35 いたずら
「人のことオタクみたいに言いやがって」
「でも、自分でもしょっちゅう射撃場に通うてた言うてたやん」
「それは事実やけど、半分は先生に会えるからやがな」
「まぁ、そうかもしれんけど」
「腹立つから主税さんの銃の初矢にフルチョーク付けといたろ」
「危なないん?」
「危なくはないよ。さすがにそんなことはせん。チョークいうたらな、どの程度の距離で散弾がどの程度散開するか決める短い筒やねん。全く絞ってない平筒から四十メートルくらいを狙うフルチョークまであるんや。スキートチョークいうたらほんのちょっとだけ絞ってあるだいたい二十メートルぐらいでベストになるようにな。それは撃つとこからセンターポールまでが一九.二メートルやからな。フルチョークにしたら絞りが効きすぎて近距離で撃つ、一発目がよっぽどしっかり狙わん限り当たらんのや。主税さんも上手やから何発か打ったら気付くやろけど、一発目から外したらどんな顔するか見ものやろ」
「そんなことしたら怒られるんちゃう?」
「そんなことで怒るかいな。多少、愚痴は言うやろけど。明日どんな顔するか楽しみにしとき」
「奈央ちゃんも悪趣味やなぁ」
「それぐらいの悪戯はさせてもらわんとな」
三木はわざわざスキートチョークの付いたH & H Nobleの下の銃身のチョークをフルチョークに変更した。
翌朝、三木が目覚めると諏訪がパンケーキを焼いていた。
「おはよう、奈央ちゃん。今日はホットブレックファーストにしたよ」
「おはよう、佳奈さん。佳奈さんが料理できるなんて不思議な気分や。焦がさんといてな」
「失礼やな。私はスーパーの娘やで。それぐらいできるわ。嫌味なこと言うんやったら奈央ちゃんにはグラノラ食べてもらうで」
「いやいや、せっかく作ってもろたもんは粗末にせんようにしてる。それより、昨日、主税さんの銃の初矢にフルチョーク入れといたから、一番で外すで」
「意地悪やなぁ。まぁ、黙って見てるけど、初めての銃やから一発目はしっかり狙うて、はずさんと思うし、どうかしたらクレーの割れ方だけで気付くと思うで。人生の半分以上射撃してるんや。フライかて見てたやろな」
そうこうするうちに主税、蓮水も起きてきて会話に合流した。
朝食を終えると4丁の銃と充分な数の装弾をトラックに積み射場に向かった。
「莉子ちゃん。奈央の撃ち方はすごい合理的な撃ち方ではあるんや。せやけど、照星の真上にクレーを捉えるいう段階を省いて、次弾を早めに発射できるようにしてるから、慣れてなかったら狙う位置が上下にずれたり、前後にずれたりするんや。奈央は父親から最初からそれをするように言われて、根気よう続けて、今ではクレーの軌道をちゃんと理解してるし、体も慣れてるからちゃんと当たるんや。ただ、最初からそれをせぇ言うてもなかなか難しい。何よりも当たらんかったらおもしろない。今日はスイング射法いうて、まず、クレーをきっちり照星の上に捕まえて、追い越してから撃つ方法を教えるからな。それがきっちりできるようになったら、あとは奈央のやってる撃ち方に変えても、そのままスイング射法を続けてもかまへん。言うまでもなくどっちの撃ち方でも満点は出るからな」
「ようわからんけど、よろしくお願いします」
「うん、奈央みたいに具体性に欠いた教え方はせんから安心し」
射場に着くと四人は銃を組み立て銃架に置いた。
「俺と佳奈とは初めての銃やから、ちょっと何発か撃たせてな」
「ええよ。どない撃つ?」
「普通にタイマーかけて国際で飛ばしてくれてええよ」
「わかった」
主税と諏訪は十発ずつ装弾をポケットに入れ、三木はリモートコントローラーを持って、一番射台に向かっていった。
「佳奈から撃って」
「うん」
二回のコールと三回の銃声が響き、全弾命中した。
「大丈夫そう。DT11とさほど変わらん感じ。ほんのちょっと軽いかな」
「よし、俺も撃ってみよ」
主税が射台に入りコールした。クレーが飛び出し、すぐに発砲した。クレーは諏訪が当てた時よりもバラバラに壊れ、四散した。
「なんやこれ?なんであんなにバラバラになるんや?まぁ、ええわ」
そう言って二度目のコールをした。後ろから飛び出したクレーには当たらず、前から飛んできたクレーは綺麗に割れた。
「えっ、なんで?ワッズちゃんと飛んでた?」
「ワッズはちゃんとクレーに向かって飛んでたよ」
諏訪が笑いながら言った。
「雑念が多いんやないか?」
三木がニヤニヤしながら言った。
「二人とも何笑うてるんや。なんかいらんことしたな」
主税はバレルセレクターを操作し、初矢が上の銃身から、二の矢が下の銃身から出るように設定を変え、三木にプールから一枚ずつクレーを出すように言った。一枚目のクレーは飛び出してすぐに撃ち、綺麗に砕いた。二発目はすぐには撃たず、クレーが二十メートルほど飛んでから撃った。クレーは綺麗に砕けた。
「奈央、下の銃身にフルチョーク付けたやろ」
「もしかしたら間違えたかもしれんな」
「チョークレンチ貸して」
三木はポケットからチョークレンチを取り出して、主税に渡した。
「ほらみてみぃ。そんなとこにチョークレンチが入ってること自体おかしいやないか」
「一番で気付くとは伊達に長年、射撃をしてるわけやないみたいやな」
「な、一発撃ったら気付く言うたやろ」
諏訪が言った。
「一発目で外す思うたけど、外さんかった」
「そら、初めての銃で一発目やねんから慎重に撃つがな。フルチョークであんまり散開してない状態で真芯に当たったから粉々になったんや。俺相手にイタズラするんならもうちょっとちゃんと考えんとな。と言うことで、明日の朝食は奈央に作ってもらうからな。莉子ちゃんも連帯責任や。一緒に作ってな。奈央は早よスキートチョーク寄越せ。ほんまに碌なことせん」
スキートチョークに変更したあと、主税も諏訪も残りは問題なく当てた。
「バレたけど、あんまり怒れへんかったな」
「先生もそうやったけど、あの人らは滅多に怒ったりせんよ。そもそも揉め事が嫌いやからな。自分の不手際やミスやら、あるいは自分に手落ちがなくて相手が怒っても謝って済むことならすぐに謝る。怒るときはもっと冷静に怒る。怒りを自分の利益にして、尚且つ、相手の不利益に導くような方法でな。そこで相手が弱みを見せたら、その弱みにつけ込んで、自分らが悪いことしてるて気づかせんと、さらに利益を得る。せやから、ファミリーメンバーに対して怒ることはまずない」
「ちょっと怖いな」
「大丈夫や。私らがそんな目に遭うことはないから」




