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24 夕食と語らいの時間(ゆうしょくとかたらいにじかん)

 蓮水が目を覚ましたのは午後四時ごろであった。三木はまだ寝息を立てていた。厨房に行き買ってきたマッスルを軽くタワシで洗い、ニンニクを刻み、唐辛子を切って、オリーブ油で炒めた。イカはすでに内臓がとられ、開いた状態になっていたので、それを短冊に切り、エビもむいてあるものを買ったので、そのまま軽く洗いザルに入れた。先にエビとイカを軽く炒めた。マッスルは油が飛ぶと嫌なので水分をタオルで拭き取りフライパンに入れた。部屋にニンニクと海産物の焼けるいい匂いが広がった。


 匂いに釣られ三木が起きてきた。


「ええ匂いやな。ビール取ってくるわ」


「うん。奈央ちゃん、ビール飲みながらでええからパスタ茹でてくれる」


「ええで」


 三木は先ほど冷凍庫に入れたハイネケンを二本取り、残りを冷蔵庫に戻した。


「はい、莉子ちゃん」


一本を蓮水に渡し、もう一本を自分で開けた。


「乾杯」


「うん、乾杯。せやけど、早よお湯沸かしてや。貝開くで」


「へいへい」


 三木は半分温められた鍋に火をかけた。


「なぁ、これ塩入ってるん?」


「あっ、入ってないから適当に入れてくれる?」


「わかった」


 三木は塩を少し入れ、湯を沸騰させパスタを入れた。五分ほどすると蓮水が具に白ワインを入れ、アルコールを飛ばした。三木は茹で上がったパスタをザルにとり、パスタの茹で汁を少し、具を調理している鍋にいれ、ザルのパスタを鍋に移した。蓮水は鍋で具と麺を混ぜ、少し加熱してオイルを十分絡ませてさらに盛り、パスタは完成した。


「わぁ、美味しそうやなぁ」


「うん、冷めんうちに食べよ」


「ちょっと待ってな。ビール取ってくるわ。莉子ちゃん、まだある?」


「私のも取ってきて」


 三木は再度、ハイネケンを二本と今度はグラスも一緒に持ってきた。それぞれでビールをグラスに注ぎ、パスタを食べた。


「なぁ、この貝の外套膜の間から出てる海藻も一緒に食べれるんか?」


「食べれんことはないやろけど、舌触り悪いから引き抜いて食べて」


三木は海藻を引き抜き、マッスルを食べてみた。


「美味しいな、これ」


「せやろ、オーストラリアでもよう売ってたよ。日本でも港とか、防波堤に行ったら大きさは違うけど、似たような貝がびっしりひっついてるの見ることあるやん。あれはなんで食べへんのやろか?」


「あぁ、あれはな、ムラサキイガイいうてな、これと一緒かどうかはわからんけど、夏場になると麻痺性貝毒いうて、食べたらあたることがあるんや。二枚貝はプランクトンを食べてるねんけど、そのプランクトンに毒があって、そのせいで体が痺れたりすることがあんねん。夏場いうてもいつからいつまでってはっきりわからんし、あたったら嫌やから結局食べへんねん」


「詳しいな」


「一応、医療従事者やからな。前にF国で釣った魚逃したことがあったやろ、あれと似たようなもんや。フグかてせやで。養殖のフグには毒はないんや。まぁ、先生の受け売りやけどな」


「奈央ちゃんは有情先生と普段どんな話をしてたん?」


「あの人はなんでもよう知っててな、色々教えてくれたよ。そこらへん飛んでる鳥みては、あれはどんな名前の鳥でどんな習性があるとか、星空が綺麗なとこ行ったら、あれが冬の大三角やとかな。生き物に関する事が多かったけどな。まぁそれは狩りする免許とるんにも必要な事やねんけどな。他はイセエビのヒゲを尿道に入れたら痛いやろなぁとか、膀胱でドジョウ飼うのはどやろとか、タウナギを肛門から入れたら何日ぐらい生きてるやろかとか、愚にもつかんことが多かったな」


「尿道にイセエビのヒゲ入れたことあるんか?」


「あるわけないやろ。そんなことしたらいつまで経っても血ぃ止まらんやないか」


「医学的な話とかはせんのか?」


「そら聞いたら教えてくれるけど、積極的にはせんかった。利太さんかて武器の話や軍事作戦の話なんかせんやろな」


「そらまぁ、そうやな。せやけど、そんな話ばっかりされても困れへんか?」


「いや、ずっとそんな異常な部分ばっかり話してるわけやないで。イセエビいうてもいろんな種類があってな、なんていう具合に派生していって、今度どこそこ行ってイセエビ食おなとかな。ここでもカイコウラいうところで伊勢海老が食べれるらしいで。今度行ってみよか?」


「近いんか?行く行く」


「まぁ、そんな感じや。私もイセエビ食べたいからカイコウラには来週にでも行こ。あとな、あの人はフライフィッシングが好きやったみたいやけど、私はしたことがないねん。誰かフライフィッシングを教えてくれる人を探したいな。やり方さえわかれば農場の中にあった湖とか、用水路とかでも、できそうな気はするんやけどな」


「池や川の釣りはわからんわ」


「先生の家に行った時にフライは見せてもろたことあるねん。なんか虫みたいなんを鳥の羽やら使うて自分で作ってた。できたんも売ってるらしいねんけど、時間のある時に作るいうて山ほどあったで。いっぺん、ガイドに教えてもらわなあかんな」


「私もフライフィッシングやってみたい」


「一緒にしたらええがな。釣具屋探して聞いてみよ」


「それはそうと、私が車に撥ねられた時にな、主税さんが請求書を持ってきてん。そんときタトゥー施術料っていう項目があってんけど、あれて奈央ちゃんが貼ってくれたインスタントタトゥーのことか?」


「そんなわけない。あれは私が勝手に作ってきたもんやから、そんなことでお金取るわけないやん」


「実際にはお金は払ってないねんけどな」


「莉子ちゃんはテレビ局の情報部で復帰するやろ」


「そうやで」


「それやと、もしタトゥーがあったら自分自身がレポーターになって、たとえば、温泉に入ることもあるかもしれんやん。そんなときに困るんやないかいう判断で、まだ入れてないんや。そもそも、あのインスタントタトゥーは私のデザインや。自分のタトゥーのデザインは自分で決めなあかん。もちろん、あれをそのまま使うてくれてもええで、それでもそうするかどうかは莉子ちゃんが決めなあかん。それと、これは莉子ちゃんの方がよう知ってるやろから釈迦に説法かもしれんけど、今、テレビの視聴率を支えてるんは先生よりも年上の団塊の世代か、どうかしたらまだもっと年上の世代や。言い換えれば老害の世代や。その世代と私らの世代いうたら考え方が全くちゃうし、生活様式もちゃう。莉子ちゃんが新聞社におったときも通常の紙版と電子版を作成してたやろ。私らが読むのはたいがいが電子版や。これがテレビになってくるともっとそうや。私らの年代の人らが昼間からゆっくりテレビ見れるか?それは無理な話や。少なくとも先生と同じぐらいか、ひと世代上の人らしか見られへん。その人らの子供いうたら私とか、利太さんや主税さんぐらいで、若うても莉子ちゃんぐらいや。まだ先生と団塊の世代間なら話の疎通は取れるかもしれん。せやけど、そこからは急激に考え方が変わってきてる。私らがタトゥー入れたレポーターがテレビに映ったんを見たとしても、どんなデザインかなとか、あの場所に入れたら痛かったやろなとか思うだけや。要するにタトゥー入れるかどうかは趣味の問題や。その親の世代はいまだにタトゥー=反社会的いう目で見て、それを自分の子供や孫に言うても理解してもらわれへんから、テレビ局に投書したり、新聞のオピニオンの欄に書いたりするやん。それでもテレビの情報番組の視聴率を支えてるんがその年代の人らやったらテレビ局としても対応せざるを得んがな。そうなって莉子ちゃんが嫌な目をしたら困るから思うて入れてないんや」


「あの連中にそんな深謀遠慮があるんやな」


「あの連中て。莉子ちゃん、忘れたらあかんで。莉子ちゃんも『あの連中』の属してるファミリーのメンバーやねんで」


「そうやった。忘れてた」


「主税さんはアメリカに留学してMBA取ってるし、佳奈子さんかて司法試験に受かってるし、利太さんかて四年制の大学出てるんやで。それぐらいちょっと考えたらわかるがな。あっ、私も四大卒や。」


「主税さんも佳奈子さんもすごい目立つタトゥー入れてるやん」


「なぁ、佳奈子さんが水着で裁判に出るか?主税さんが半裸になって会計処理するか?仕事の質が違うやないか」


「有情先生は?」


「あの人らはまた事情が変わってくる。医者は、まぁいうたら、職人や。そらタトゥーはないに越したことはないけど、腕の良し悪しは患者が治るか、治らんかにかかってくる。簡単に言うたら、タトゥーがあってきっちり治したり、寛解に導くのがええか、それともタトゥーがなくて治しきらんののどっちがええかの選択になってくる。私なら前者がええけどな。タトゥーは仕事についてみてどんな感じか分かってからで問題ないよ」


「前にF国行ったときに思うてんけど、なんで主税さんてカーリーのタトゥー入れてるん?」


「いや、わからん。なんか思うところがあったんやろ。れなさんかてカエルのタトゥー入れてるで。先生と知り合う前かららしいけど」


「美和子さんは?怖そうなん入れてそうやけど」


「美和子さんは入れてない。あの人はメンバーちゃうで」


「ええっ、そうなん」


「うん、活動の内容はもちろん知ってはるけど」


「奈央ちゃん、ビール飲む?」


「ありがとう、もらうわ」


 今度は蓮水がビールを取りに行った。


「タトゥーの話の前、なんの話してたっけ?」


「フライフィッシングの話やと思うで」


「あぁ、崎岡さんてわかる?」


「葡萄園の人やろ」


「そうそう。古参のメンバーで山科先生の奥さんと同級生の人な。その人が先生はフライフィッシングがめちゃめちゃ上手い言うてた」


「まぁ、上手いんやろな」


「せやけど、何が上手いんやろか?ちょっと向こうのパソコン持ってきてくれへん」


「ええよ。何するん?」


「ちょっとフライフィッシングの動画見てみる」


 蓮水はソファの方に行きパソコンを持ってきた。フライフィッシングと英語で入力し、動画を探した。動画を見てみると竿を前後に振り、かなり太めの糸でループを作り釣りをしている様子が映し出された。


「これ見てもどういうのが上手いんかわからんな。食いつくところは見えてるし、食うたら引っ張ったらかかるやろしな。三十メートルやったか、三十ヤードぐらい飛ばせるみたいなことを崎岡さんが言うとったけど、飛ばすんが難しいんやろか。とりあえずショップ行ってみよか」


「ええよ。お店探してみぃよ」


「うん」


 三木がフライフィッシングショップと入力してみると何軒かの店がヒットした。ヒットした中でガイドもしてくれる店を探して、ウェブサイトにアクセスしてみた。マイクス・フライショップという店であったが、ちょうどCCのはずれにあり、メスベンからもハイウェイを通っていけば簡単にいけそうな立地だった。


「明日ここ行こ。一番、近そうやし、品揃えも良さそうやし」


 二人は他に幾つかの動画やN国のフライフィッシング事情をネット検索し、概ね次のようなことがわかった。


 まず、対象とする魚はマス類であること。次に動画で見た太い糸は実はフライを飛ばすためのものであり、その先には普通の釣りと同じように細いナイロン糸がついており、その先にフライを結びつけること。フライを飛ばすための太い糸は用途に応じて番手がいくつかあり、その番手に合わせてそれぞれに対応した竿が必要であること。フライにも太い糸にも水に浮くものと沈むものがあり、状況に応じて使い分けること。農場の用水路や湖で釣りをするなら五番か七番という番手が適切であることなどであった。


 この間にさらに二本ずつビールを消費し、パスタを作る際に使用したワインの残りを飲み干した。蓮水がシャワーを浴びて寝室に行くと、三木はすでに寝息を立てていた。




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