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21 農場(のうじょう)

 やっとの思いでファームハウスまでたどり着くと、さすがにそこの入り口の鍵はかかっていた。ただ、建物をまわって、フロアマットをめくってみるとその下に鍵が隠してあった。ふたたび玄関に戻り、合いそうな鍵を差し込むとすぐにドアが開いた。


 玄関を入ると正面が厨房兼リビングになっており、厨房の手前にはテーブルセットが置かれていた。向かって右側には暖炉があり、その前には応接セットが置かれていた。冬場には暖炉が必要なくらい冷えるのだろう。リビングの奥にはメインベッドルームとゲストルームがあり、メインベッドルームにはダブルのベッドが二つ、ゲストルームにはクイーンサイズのベッド一つ置いてあった。


「なぁ、莉子ちゃん。なんかこう人里離れたとこやし、今夜はこっちの部屋のベッドでいっしょに寝よや」


「メインベッドルームの方が広いし、そっちにしよ」


「広かったらちょっと寂しいやん」


「奈央ちゃんはよう寝れるからええかもしれんけど、私は寝不足やがな」


「国内線でも、バスの中でもよう寝てたやん。今日だけでええから」


「今日だけていうてもどうせシーツが乱れてしもたからいうて、そのまま次の日もいうことになるやん」


「私かて一応は看護師やねんからベッドメイキングぐらいちょちぃのちょいや」


「したらな。前に迎えに行ったときに下着取りにったら寝室のベッドがぐちゃぐちゃやった。ソファも」


「あれは気が動転してたから仕方ないがな」


「涎はあんまり関係ないような気がする。枕は涎のしみがいっぱい着いてたし、ソファでも涎が顔半分が浸かってた」


「つれないなぁ」


「横で寝るんやから変わらへんやん」


「まぁ、ええわ。ちょっと冷蔵庫見てみよ」


 二人は厨房の方に戻り冷蔵庫を開けてみた。冷蔵庫には数本のビールと試作品のワインが何本か入っているだけだった。


「これって、さっきの街まで買い出しに行かなあかんいうことやんなぁ」


「せやろな」


「ちょっと車庫行って車見とこ。動かへんかったら大変や」


 二人はベッドルームの間の通路を通って裏口の前にある車庫の扉を開けた。ライトをつけると車が2台停まっていた。


 ライトのスイッチの横に見慣れたミニのキーセットとトラック用と思われるキーがかけてあった。


「あっ、ミニあるわ。あれ乗って行こ」


「でも買い出しするんやったらちょっと小さない?」


「これ乗って行くの?」


と三木は隣に停まっている巨大なGM製の四駆トラックを指して言った。


「こんな大きいの運転できるかなぁ」


トラックは幅二メートル以上、長さ六メートル以上はありそうだった。


「トラックは仕事用も兼ねてるんやろけど、両極端やな」


「エンジンかかるんやろか?」


「試してみよ」


「ドア開けたら電気ついたからかかるとは思うけど」


三木はまずガレージのシャッターを開け、ミニのキーを持って運転席に座った。


「えらい古そうやな」


「なんでわかるん?」


「メーターが真ん中についてるし、シートのヘッドレストがない」


「そうなん?」


「うん、新しいのは運転席の前にのところにメーターがある。ドアにヒンジがついてなかったからマークⅢやな」


 チョークを引き、キーを回し、何度かクランクを回してみるとすぐにエンジンはかかった。ノーマルマフラーが着いているらしく音は静かだった。少しだけ動かしてみたがシフトや足回りの異音などは全くなく手入れが行き届いているようだった。エンジンを止め、ボンネットを開けてみるとクーラーはなく、キャブは一つしかついてなかった。日英自動車のプレートがあり、日本から輸入されたもののようだった。プレートには99Xと書かれていた。エンジンや補機類も非常に綺麗で丸い筒の出たエアクリーナーカバーが取り付けてあった。


「手入れしやすいように千ccにしたんやわ」


「よう知ってるな」


「ミニの愛好家やからな」


二人は笑った。


「トラックの方も動かしてみよか」


「こっちは新そうやな」


 三木は運転席にキーを持って乗り込むとスタートボタンを押した。大排気量ディーセル特有の音がした。ただ、ドアを閉めるとエンジン音はほとんど気にはならなかった。


「ちょっと農場の中を走ってみぃへん?」


「うん、行ってみよ」


 二人はトラックで農場の奥へ走っていくことにした。しかし、これは二人にとってほんの少しの悲劇を生むこととなった。


 トラックは車庫を出てグラベルロードに乗って看板のあった門扉とは逆の方向に進んで行った。グラベルは二股に分かれていたので、その道を右の方に曲がっていった。ところどころにフェンスがあり、道の前には扉があるところがあった。扉は簡単なロックがかかっているだけで、手で容易に開けることができた。しばらく進むと湖とも川とも言えない場所があり、そこを越えるには相当大回りをしなければならないようだったので、水辺に沿って進んで行った。水場には時折ライズリングが見えた。


「なんか魚がおるようやな」


「うん、水面に輪っかができてる」


 三十分くらい進むと今度は山の斜面に突き当たった。斜面の手前には自然保護区の看板が出ており、その方向に進む道はなかった。斜面に沿って、また三十分くらい進むとまたフェンスに当たったが、そこには扉はついておらず、左に曲がらなければならなかった。しばらく走ると左手にコンクリート塀で囲まれた周囲とは異質の建物があった。建物のところまで行ってみると、そこは射撃場になっていた。


「射撃場や。ちょっと行ってみよ」


三木に言われて蓮水はついて行った。


 蓮水にはなぜそれが射撃場であるのかがわからなかったが、三木にするとそれはごく普通のスキート射撃場であることがすぐにわかった。プーラーハウスにはごく普通のクレーを放出させる操作盤がおかれており、操作盤にはP、M、D、T 、と一般的ではないAutoというスイッチが並んでおり、射座で操作できる操作盤とスイッチの並んだ無線装置も操作盤の隣に置かれていた。足元には主電源のブレーカーが付いていた。


 三木はブレーカーのスイッチを入れ、プールとマークのそれぞれのハウスにクレーが入っていることを確認し、タイマースイッチを入れ、Pのボタンを押してみた。左側のハウスからオレンジ色のクレーが飛び出して放物線を描いて着地し割れた。同様にMのボタンを押すと今度は反対側のハウスからクレーが飛び出した。Autoというのが気になりスイッチを入れ、Pのボタンを押してみたが、今度はクレーが飛び出さなかった。三木はプーラーハウスから一番近い四番射座に行き、マイクに向かって「Pull」と言ってみた。すると左右のハウスから同時にクレーが飛び出した。もう一度、「Pull」というと今度も両方からクレーが飛び出した。三度目も同じだった。


「おかしいな。ここは両側から出るのが二回続いたら、次は片方ずつから出るはずやねんけどな」


と言って、また、「Pull」といった。今度も両側から出た。


「なんか仕掛けがあるはずや」


と言って周囲を丹念にみて回ると上下に動くスイッチがあり、スイッチがローマ数字で書かれたIIの方に向いていた。三木はスイッチをIの方に押し上げ「Pull」と言った。


 今度は左側から一枚だけクレーが飛び出してきた。さらに三木は隣の五番射座に行き、また「Pull」と言った右側から一枚クレーが飛び出した。もう一度、「Pull」というと両側から出てきた。


「あぁ、そういうととなんや」


と三木は独りごちた。


「奈央ちゃん、勿体無いやん。もうやめとこ」


「うん、そうする。使い方もわかったし」


「どういうこと?」

「いや、今説明するのは難しいから、今度、銃持ってきて遊ぶときに教えるわ。簡単にいうと一人でもできるように改造してあるんや」


 三木はそう言ってプーラーハウスに戻り、主電源を落とした。その時に発射装置の奥の壁に封筒がピン留めしてあることに気づいた。ピンを外して中身を見てみると操作盤の使い方が英語と日本語で詳細に書かれていた。


 二人がファームハウスに戻ると五時半を過ぎていた。


「陽が高いから気づかんかったけど、もう五時半やで。ぼちぼち街まで行ったほうがええんちゃう。三十分はかかったと思うし」


「せやな、買いもんもせなあかんし、早めに出よか」


 二人は一旦、母屋の方に戻りバッグだけを持って街に向かって走っていった。トラックはサスペンションが硬いことを除くと快適でドライブは楽しかった。周りはほぼ緑の牧草地で、ところどころに羊や牛が草を食む姿が見られた。民家が見えてくると街まではすぐだった。


 蓮水がタクシーに乗った場所の近くにスーパーがあったのを覚えており、カフェのあった手前の道を右折し、すぐに左折して、ラウンドアバウト(環状交差点)までいくとスーパーが2軒ありはしたが、すでに閉まっており、人の姿すらほとんど見られなかった。街中をぐるっと一周してはみたが、スーパーや食料品店はその二軒しかなく、結局、買い物はできなかった。


「店閉まってるわ。どないしよ?」


「どないしよいうても、どうしようもないしな。ちょっと待ってよ」


 三木は湊川が書いたメモをバッグから取り出し、読んでみた。


「あっ、メスベンはスキー場の街で冬場以外は人気も少なく、開いているレストランもあまりないて書いてあるわ。この先のアシュバートンまで行ったら大きいスーパーがあるらしいけど、四十分ぐらいかかるみたい」


「なんや疲れたし、お腹すいたし、今日はどっかでご飯だけ食べて、明日、出直せへん」


「そないしよか。ブルーパブとブラウンパブは年中やってるて。見たらすぐわかるて書いてある。どっちもメインストリートにあるて」


「そこ行こ」


「ちょっと待ってや。まぁ、これはええか、着いてからで」


「なんて?」


「いや、何もかも量が多いから、頼みすぎたらあかんて」


「とりあえずメインストリートまで行ってみよか」


「うん」


 二人はメインストリートまででて右折して、車をバス停に停めた。


「しもた、反対側やった」


 車を降りて確認すると確かにブルーと茶色の建物でどっちがブルーパブで、どっちがブラウンパブかすぐにわかった。ブルーパブは前の道が駐車スペースになっており、ブラウンパブには普通の駐車スペースがあった。


「このデカい車、縦列駐車するん大変そうやから、駐車場のある方にしよ」


 そう言って、車をUターンし、すぐに右に曲がって、The Lodgeの手前の入り口からブラウンパブの駐車場に車を停めた。周囲にも似たような車が何台かあったが、その中でも乗ってきた車が特に大きいようだった。


「なんでまた、こんな大きい車にしたんやろ。ミニが停まってたから絶対に先生の趣味やで」


「仕事用なんちゃうの?」


「最初はそない思うてんけど、その割に荷台がきれいすぎる。単なる趣味としか思えん。こんなんで市内走

らなあかんか思うたら、ちょっと怖い気がする」


「市内行く時はミニにしたらええやん」


「いやぁ、ミニで二時間はちょっとなぁ。とりあえずなんか食べながら考えよ」




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