達と台湾旅行に行ったときに、なんの検討もせんとエコノミー選んでたんやな」


「そんな短距離でビジネスクラスに乗る意味ないやないの。その差額で火鍋何人前食べれるん?」


「あんな辛いもん、そないようけ食べられへんがな」


「たとえばの話やがな。普通はそういうお金の使い方するんや」


「わかった。心に留めとくわ」


「この界隈でもあんまり目立たんようにしときよ。田舎やねんし」


「それは承知してる。私も田舎出身やからな」


 話が一段落したところで主税が提案した。


「実質的に明後日が最終日になるから、ちょっと強行スケジュールになるけど、明日の昼からでもテカポ湖まで行かへんか?星がすごいきれいらしい。巨大なマスもおるらしいし」


「ええで。せやけど、なんで昼からやねん?」


「帰る準備してから出な、帰ってきてからバタバタするやないか。奈央も莉子ちゃんも明日の朝にパッキングしといたほうがええんやないか?」


 翌朝、パッキングは意外と早く終わり、四人は南に向けて出発した。アシュバートンでマクドに寄り、ブランチを食べてテカポ湖に向かった。


 テカポ湖は氷河から流れ出る水のせいで奇妙な色をしていたが、湖畔まで行くと透明度の高い水であった。昼過ぎに着いたので二艘のボートを借り、釣りを楽しんだ。湖での釣りの後は大きなマスがいるという水路まで行った。大きなマスは釣れなかったが、全員が楽しめた。


 主税が言ったように夜空の星は見事であった。あまりの星の多さに南十字星がどれか見つけるのに苦労した。


「奈央、こないに星のきれいなところに住める自分が羨ましい気はする。せやけど、俺らが帰って、今度、ここに来るときは奈央一人や。なるべく頻繁に来るようにはするけど、ずっと居れる訳やない。慣れん農場での生活で嫌なこともあるかもしれん。ビザや永住権がいつ発行されるかも想像がつかん。それでもちゃんとやっていけるか?」


「なんや急に。大丈夫や。そのうち知り合いもできるやろし。何よりも先生が残してくれたもんもある。まぁ、私も三十八になってしもたからうまくいくかどうかはなんとも言えんけど、ビザが降りたらチャレンジしてみる」


「そうか。ちょっと調べてみたんやが、街の入り口あたりにレースコースがあったやろ。あそこで定期的に射撃のイベントがあるらしいから、まずはその辺りから初めてみたらどうや?ただ、スキートが撃てるかどうかはわからんけどな。トラップでも何回かすれば慣れるやろ」


「うん、こっちのライセンスが取れたらすぐに行ってみるわ。あと冬場は観光客も多いらしいし、ときどき街にも出てみるし、近くにスキー場もあるしな」


「スキーなんかできるんか?」


「山陰の育ちやからな。スキーもスノボもそれなりにはできる。射撃ほどではないけどな」


「うん。まぁ、楽しみの一つとしてすればええ」


「それより、ほんまにこっちでも加奈さんとの結婚パーティするんやろな?」


「そうする言うたやないか。そんなことで嘘ついたことあるか?」


「せやな。楽しみにしてるぞ」


「なるべく多く連れてはくるけど、皆、仕事があるからな。どれくらい連れてこれるかはなんとも言えんな」


「二人が来てくれたら十分や」


「さすがにそれは無いと思うけど。れなさんもこっちへくる時期やし、美和子さんはすぐに来れるしな。山科先生と瑠美もくるやろ」


「えっ、山科先生とはあんまり仲ようないんやないのか?」


「そんなわけないやろ。なんでや?」


「そもそも、先生と山科先生があんまり仲ようなかったんやないんか?」


「莉子ちゃんが怪我したときにいろいろ手配してくれたんは山科先生やないか。仲悪いわけないやろ。一体、何をみてるんや?」


「そうなんか?仕事がかち合うからあんまり仲がようないと思うてた」


「山科先生と父親の仕事がどないかちあうんや?父親は摘出、山科先生は移植やないか。ただ、趣味的な部分がちょっと違うだけの話や。だいたい、瑠美と俺が仲ええんやから山科先生と仲が悪いはずがないやろ」

「俵うどんの再移植の件で揉めてたやないか」


「あれは多分、瑠美ががめついこと言うただけやろ。基本的には俵うどんを納得させるためのポーズや。心配せんでもええ。ただ、イセエビのヒゲの話なんかはあんまり理解せんとは思うけどな」


「そんな話、あんまり知らん人にするわけないやろ」


「いや、別にしても構わんのやけど、反応が薄いと思う」


「それはつまらんな」


「普通はあんまり考えんことやからな。そら、瑠美と山科先生がどんなことしてるかはわからんで。あくまでも仮定の話やけど、ちょっと想像もできんような変態的な行為をしてたとしても、それはそれで二人の間での楽しみで、その行為がより変態的あればあるほど人前では言わんやろうし、無関係な第三者に強いることもないやろ。父親でさえ奈央に女性器を示す卑語はあんまり言わんかったやろ?」


「たまには言うとったぞ」


「俺らはほぼ毎日言われて育った。どんなときに言うんや?」


「どんなとき言われてもなぁ。どちらかといえば突然言うてたかな。奈央、ちょっとそれ見せてみろ、みたいにな」


「それでホイホイ見せてたんか?」


「そら場所にもよるがな。家とか、宿泊先とかで言われたら見せたことはあったけど、電車の中とか、れなさんの百貨店とかで言われてもちょっとな」


「そら冗談で言うてるだけやないか」


「いや、真剣な顔して言うてたで」


「ジョークを言うときに本人が先に笑うてたら、聞いてる方がおもしろないがな。そもそも、そんなところで出されたら一番困るんは父親やないか。変な顔で見られるだけならまだしも、通報でもされたら二人とも猟銃の所持許可取り消しになるやろ」


「それもそやな。なぁ、主税さん。私が来年にこっちにくる前に山科先生と瑠美さんと食事する機会作ってくれへんか。なんていうか、私が勝手な思い込みで先生とあの人らが仲悪いて思うとったから、会うて一回話してみたい」


「聞いてはみるけど、あそこも子供が受験やから今はピリピリしてるんやないかな。慌てんでも話す機会はこれからいくらでもあるよ」


「そうか。そんな時期に無理強いするのもなんやな」


「うん。俺の披露宴の時には落ち着いてるやろ。山科先生の都合に合わせてしてもええぞ」


「任せるわ、主税さん。先生と仲が悪かったいうんやなかったら、それでええんや」


「わかった。可能な限り早めにセッティングする」


「ありがとう。せやけど、無理せんでええぞ。いつでも会えるんやさかいな」


「無理はせんよ。人には都合がある」


「山科先生とこのオペ看はどんな人や?」


「黒沢さんか、奈央と違うて普通に見えるけどな」


「銃の扱いはどうや?」


「慎重で的確ではある。せやけど、そもそも銃器に興味がないから自己判断能力と正確性に欠く。要するに撃て言われな撃たんし、命中率も低い」


「何持たせてるんや?」


「スミス・アンド・ウェッソンの.22口径のリボルバーや。フレームがアルミでおもちゃみたいやで」


「そんなん役に立つんか?」


「至近距離で使うたら大丈夫やろ。まぁ、飾りや」


「ところで、なんで黒沢さんが普通で私がそうやないんや?」


「女の子がどんな人かて聞くときは、可愛いんかとか、美人かとか、どないな性格なんやとか、どこの看護学校出たんや、みたいなことを聞くもんで、銃の話から派生したんやない限り、一番に銃の扱いがどうかとは聞かんことが多いな」


「美人とか、可愛いとかは見たらわかるやないか。しかも、女子が可愛いとか、綺麗とかあんまり興味ないし。ちょっと背が低いな。ところで、あんたら親子はなんで背の高い女性が好きなんや?」


「父親は好みや。背の低い美人と背の高いちょっと個性的な顔した人がおったら後者を選んでたと思う。理由までは知らん。利太は背が低いと不便なんやろ。俺はたまたまや」


「山科先生と黒沢さんは、そのぅ、なんていうか、できてるんか?」


「多分な。黒沢さんは旅行先で土産もんを買うときにファミリーのカードを使うんや。仕事で行く旅行先やないぞ。個人的に行く旅行先な。それくらいは全然構わんねんけど、たまたま旅行先の貴金属店で山科先生もファミリーのカードで買い物したことがあるんや。それが黒沢さんのところへ行ったか、瑠美のところに行ったかまではわからんけど、同じ旅行先で同時期に黒沢さんも土産もん買うてた。それだけやないぞ。瑠美の後任になった桑野緑てわかるか?」


「うん、あんまり話したことないけど、顔は知ってる。こんなん言うのなんやけど、さほど綺麗でもなければ可愛くもない子やろ」


「胸が大きいんや」


「そこまで知らんがな」


「桑野さんとも移植学会や言うて北海道にゴルフしに行っとった」


「移植学会やったら二人とも関係あるやないか。ついでにゴルフに行ったんやないんか。せやけど、なんで山科先生の学会の予定まで知ってるんや?」


「そんときたまたま瑠美が俺の会計事務所の近くにある高校の相談日で一緒にランチを食べたんや。そんときに山科先生はって聞いたら移植学会に出張中や言うてた」


「別に流れとしてはおかしないやないか」


「そらまぁ、せやねんけど、そんときの移植学会は北海道やなかった。別にファミリーのカードでゴルフ行くのは構わんけど、パートナー以外と行く時は自分のカードか現金にしてももらいたいもんや。俺は瑠美の方がよう知ってるんやから気まずい気分になる。あの先生のファミリーのカード、取り上げよかな」


「いちいち調べんかったらええやないか」


「そうもいかん。持ち主が使ってる分には多少使っても目ぇつぶるけど、普段そんなに使わんから、万が一、無くしてて悪い奴が使うてたら困るからな。せやから、他府県での使用には注意が要るんや」


「先生もファミリーのカード持ってたんか?」


「普段は持たせてなかった。父親に持たせたらいくら使うかわかったもんやない」


「せやけど、瑠美さんも山科先生が誰とどこへ行ったかは事前に知らされてるんやろ?」


「さっきも言うたようにそれはない」


「先生は誰かには必ず伝えてから行ってたで。最後にキジ狩りに行ったときのことも美和子さんは知ってたやないか」


「それは極めて特殊な例や。ハンティングしてる時に携帯が鳴ったら困るから電源は切るやろ。その間に急用で連絡することもあるやないか。ほな、なんで出んかったんやいう話になって嘘つくんが面倒臭いから事前に言うてただけや。それに高齢やったから逆もあり得る話やないか。実際にはたまたまC国やったから一人で行ってたけど、岩手で心筋梗塞になってたら奈央は誰に連絡するんや?」


「多分、主税さんや」


「ほな俺が美和子さんに伝えなあかんやろ。ほんならこれまたなんで岩手なんかに行ってたとか、誰と一緒におるんやとか、遺体は誰が運ぶんやとかいう話になって面倒臭いやないか。まぁ、美和子さんが寛容やから面倒臭いだけで済むけど、普通はそうやないんや。パートナーが怒って収拾がつかんかったり、いつからそんな関係やったいうて詮索したり、様々な揉め事が起こるんや」


「美和子さんは私がここに来るのにも協力してくれたし、年末年始は日本に帰った方がええ言うてアドバイスもしてくれたやないか」


「せやから、それは特殊な例や言うてるやないか。普通は揉めるんや。具体的に言うたら山科先生は瑠美に黙って黒沢さんと旅行に行ってるいうことや」


「そんなことして出先で事故にでも遭うたら、どうせバレるやないか。だいたい、一人でそんな頻繁に出かけたりせんやろな」


「それは父親が出不精やったからで、出かける人は出かけるんや。奈央がずれとるから説明するんが大変や、ほんまに」


「私がおかしいんか?」


「端的に言うたらそうや。その上、父親もおかしかったから、全然、話が通じんやないか。あのなぁ、昭和の中頃ぐらいまでは父親みたいな人はいくらでもおったんや。それを有名人が不倫騒動を起こすたびにマスコミが鬼の首をとったみたい大騒ぎするから不倫はタブーやいうことになってきたんや」


「あぁ、莉子ちゃんもそんなこと言うてたな」


「大概の人はそういうことをするときはこっそりしてるんや。それが大前提や。せやから、今言うたようなことを山科先生と瑠美の前で絶対に言うたらあかんぞ」


「それは心に留めておく」


「是非そうしてくれ。なんで奈央が知ってるんやいう話になったら、事情を話さないかんようになるから、それこそ仲が悪なってしまいかねん」


「主税さん、色々ありがとう。莉子ちゃん、ほっとくわけにもいかんからそろそろ戻るわ」


「あの二人もどっかで星空見てるやろ。二人とも如才ないからちゃんと会話できてると思うで。まぁ、行こか」


 少し歩くと諏訪と蓮水は主税が言ったように比較的近い場所で星空を眺めていた。


「冷えてきたし、ぼちぼちロッジに戻ろか」


主税が二人に声をかけた。


「なんの話してたんや?」


諏訪が聞いてきた。


「奈央に普通に生活するように伝えただけや。まぁ、普通に生活するいうても無理な話やから、人前では普通にしとけいうようなことや。できるかどうか甚だ怪しかったけどな」


「急に生活変えろいうても無理やろからな」


「自分らは何話してたんや?」


「似たようなことや。まぁ、高校まではご両親と一緒におったし、大学でも特に浮くようなこともしてなかったようやからそれなりには大丈夫やろけど、それ以降は激変してるやろうからな」


「なんか私がすごいおかしいみたいやないか」


「おかしいから何回も言うてるんや」


 四人は翌朝ゆっくりと朝食を食べ、昼過ぎに農場に戻った。瞬く休憩して、その日はスキータイムで夕食をとり、その翌日早朝に日本に向けて立った。



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