23 買い出し(かいだし)
翌日、二人は遅くに目覚めた。ただ、前日に飲んだのがほとんどビールだったので、二日酔いで苦しむということはなかった。
「おはよう」
「うん、おはよう」
どちらからともなく朝の挨拶を交わした。
「なぁ、奈央ちゃん。今日は早めにアシュバートンまで行けへん」
「うん、行こ行こ。ここやと外で飲むと帰ってくるのが大変やし。昨日はたまたまあのお爺さんが送ってくれたけど、毎回いう訳にもいかんしな」
「何買うか考えてから行こな。せやないと奈央ちゃん、ビールしか買わんかったいうようなことしそうやし」
「なんでやねん。私かて二十年近く一人暮らししてるんやで。それなりに買い物も上手にできるわ。まぁ、料理は簡単なもんしかできんけどな」
「莉子ちゃんは料理できるんか?」
「私も親元で暮らしてるから、さほどできんよ」
「パスタやら、カレーぐらいやったらできるやろ?」
「それぐらいならできる」
「ほな、パスタとじゃがいも、玉ねぎ、にんじん、マッシュルーム、肉、ベーコン、オリーブ油、クリーム、大豆油、スパイスは必須やな。カレー・ルーて売ってるんやろか?」
「カレー・ルーはあると思う。せやけど、薄切りの肉がほとんどないで」
「なんで知ってるんや?」
「私、大学の時にAU国に留学してた言うたやん。似たようなもんやろ」
「さすがやな。私なんか海外いうたらマーケットで売ってる腐りかけの肉しか見たことないで」
「友達と海外旅行ぐらい行ったことあるやろな?」
「そらあるけど、長期にわたって行ったことないから、たいがい外食で食品売り場なんか見んがな」
「そらま、そやな。奈央ちゃんはいつもどんな朝食摂ってんの?」
「朝食はシリアルが主かなぁ。それプラス、休みの日なんかは卵焼きとか。でも、あればなんでも食べるで」
「私はパンとプラスなんかやな。こっちの食パンは薄うスライスしてあるからイマイチやねんな、バゲットでも買おかな」
「ちょっと待ってな。もし弾薬庫に弾がなかったら手間やから、アシュバートンに銃砲店がないか調べてみるわ。居間のパソコン使えるかな?」
そう言って奈央は居間にあるパソコンを開けてみた。パスコードがかかっていたが、有情が使いそうなパスコードを入れてみるとすぐに使える状態になった。よくみるとWi-Fiも使えそうだった。アシュバートンの銃砲店は街の中心の線路を超えたあたりにあるようだった。
マクドナルドはスーパーの目の前にあった。
「とりあえずブラウン・パブの前までミニで行って、トラックに乗り換えて、アシュバートンに行こ。スーパーの前にマクドあるから朝マックしよや」
「うん、そうしよ。お腹減ってたら食べ物買いすぎるしな」
「化粧せんでもええかな?」
「ええやろ、誰も知った人おらんし」
「奈央ちゃん、そのまま行くんか?」
二人は寝巻きがわりにしたスウェットの上下を着ていた。
「
なんでや、スーパーに行くぐらいええやろ」
「
涎の跡がついてるで」
「ほんま?ちょっと拭いてくるわ」
二人はミニに乗りブラウンパブまで行き、トラックに乗って大通りを左に曲がりアシュバートンに向かった。街を抜けて三十分ほどは緑の牧草地が広がるだけで、他に何もなかった。アシュバートンの近くまで来ると民家が増えてきて市街地に入った。地図にある通り、マクドはスーパーの前にあった。店の駐車場に入りドライブスルーに並ぼうとしたが、結構混んでいたので、駐車場に車を停め店の中に入って行った。
店内は比較的空いており、容易に席を見つけることができた。朝マックのメニューは日本のそれとほとんど変わりはなかった。蓮水はソーセージエッグマフィンセットを頼み、三木はビッグブレックファストのドリンクセットを注文した。またインドから来たのかと言われるのが面倒だった上、店員がインド人だったので注文は蓮水に任せた。店員は二人に観光で来たのかと聞いてきた。「そうだ」と答えておけばいいのに蓮水は「農場の見学に来た」といった。フルーツピッキングかと聞かれ、三木はなんのことか全くわからなかったが、蓮水はある程度わかっているようで、ここはそうだと答え会話はそれで終わった。
「ここの人ってなんでも聞いてくるなぁ」
蓮水が言った。
「まぁ、田舎はこんなもんやろ。うちの実家でもそんな感じやで」
「まさかマクドの店員に話しかけられるとは思わんかった」
朝食を済ませ、再度、トラックに乗りスーパーに入った。スーパーはかなりの大きさで品物もたくさんあった。入り口付近にベーカリーがあり、その前が野菜、その隣がなぜかワインのコーナーだった。蓮水がベーグルを、三木もマフィンを一袋ずつカートに入れた。野菜類はキャベツや玉ねぎ、アスパラ、マッシュルーム、じゃがいもなどを適当に買い、あらかじめ予定していたものは大抵揃った。
生鮮食料品は日本とはかなり違っていた。魚類はほとんどおろしてあったし、元の形がわかるものはほとんどなかった。かろうじてサケは見た目でわかった。他は名前を見ても何が何だかわからなかった。適当に二、三種類選び包んでもらった。あまりたくさん買っても腐らせてしまいそうだった。
「なぁ、この黒い貝はなんや?」
「それはマッスルいうてな、結構、美味しいで。エビとイカ買って、今夜、パスタにしよか」
「おっ、それええな。莉子ちゃん作れる?」
「できるで。クリームパスタとオイルとどっちがええ?」
「オイルのほうが食材の味がわかりやすうて良さそうやな」
「ほな、オイルパスタ作るわ」
「楽しみにしてるで」
「うん、明日は奈央ちゃんが魚でカレー作ってくれる?」
「ええよ。せやけど、魚の肉質がわからんから崩れたらごめんな」
「そんなんかまへんよ。カレールーあるかな?」
カレールーは何種類か日本製のものがあった。肉類は蓮水がいった通りステーキ肉とサイコロ状に切ったものがあるだけだった。それもサシが入っておらず、サーロインでさえ見た目は赤身とさほど変わりがなかった。これも適当にいくつか選んだ。肉類に関しては多めに買っても冷凍保存がでできるので、少し多めに買った。
「あっ、向こうにシリアルあるわ。選んでええ」
「うん」
「えらいようけあって悩むな」
三木は色々見て回って、結局、食べ慣れたグラノラにした。
「あとはお酒のつまみとワインとビールやな」
二人はワインのコーナーまで戻り、白ワインを五本ほど選んだ。
「奈央ちゃん、赤はあんまり飲まんの?」
「あっ、いや、あの人があんまり赤飲まんかったから。もちろん飲めるから莉子ちゃんが赤選んで」
「うん、二本買うわ。一つはミディアムボディともう一つはフルボディ。フルボディは氷入れて飲んだら美味しいで。邪道やけどな」
「試してみよ。ビール、一週間でどれくらい飲むやろか?」
「一日、五本ずつとして七十本ぐらいでええんちゃう?」
「そんな飲むかな?」
「まぁ、ビールは置いといても問題ないから多めに買うてもええんちゃう?」
「せやな」
つまみは小分けにされたものがたくさんあった。ソーセージやサラミ、スモークサーモン、チーズ類を多めに買った。ビールは日本ブランドもあったが、オーストラリア製だったので、無難なところでハイネケンとバドワイザー、そして前日に飲んだスパイツを二箱買うことにした。
「ちょっとカート取ってくるわ。ビールが乗り切らん」
「うん、待ってるわ」
三木はカートを取りに行った。その間に蓮水は卵と食パン、ベーコン、マーガリンなどをカートに入れた。三木もビール四箱をカートに入れ、蓮水に追いついた。会計の際にタバコを買おうとしたらIDを要求された。
「私らそんなに若う見えるんやろか?」
「アジア人は若う見られるみたいやで」
二人はビールを荷台に積み、他の食材とワインは後部座席に置いた。
「莉子ちゃん、この先の踏切渡ったとこに銃砲店があるから、ちょっと弾買うてええか?」
「もちろんええよ」
三木はスキート用の9.5号散弾とガンオイル、掃除道具一式を買った。装弾はさすがに荷台には積んでいけないので、後部座席の足元に置いた。
「これでしばらく食料は大丈夫やな。まぁ、メスベンにもスーパーあるし、そろそろ戻ろか」
「せやな」
元来た道を通って二人はメスベンに戻り、ミニを回収して農場に戻った。ビールを飲みたいところだったが、買ってきたばかりのビールはまだ冷えておらず数本を冷凍庫に入れ、生鮮食料品や必要なものを冷蔵庫にしまった。午後二時過ぎだった。
「なんやちょっと疲れたな。昼寝でもしよか」
「せやな、そしたらビールも冷えるやろし」
そんなことを言いながら二人は軽く午睡をとった。




