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25 新たな挑戦(あらたなちょうせん)

 翌朝、早い時間に三人の男が訪ねてきた。三人は農場の管理者と羊や牛の肥育を行う責任者、それと葡萄の栽培の責任者だった。月曜日になり出勤してきて、ファームハウスに人が来ていることに気づいたようだった。


 三人は特に用があるわけではなく、挨拶に来ただけであり、特に三木や蓮水がしなければならないことがあるというようなことは言わなかったが、葡萄園に関してはポッサムという動物が夜に現れて葡萄を荒らすからそれを駆除してほしいという旨を告げられた。当人たちは夕方に帰るのでその時間にはポッサムはまだ活動せず、また、有情が毒を仕掛けるのを嫌ったので、それだけはお願いしたいと言った。夜間に使う照明器具はガレージの奥の納屋にあるとのことだった。


 納屋はかなりの大きさで中央に作業台があり、作業台の半分くらいはボロ切れとタオルで覆われていた。そこは黒いしみがたくさんついていたので、おそらくそこで銃を使用した後のクリーニングを行っているものと思われた。また、先ほどの管理者が言っていたように、作業台の上にはバッテリーと充電器、そしてスポットライトが置いてあった。


 壁面には十丁は入りそうな大きなガンロッカーとこれまた大きな弾薬庫が据え付けられており、これらは鍵がかかっていて開けることはできなかった。


 ガンロッカーの隣には机とその上に竿立てがあり、ここには一本のフライロッドとリールのセットが置いてあった。


 机の上には使い古されたベストと同じ種類の毛鉤がいくつか入った小部屋で仕切られた、上蓋がアクリル板で作られた箱が置いてあった。竿を手に取るとわりと重さがあり、竿にはScott Heli-Ply 8’8” 7LINEと書かれており、リールにはAbel No.1と記されていた。


「これ、フライフィッシングの竿やないかな?」


「多分そうやと思う。昨日見た動画でもこんな感じやった」


 三木が蓮水に竿を渡して、こんなに重いの、動画みたいに軽快に振れるかな、と聞いた。


「確かにちょっと重いな。フライショップに行って店員に聞いてみたら?」


「うん、持っていくわ」


 そう言ってフライロッドとリールだけを持って納屋から出た。ガンロッカーも開けてみたくはあったが、そのためには鍵の在処を探さなければならなかった。


 準備を終えて二人は納屋で発見した竿とリールをもち、トラックに乗り、マイクス・フライショップに向かった。


 店はすぐに見つかり、所要時間も一時間半くらいだった。店の前にトラックを止めて中に入っていくと年齢不詳の、割と体格の良い白人男性が不思議そうな顔をして、こんにちは、と言った。(以下のやり取りは英語です)


「こんにちは、マイクさん?」


「そうです」


「私は奈央、こっちが莉子です。フライフィッシングを始めようと思って」


「わかりました。道具はお持ちですか?」


「納屋にボーイフレンドが使っていたロッドとリールがあったので持ってきました」


「少し見せていただいていいですか?」


「どうぞ」


「年季の入ったロッドとリールですね」


「これって使えます?」


「もちろん使えますが、君たちには重すぎるし、硬すぎると思います。これは元々、海で使うためのロッドとリールで、設計が古いから使いづらいと思います。しかも、淡水で使いやすいように八番のラインが巻いてあります」


「どういう意味ですか?」


「海で使うフライロッドは基本的に硬いし、海用のラインと淡水用のラインではテーパーが違います。淡水で使っていたから、振るのが楽なように重いラインを使っています」


「私たちは全くの素人なので、ちょっとよくわかりません」


「ボーイフレンドには習わなかったの?」


「ボーイフレンドは射撃とハンティングしか教えてくれませんでした」


「今度一緒に来たらいいですよ」


「それができないのです。ボーイフレンドは七月に亡くなりました」


「申し訳ないことを聞いてしまいました。お気の毒です」


「それで彼が好きだったフライフィッシングも始めてみようと思って」


「わかりました。可能な限り協力します」


「ありがとうございます。それで今日は差し当たり、私たちが使えそうな道具と投げ方を少し教えてもらいたんです。それと可能なときに実際にガイドしてくれたら嬉しいのですけど」


「月曜から木曜までは店を開けているから、金曜から日曜の間なら大丈夫です」


「場所はどのあたりでするのですか?」


「カンタベリー周辺ならどこでも大丈夫ですよ」


「マウント・ハットのあたりでも?」


「はい、大丈夫ですよ」


「じゃあ、それは後日また連絡するということで、今日は道具選びを手伝っても

らえませんか?」


「もちろん、喜んで。ところで予算はどれくらいありますか?」


「私たちはフライフィッシングの道具がどれくらいの値段がするか見当もつきません。ただ、使いやすくて、長く使えるのがいいです」


「ドライフライとニンフやウェットフライの違いはわかりますか?」


 三木はそれについてはきっちりと説明を見ておらず、よく分からなかったので蓮水にふった。


「莉子ちゃん、わかる?」


「よくは分からないけど、水面に浮かせて釣る方法と水中に沈めて釣る方法があることはわかります」


「正解。ドライフライ以外は沈めて使います。特殊な例としてフローティング・ニンフなどもありますが、基本的にはそうです。今の時期だとドライフライを使う人が多いです。何といっても魚がフライを捕える瞬間が見られます。ただ、ドライフライは風があるとどうしても不利になります」


「それは何故ですか?」


「言うまでもなくフライ自体とラインはリーダーとティペットで繋がっています。N国ではさほどドライフライの選択に神経質になる必要はありません。しかし、フライの動きに違和感があるとマスはフライを咥えません。大きく成長して、以前に釣り上げられた個体なら尚更です。水中にあるフライ、例えばニンフなどは自力で動くので動きが多少不自然であったとしても食いつきはします。逆にニンフは全体が水中にあるので、食べ物かどうかをマスが見分けやすいことになります。ただ、マスは攻撃的で自分のそばを不自然に動くものを咥えてしまう性質もあるので、必ずしも餌と似ていなくても口にすることは稀ではありません。ウェットフライは必ずしも水生昆虫に似ているわけではありません。これもまた状況次第なので確実なことではありませんが。ひとつ確実なことはマスがフライを口にしても決して飲み込むことはありません。必ず吐き出します。フライを咥えた瞬間に針を口に引っ掛ける動作が必要になります。まぁ、この辺りはマスがいる位置にフライを持っていけるようになってからの話です」


「それはどうしたら良いのですか?」


「ロッドを振って、振って練習するしかありません。持ってきたロッドとリールではすぐに疲れてしまって練習もままなりません。あのロッドとリールは丁寧に手入れがされていて今でも十分使用に耐えるものです。おそらく奈央のボーフレンドはフライフィッシングに長けた人だったのだと思います。古いせいもあるかもしれませんが、グリップを見ただけでも想像に難くありません。コルクが手との摩擦でツルツルになっているうえに手垢で真っ黒です。少ないフォールスキャストで確実にフライを目標地点に持って行く自信がなければ、軽いロッドやリールがいくらでもある昨今、こんなに重いタックルを使い続ける理由がありません。懐古的な趣味で使用する人も中にはいますが、それならグリップがここまで黒くなりません」


「舐めんといてよ、奈央」


「ちょっと!」


「何を舐めるのですか?」


「奈央はボーイフレンドの追悼会の会場で展示されていた、彼の愛銃のフォアグリップを舐めたのですよ」


「宗教的な意味があるのですか?いずれにせよ、よほど彼のことが好きだったのでしょう。ボーイフレンドはインド人?」


「特に宗教的な意味はありませんし、彼は私たちと同じ日本人でした」


「アクセントがインディアン・アクセントなのでてっきりインド人かと。ボーイフレンドの体格はどうでしたか?」


「背は私たちと同じか少し高いくらいで、華奢ではありませんが、特に筋肉質ではありませんでした」


「それではなおのことフライフィッシングがお上手だったのだと思います。一度、お会いして一緒に釣りに行きたかったです。とても残念です。ただ、グリップを舐めるのは不衛生なのでお勧めはしません」


「いらん事言うから話がそれてもたやないの、もう」


「少し最新鋭のロッドに触れてみますか?」


「はい、ぜひ」


「二人とも右利きですか?」


「そうです」


「右手を見せてもらっていいですか?」


「奈央、このロッドのグリップを握ってみてください」


 マイクは三木が持って来たロッドからリールを外して握らせた。


「軽く振ってみてください。このロッドのグリップは太く感じますか?」


「随分軽くなった気はしますが、太いかどうかはわかりません」


 マイクは後ろのロッドラックから一本取ってつなぎ、三木に握らせた。グリップの形状が有情のものと明らかに異なっていた。


「軽い、すごく軽いです」


「今はとりあえず軽さではなくグリップの握り具合です。形状が変わると握り心地も激変します」


「握り心地はさほど変わりません。両者の違いは何ですか?」


「持って来たロッドはフルウェルというタイプのグリップがついています。どちらかといえば遠投向きのグリップです。こちらはシガーグリップといってオールマイティに使えます。普通は親指を上にして握りますが、シガーグリップなら人差し指を上にして、精密なキャストも可能になります。莉子、あなたはこっちの方がいいです」


「奈央、今度は軽く上下に振ってみてください」


 三木は言われる通りロッドを上下に振った。


「これがドライフライ向きのミディアムアクションです。さっきのロッドと比較してかなり柔らかく感じるでしょ。持って来たロッドはベリーファーストアクションです。あのロッドで優しいプレゼンテーションをするには熟練を要しますが、これなら比較的容易にできます。同じ振り方をするなら、柔らかいロッドを使えば必然的にワイドループになり、硬いロッドを使えばタイトループになります。もちろんワイドループにも、タイトループにも利点と欠点が存在します。例えばワイドループは、先ほどの言った通り優しいプレゼンテーションができます。タイトループは多少の風があっても問題なくフライを目的の場所に運ぶことができます」


「話が少し専門的すぎてよくわからなくなって来ました。でも、どうして莉子にはシガーグリップがよいと判断したのですか?」


「フルウェルグリップを使うにはある程度しっかりした手指と手の厚さが必要になります。莉子の手はフルウェルグリップを握るにはちょっと華奢すぎます」


「私の手がゴツいと?」


「人の体のパーツは千差万別です。おそらくそれは長い期間フライタックルよりずっと重い銃を扱ってきた賜物です。射撃では相当な腕前をお持ちでしょう。これは良い、悪い、の問題ではありませんし、むしろ、ロッドを選ぶときの選択肢が増えます」


「うまいこと言うなぁ。莉子、ちょっとこれ持ってみ、すごく軽いから」


「ほんまや。でも何で先生はあんなに硬くて重い竿を使ってたんやろか?一本だけしかなかったし」


「それは、もちろん昔から愛用していたこともあるでしょうが、そのロッド一本で事足りる、長年にわたっての弛まぬ努力で得た技術と自信があったからだと思います。ただ、これは私の個人的な意見ですが、初心者の君たちにはシガーグリップのもう少し硬めの竿がお勧めです」


「具体的にはどれが良いですか?」


「値段を考えなければRL.Winston Air2かG.Loomis Asquithがお勧めです。Asquithの設計はアメリカですが、製造は日本のシマノです。日本の工業技術の高さは私より君たちの方がよく知っていると思います。もちろん、このScott Gシリーズもおすすめではあります」


「私はAir2にするわ。色が気に入った」


三木が言った。


「似たようなアクションやったら、二本あっても仕方ないから、私はGにしようかな。短めのもあるみたいやし。そうしたら奈央が使い分けられるから」


「置いて帰るの?」


「利太さんは釣りしそうもないし」


「先生に育てられた人やで、絶対できるって」


「そうかな」


「それは百%間違いない」


「今回は荷物多いし置いて帰るわ」


「そしたら、誰か来た時のために同じのか、G.Loomisにしといてくれへん」


「それは全然問題ないよ」


「どっちする?」


「じゃあ、お揃いにする」


「えぇ、在庫あったかな。高いロッドで滅多に売れないし。ちょっと見てきていいですか?そこの展示用のロッドスタンドに一本はあるから」

三木と蓮水はロッドスタンドのところまで行き、ロッドを手に取ってさっきと同様に上下に振ってみた。ロッドはあくまでも軽く、先ほどのものよりやや硬い感じはしたが、有情のロッドと比較すると全く違う振り心地だった。


「げっ、二千四百ドルもする」


「ええっ、そんなにするの。他のもみてみよ」


 蓮水にそう言われ二人は他の竿の値段も見てみたG.Loomisは二千百ドル、スコットは千六百ドルくらいだった。


「もっと安いのないやろか?」


とロッドスタンドに並べられたロッドを見ていると、百ドルくらいのものから、先ほどのAir2のように二千ドルを超えるものまで様々な価格のものがあった。そうこうするうちにマイクが、あった、あったと言いながら倉庫から出てきた。


「マイク、今、ロッドスタンドを見てみると値段がいろいろありました。高価なロッドと安価なロッドの差はなんですか?」


 マイクはショーケースの後ろのテーブルに無造作においてあった黒い短い棒を二本とって二人に見せた。


「これはあるメーカーのブランクの切れ端です。カーボンロッドは中空構造になっています。二本の中を覗いて比べてみてください。カーボンロッドは工業製品です。いくら精密な機械で作っても多少の誤差は出てしまいます。赤のテープが貼ってある方が検品で不可になったブランクです」


「確かに赤の方はほんのちょっと中心がずれている気がします」


「外側の縁の中心と穴の部分の中心の差が少ないほどバランスが良いブランクということになります。どうしても製造コストの関係から価格の低いロッドでは検品が甘くなります。したがって、出来上がった製品の品質にばらつきが生じます。値段が上がるにしたがって検品の精度は上がりますので、品質が一定しているということになります。それと奈央は今使っている銃は何年使っていますか?」


「えっと、二十六歳の時にボーイフレンドが買ってくれたので、かれこれ十二年使っています」


 なぜかマイクは、えっ、という顔をした。


「その銃はいくらしましたか?」


「一万二千ドルくらいでした」


「その十二年間でその銃に不満を感じたことはありますか?」


「ボーイフレンドに買ってもらったということを別にしても全く不満はありません。軽いので少し反動が強いですが、ハンティングに行くと一日中持っていないといけないので軽くて良かったと思っていますよ。定期的にメインテナンスはしていますけど、故障は一度もありません」


「一万二千ドルの銃といえば相当高価な銃ですよね。どこの銃ですか?フライロッドもそれと同じです。銃ほど堅牢なものではありませんので、不注意で折ってしまうこともあるかもしれません。でも、ファーストオーナーには生涯保証がついています。ボーイフレンドのロッドも四十年近く前のものです。それが今もすぐに使える状態にあります。グリップはさすがに交換時期に来ているとは思いますが。おそらくですがグリップは何回か交換してはいると思いますよ。グリップは消耗品なので有償で交換ということにはなりますけどね。高価な製品というものはやはりそれなりの理由があって高価なのです。奈央が六十歳になっても現役で使用することができます。新しい製品がどんどん開発されるので、その頃には古臭いロッドになっているとは思いますが、それは仕方ありません」


「ブレーザーというドイツ製の銃です。さっき、銃の話をしている時に何か妙な顔をしませんでした?」


「あっ、いや、私よりずっと年下だと思っていましたので」


「いくつなん、マイクは?」


「私は先月、二十九歳になりました」


 今度は蓮水と三木が、えっ、という顔をしないようにするの苦労した。二人はマイクが四十歳くらいだと考えていた。



「そんなお世辞言わんでも道具はここで買うよ」


「世辞を言っている訳ではありません。アジア人は若く見えるというのは知ってはいましたが、女性が来ることあまりないので」


「じゃあ、莉子はいくつぐらいに見える?」


「大学生くらいかな」


「私はマイクより一つ年下。ついこのあいだまでは同い年」


「二人とも嘘をつていませんか?」


「なんで嘘をつく必要があるの、ほら」


 そう言って三木はパスポートを見せた。


「本当に三十八歳なんですね。驚きました。二十五歳くらいにしか見えませんでした」


「マイクも二十代で店のオーナーってすごいじゃないですか」


「この店はもともと父が、私の生まれた頃に開いた店です。それで私の名前がついています。私は父の店を引き継いだだけです。私は大学を出て、他の仕事をしていました。私が二十六の時に脳梗塞をして、結構長く入院していたので、前の仕事を辞めて、今はここの店長をしています」



「お父様は?」


「幸い後遺症もさほどなく、今はシティ・センターで似たような店をしています」


「それは良かった。ところで前の仕事ってなんだったんですか?」


「弁護士です、アソシエイトでしたけど」


「すごーい。よくキャリアを捨てられましたね」


「こっちの方が向いてますよ。フライフィッシングは私の生きがいですから」


「お二人はどんなお仕事を、もし差し支えなければ」


「私はナース」


「私は先日交通事故にあって休職中ですが、来年からテレビ局で仕事をすることが決まっています」


「怪我は大丈夫なんですか?」


「しばらくは入院しましたけど、怪我自体は大したことはありませんでした。休養を兼ねて今は休んでいます。その前は新聞記者をしていました」


「メディアが変わった訳ですね」


「端的にはそうですけど、記者をしていた時は色々な人に迷惑をかけてしまいましたので、テレビ局では主に観光地を紹介したり、美味しいものを食べさせてくれる店のレポートをしたり、できる限り人を楽しませることのできる部署に行かせてもらいました」


「なぁ、莉子の話ばっかり聞いてるけど、ナースには興味ないの?」

「そんなことはないですが、母がナースなので似たようなものかなと。莉子の仕事は全く違う分野なので色々聞いてみました」


「あぁ、まぁ、多分」


「話がそれてしまいましたが、フライフィッシングを始めるにはロッドにあったリールが必要になります。他の釣りと比べてフライフィッシングではリールはラインを収納する機能さえあれば問題はありません。だからといってあまり重いものはせっかくのロッドのアクションを損ねてしまいますし、あまり安価なものは故障した時に修理することができないことがままあります。それとある程度以上の値段のものになるとアルミの棒から切削してリールを作ります。安価なものは鋳造がほとんどです。どこかにぶつけてしまったり、落としたりしてしまうと切削加工のものであれば曲がるだけですが、鋳造のものは割れてしまうことがあります。変形はある程度修正可能ですが、割れるとどうしようもありません。重さも切削加工で作られたもののほうが軽くできています」


「おすすめはどれですか?」


「軽さで言えばLamsonが群を抜いています。六番の入るForce SLなら百グラムを切ります。将来的に七番を載せる可能性があって、ワンサイズ大きなものにしても百グラムを少し超える程度です。それはそうと今、君たちの持ってきたものを参考に私は六番、七番を中心にタックルを選んでいますが、それで問題はないですか?そもそもどんな場所で釣るのですか?」


「農場の中を流れる灌漑用水路と敷地内にある湖水の一部です。もちろん、上手になったら色々なところにチャレンジしてみたいと思っています」


「用水路なら四番、五番あたりがいいと思います。湖となると七番、八番ぐらいになるでしょうが、両方とも同じロッドでするとなるとやはり中間をとって六番がいいでしょうね。用水路とはいえ相当大きな魚もいます、手付かずの農場の中ともなれば尚更です。四番、五番は風に弱いですし、遠投には向きません。七番、八番となると選択肢が限られてきます」


「選んでくれたロッドがいいです。まずは使いやすいもので練習するのが先決です」


「そうですね。承知しました。リールは好みで選んでいただいて差し支えないのですが、ロッドとのバランスを考えるとやはりLamsonが第一選択になります」

「このHardyのクラシカルなのはどうなんですか?」


「使用にあたって問題はありませんが、それは百年近く前のレプリカになります。技術は格段に向上しているとは思いますが、どうしても重さが気になると思います。ダブルハンドといって両手で投げる方法を使う人や、バンブーロッドやそこにあるEpicなどのグラスロッドを使用する人にはお勧めです。これは個人的な意見になりますけど、Air2には今ひとつ合わないように思いますし、六番サイズになるとどうしても重さが増えてしまいます。これは蛇足ですが、EpicはここN国で生産されるロッドです。ブランクの色、グリップやリールシートの形状など好みでオーダーできます。また、ご自身でロッドを組み上げるキットも出ていますので興味がおありでしたらいつでも言ってください」


「いや、まぁ。それは上手になってからということで。リールはLamsonのForceにします。莉子ちゃんはどうする?」


「私も軽いのがいい」


「色、といってもスプールの中心部とドラッグの中心部以外は同じなのですが、オレンジと黄緑があります。ブルーもありはするのですが、在庫は先ほどの二色しかありません。構いませんか?それと大きさが大小二種類あります。いうまでもないことですが、小さいほうが軽いです。小さい方でも十分なバッキングラインを巻いて、六番が問題なく入るサイズです。大きい方ならブルーもあります」


「あとはラインです。あれこれ迷ってしまうと思いますのでAircelにしておきましょう。投げるときにつまむ位置が膨らんでいて初心者にはわかりやすいです。バッキングは普通のダクロンで良ければバルクのボビンから無料で巻きます。カタログ上、百二十メートル入ることになってはいますが、あまりギリギリに入れると無造作にフライラインを巻き取るとフレームに干渉しますので、やや少なめにしておきます」


「なんのことか皆目わからないので、お任せします」


二人は他に必要なベストやバッグ、ネット、小物類を小一時間かけて買った。会計をすると一万ドル近くかかった。マイクは店の戸締りをし、一時間くらいで戻ると張り紙をして、ロッドを三本持って近くの公園に二人を連れていった。芝生の上でフライのキャストを二時間くらいかけて懇切丁寧に教えた。なんとか十五メートルくらいキャストできるようになると、あとは農場の芝生で練習するように伝えた。練習に飽きたらリーダーとフライをつけて川か湖水でライズしている魚を見つけて投げて見ると良いと言った。


 マイクに礼を言い、店を離れようとした時に大事なものを忘れたといって、マイクがフィッシングライセンスを持ってきた。個人の農場の中なので監視員が来ることはないと思うが、決まりなので、と言って必要事項を記入させ、ガイドが必要なときはここに携帯番号が書いてあるからと、名刺も渡した。






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