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想い出  作者: 彼岸  章華


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発展にて

 人は案外、単純な事を気に掛ける。

 明日の天気、宇宙の爆発、運命の相手、世界の破滅、考えだしたら切りがない。


 それなのに、以外と時間を持て余している現実や自分の捉え方次第で変えられる現実を他者に委ねている現実には気付けない。


 いや。

 気付いていても、気付かない()()をするのである。

 ……なにせ、このような事を考えている私だって、十年以上目を背けていたのだから。




 これは、私が祭りに行かなくなった理由を、雄一郎さんに伝えようとしていた時の事だ。


 だが、これは実に私生活に沿った理由だった。


 なにせ

「えっと。両親が二人共、免許返納しちゃって、ね?」

 これなのである。


 そう。

 わざわざ、格好つける必要もない。


 なにせ、両親が二人そろって免許を返納しただけなのだ。


「おやおや」


「だから、ね?」


 単純だろう?


「それは、何と言いますか」


 それに、反応に困るだろう?


「そうだろうね。私も両親からこの話を聞いた時は、念わず笑った程だから」


 ちなみに私は、両親が揃って免許返納をした理由や、祭りに行きたいと言った時に両親が見せた、あの反応の理由を未だ知らない。


 なにせ、気にならなかったのである。

 そう、この免許返納騒動は別に私にとっては困る事ではなかったのだ。


 なぜなら……。


「ですが、そのように免許を返納して、ご両親は良かったので?」


 ああ。

 丁度良い。


 それは交通手段がなくなり、不便のなるのではないかという、心配話だろう?

 今から説明するつもりだったのである。


 だれに?

 私の心に。


 ああ。

 こんな事を考えている場合ではない。

 雄一郎さんの質問に、答えなくては……。


 それにしても、私の両親の反応か。

 返納を決めたのは本人達だし、それに……。 


「元々、免許は返納するつもりだったらしいから、問題はなかったみたいだね。なにせ、今は電車もあるから……」


 これである。


 ああ。

 それにしても、()()()()


 石炭車とは異なり、電力を動源に用いて人を遠方に運ぶ、()()()

 文明開化、革命の産物、人類の英知。


 なんと、素晴らしい発明品だろうか。


 すると、雄一郎さんは輝かしい光を見たような表情で

「そうですか。便利な世の中になりましたね」

 と、こう言ったのだ。


 だから私も、その言葉に同調するような言葉を述べたのである。

 そして毎度の如く、その後はゆっくりと思考の海に身を落としたのだ。


 なにせ今の世界は、電車以外にも様々な発展を遂げている。


 例えば、電話である。

 伝書鳩に紙を括って飛ばさずとも。相手と連絡が取れるようになったのだから、これは画期的だろう。


 地平線の彼方にいる相手とも、時間の規制もなく言葉を交わす事が可能になったのだから。


 他にも、料理、占い、結婚や職の自由があるが、置いておく。


 なにせ、今回私の潜った場所は思考の深海。


 普段なら浮かばない選民思想や危険思想が湯水の如く湧き出る、貴重な場所なのだ。


 だから今、可愛いを解せない人間は動物の写真集の本を買え、という言葉が出てきたのだろう。


 ああ。

 それにしても、次から次に疑問の気泡が頭上を浮かんでいく。


 ……二度と入院しないように、全人類が不健康になれば良いのでは?


 ……人間の進歩の証明するには、一日何も身に付けずに山奥に狩猟に行けば良いのでは?


 ……人の愚かさを知るには、両親と仲の悪い人達を三時間一緒の部屋に閉じ込めれば良いのでは?


 まだまだ、序の口である。

 なにせ、隠すべき私の様々な思いが、海の中を漂っていくのだ。


 例えば。


 ……雄一郎さんの普通って、本当に普通なのかな。


 ……昨日の紅茶、苦手な味だった事、伝えるべきだったかな。


 ……結局、人は性格よりも金を持っているのかで価値が決まるんだな。


 こんな感じで。


 だが、これは当然の事である。


 なにせ人類は道具を扱い、知識を身に付け、知能を得る事に特化した思考をする動物なのだ。


 だから私は、紡がれてきた歩みを一歩でも進ませなくてはならないのである。


 それが、今を生きるという事なのだから。

 だが、そうなると、今を生きるためには過去を知らなければ話にならないだろう。

 

「良し。それじゃあ、話を聞かせてもらおうか」


 だから私は、今日も雄一郎さんの話を聞くのだ。


「はい?」


 ……不思議である。

 なぜ雄一郎さんは希少生物を見るような目で、私の事を見ているのだろう?


 まさか、雄一郎さん。

 貴方、本題を忘れてしまったのか?


 それとも、単純に私が思考の海に潜った事による沈黙が原因か?


 まあ、どちらが原因であったとしても

「貴方の祭りの思い出話だよ。私だけ言うのは、不公平だろう?」

 話してもらうのだが。


 なにせ私は、雄一郎さんの思い出話を聞くために、この極寒に耐えたのだ。


 忘れた、とは言わせない。

 朝の天気予報は忘れても、この話題だけは絶対に忘れたとは言わせない。


「ああ、そちらの。解っていますよ。きちんと、お話しします」


 良かった。

 忘れ去られていなかった。


 まあ。

 もし、違う言葉を吐いていたら、その時は……。


 いや、今はそれよりも私は、雄一郎さんに謝らなければいけない事があるのである。


「でも、ごめん。その前に、何か食べて良い?」


 それは、これだ。

 再三、話を催促しておいて申し訳ないが、これは仕方がない。


 ……なにせ私の胃太鼓が、轟音を響かせているのである。


お読みくださり、ありがとうございます


それでは、続編をお待ちください

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