36 善導(ぜんどう)
善導
「どないしよかな。とりあえず一ラウンド撃ちたいからリモコンの操作を莉子ちゃんにお願いしよかな。使い方はわかるよな」
「使い方は分けるけど、どこでどう出したらええかがわからんわ」
「莉子ちゃん、ここにジャパンルールと国際ルールのクレーの出方が書いてあるカードがあるから、それに従って国際ルールで出してくれへん、タイマーのかけ方はわかるよな」
三木が言った。
「それはわかるよ」
「ほな先に三人で撃ってくるからちょっと見学しててな」
「わかった。誰が一番うまいん?」
「俺か、奈央や。佳奈も対して変わらん。莉子ちゃん、これを真似せえ言うてるわけではないからな。後で俺と佳奈でちゃんと教えるから。周囲の景色とクレーの軌道を知っとかんと教えづらいから」
「うん。撃ってきて」
「よし、ほな行こか」
「誰から行くんや?」
「奈央は撃った事あるんやろ?奈央から撃ってくれ」
「ええよ」
「ほな莉子ちゃん、行くで」
そう言って三木がコールした。一番射座では誰も外さなかった。三人の射撃はテンポよく進み四十分も掛からなかった。結果は主税、二十二枚、三木、二十三枚、諏訪、二十一枚だった。
「まぁ、こんなもんやろ。全員、二十枚以上やから上出来や。さぁ、次は莉子ちゃんの番やで。銃持ってき。リモコンもらうわ。あっ、この銃を銃架に置いてきて」
「ちょっと、奈央、一枚撃ってみて」
主税はそう言って、三木の真後ろに立ち、顔を頭に近づけた。
「いつでもええで」
「うん」
三木がコールするとカシャンという音がしてクレーが飛び出した。
「臭っ!」
頭が動いた瞬間に主税が言った。
「えっ、なに?」
三木が発砲すると同時に振り返った。クレーは破壊されずに放物線を描いた。
「ちょっと、撃つときに急に声かけんといてよ。外したやないか」
「ごめん、ごめん。頭が動いたらちょっと臭かったんや」
「そこまで臭いわけないやろ」
「臭かってんから仕方ないやないか。息止めとくからもういっぺん撃ってくれ。ええぞ」
「感じ悪いなぁ。ほな行くで」
三木は再度コールし、クレーが発射されると同時に体を捻りながら挙銃動作を開始し、クレーの軌道上に照準を合わせて、ほとんど微調整をすることもなく発砲しクレーを破壊した。
「やっぱりすごいな。伊達にオタクではないみたいやな。せやけど、これを莉子ちゃんにさせようとしたんか?できるわけないやろ」
「いや、莉子ちゃんには挙銃動作はさせんかった。だいたい、褒めてるんかケチつけてるんかどっちや?」
「射手としては褒めてる。指導者としてはいかがなもんかと思う」
「私はこれでずっとしてきたんや。私が始めた頃は先生も絶頂期やかったから、これが最高やと信じて疑わんかったし、すごくかっこよく見えた。先生が歳とって行くに従ってスコアが下がっていくんは辛かった。先生も下手くそやないからある程度のレベルはキープしてたけど、途中からスコアが入れ替わった。その頃になると、先生も一ラウンド中に何回か挙銃が遅れてスイング射法で撃つこともあった。それでも、先生は私がコンスタントにええスコア出すんを嬉しそうに見てくれてた。人は誰でも歳とるんは私も理解してるつもりや。私にもいずれそういう時期が来るやろ。その時は撃ち方も変えなあかんかもしれん。それは仕方のないことやけど、できる限り先生から教えてもろた、先生の一番すごかった時期の撃ち方を踏襲してるんや。莉子ちゃんにもそれを引き継いでもらいたかったんや」
「そうか。確かに初めからリード射法で始める人もおる。奈央みたいに誰かを目標にして追いつけ追い越せでやっていく人もおる。せやかて、誰もが奈央みたいに目標にしてるしてる人と常に一緒に練習できるわけではないんや。奈央は常に父親と射撃場で会うこともできた。それもきっと励みになったんやろ。全員が全員そういうわけにもいかんのや。せっかく始めた射撃でも当たらんかったらやっぱりあんまりおもしろない。そこでそういう人がおらんかってみ、せっかく奈央が大事にしてた銃をあげてもやめてしまうかもしれんやないか。そうなってもたら奈央もつまらんやろ。せやから、今は俺らに任せとけ。それである程度上手になったら奈央が教えたったらええがな。その時は奈央が言うてることも理解するはずや。奈央かて射撃に行けんときは家で挙銃の練習してたやろ。挙銃の練習もしたことない莉子ちゃんにはまだ無理や。わかるな」
「うん。ちゃんと教えたって。ほんで次来る頃には私が教えられるようにしといて」
「それはさすがに無理や。多分、莉子ちゃんはちゃんと練習はするやろ。せやかて、所持許可が降りるんに半年近くかかるんや。来年の夏でもジャパンルールがそれなりに撃てるくらいにしかなってないはずや。それもしょっちゅう練習に行っての話や。もうちょっと待ったれ。そんな状態でもちゃんと褒めたらなあかんぞ。莉子ちゃんが最初に習うたんは奈央や。その奈央に褒められるんがいちばんの励みになるんやからな。奈央もそうやったやろ」
「わかった。今日は任せたぞ」
「今日は一番と七番だけで撃ってもらう。何発撃てるかにもよるけど、なるべく半分は当たるようにはする。挙銃の練習をしてたら良かったんやがな。ずっと肩着けからすると左腕が持たんようになるから」
「大丈夫や。おまじないかけてある」
「それがいちばん当てにならん」
結局、その日、蓮水はなんとか二百発撃ち、最後は十三発当てることができた。終わりの方ではやはり左腕が上がらなくなり、諏訪に後ろから先台を支えてもらっての射撃だった。最後のマークだけは一人で撃ち、当てた。
三木の喜びようは大変なもので、蓮水はハグされた上にキスまでされていた。




