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想い出  作者: 彼岸  章華


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説明にて




 さて。

 其れでは自己紹介も済みましたので、眼前、失礼いたします。


 ええ。

 喫茶店の説明に参りましょう。


 はて。口調が変わった、と?

 此処では其のようなこと、些事で御座います。

 ですから、どうか、お気になさらず。


 さて。

 其れでは、此度の舞台となる喫茶店。


 まずは、其の雰囲気から説明させていただきます。


 はて?

 何故、雰囲気から?


 ええ。

 此のようなことを考える方も、いるかもしれません。


 単純です。

 わたくしが、説明しやすいからです。


 そして、もし、簡潔に述べろ、とおっしゃる方がいるのであれば。


 ええ。

 其のような、感受性が豊かな方がいるのであれば。


 ご安心を。

 此の説明は、一言で足りるので御座います。


 なにせ、

 「歪で、不思議」

 という、此れだけなのですから。


 ええ。

 ですが其れでは、一円しか入っていない財布と同義でしょう。


 故に。

 此れからは、詳細な説明に参りましょう。


 ああ。

 先に申し上げておきますが、此の言葉は、わたくしの主観的なものですから、少々誤解を招く可能性が御座います。


 ご了承ください。


 さて。

 其れでは、参りましょう。


 ええ。

 此のお店の雰囲気について、で御座います。


 ご安心を。

 其の雰囲気は、日々の喧騒などを忘れさせる、穏やかな衣を身に羽織ったような、素適なものです。


 ですが、同時に。


 ご用心を。

 なにせ此のお店は、日々の焦燥を忘れさせる、不可解な何かの衣に袖を通すような、不思議なものと、先程の雰囲気が同居しているのです。


 まあ。

 人で例えるのであれば。


 海に自由に漂う海月(くらげ)のような、優雅で魅力的(ミステリアス)な青年をご想像頂ければ、間違いありません。


 其れとも、山を駆け回る白鼬(オコジョ)のような可憐な少女の方が、想像しやすいでしょうか。


 何方にしろ、決して人に靡かず捕まることのない、蜃気楼のような存在ということです。


 そして此の言葉。

 主観的だ云々と先程申しましたが、決して的外れという訳では御座いません。


 ええ。

 少々誇張された表現のような気もしますが、此のお店の雰囲気を示す言葉としては、間違ってはいないのです。


 ああ。

 誇張云々の細かいことは、お気になさらず。


 しかし、此処までお聞きになっても、やはり未だ、皆様は心の何処かで

「なんだ。普通の喫茶店と変わりないではないか」

 などと、お考えのはずでしょう。


 では。

 其の考え、完膚なきまでに粉砕して差し上げましょう。


 如何にして?

 其れは、単純で御座います。


 此の喫茶店の外観の様子をご覧になれば、一目瞭然なのですから。


 ええ。

 其れでは、お店の外観。


 此方で御座います。

 ご覧ください。


 ええ。

 皆様の眼前に、わたくしの後方に、其の姿、映っていることでしょう。


 如何です?

 先程のような言葉は、決して抱くこと、できないはずで御座います。




 おや?


 皆様。

 何故、其のように首を傾げておられるので?


 何か、ありましたか?


 ああ。

 まだ、画面に映像が映っていなかったのですね。


 納得です。


 しかし、此のまま何もせず、ただ映像が映るのを待つのは、味気ないですね。


 其れでは、失礼ながら。

 口頭で、此の喫茶店が普通ではない、其の理由、説明致します。




 しかし、理由は単純です。

 何故から、此のお店の外観が、お世辞にも美しいとは言い難い。


 何とも言えぬ姿をしているから、という此れだけの理由なのですから。


 否。

 言葉を濁さず、申し上げましょう。


 ええ。

 此の喫茶店は、

 「()()()()()

 なので御座います。


 其の異様さをご理解いただくため、此のお店の或る常連の方のお言葉を、紹介致します。


 ああ。

 許可は頂いておりますので、ご安心ください。


 では、早速。

 其のお方は、此のようなことをおっしゃいました。


「此のお店は、可笑しいよ。喫茶店なのに、廃墟に入る前の緊張感を味わうなんて。他ならあり得ないだろう?」


 ええ。

 随分と、難儀なお方です。


「よし。こうなったら、周りにある建物を全部、跡形もなく消し炭にしよう。そしたら喫茶店が廃墟じゃなくなる。だって、周りの建物は鉄屑だからね」


 ああ。

 噺が、変わって参りました。


 何とも、爆発的な思考の持ち主で御座います。


 しかも皆様、お気付きになられましたか?


 場違いな建物は、間違いなく喫茶店の方なのです。


 ですが、此の喫茶店の独特な雰囲気を前にすると、其のようなことも考えられなくなってしまうので御座いましょう。


 魅力に取り憑かれた方の、怖ろしい末路で御座います。


 さて。


 其れでは、前座噺も済んだところで。


 皆様が待ち望んでいるであろう、此れまで濁してきた喫茶店の外観の噺に参ります。


 ええ。

 其の建物は、一見すると古民家のような姿をしている、廃墟で御座います。


 其の理由は、単純明快。


 錆びた門扉を抜けた先にあるものが、人の背丈を優に超える、雑草の森だからで御座います。


 そして。

 其れだけではありません。


 なにせ、木造の外壁の至る所を蔦が覆い隠し、辛うじて見える外壁も、其の殆どが腐っているからです。


 しかも其の草の森では、至る所で虫と小動物の楽園が生成されているのが見受けられるのです。


 ええ。

 恐らく、此れがお店にとっての普通なのでしょう。


 さて、如何です?

 此れには、世辞の方が裸足で逃げ出すという物でしょう。


 けれども、此の程度なら未だ笑って見過ごせるという寛容なお方がいらっしゃることを、我々は知っております。


 其のような方には、此処で或る事実を告げさせて頂きます。


 其の事実とは

「此の喫茶店が情報の海(インターネット)を幾ら潜っても、情報は得ることができない」

 というもの。


 さて。

 如何です?


 皆様が情報を得る際の心強い味方。

 何時でも、皆様の助けになる便利な文明機器。


 其れが

「ただの()()になる」

 という、其の事実は。


 ええ。

 此れには、驚かれることでしょう。


 まあ。

 此の真相は

「店主が極度の機械音痴で、情報を発信しようとしても、機械を破壊してしまうだけ」

 という単純な噺なのですが。


 其れは、言わぬが華というもの。


 さて、其れでは。

 此処までお聞きになって、如何でしたか?


 普通とは、かけ離れた姿でしょう。


 兎にも角にも。


 此処を一目見てお店だと分るには、多大なる苦悩と苦痛、混乱と困惑を催すのだということ、ご理解いただけましたら、幸いです。


 そして、此のような特徴的な存在感を漂わせているからでしょう。


 店内に入った者は皆、一様に驚きの声を上げるので御座います。


 其の理由は、明々白々。

 此れまでの話が、外観に限ったことだからで御座います。


 其れにしても、情報が何もない状態で、此のような廃墟に入ろうとは。


 此の場所が、喫茶店であるということを知っていても躊躇なさる方がいるのですから、随分と、勇気のある行動だと言えるでしょう。


 命知らずとも言えますが、其れは、考えないことに致します。


 さて。

 噺を戻しまして、喫茶店の噺で御座います。


 ああ。

 突然ですが、皆様。

 廃墟巡りは、お好きですか?


 何故、此のようなことを聞いたのかと申しますと、此の喫茶店に来る方の多くが、廃墟巡りを趣味にしているからで御座います。


 此れは、外観が廃墟同然ですから、仕方ありません。


 しかし、其のような酔狂な趣味をお持ちの方は、此れから店内に入り、ご自身の目を疑うことになるのです。


 何故か?


 其の理由は、皆様ご存じ、此の場所が廃墟ではなく喫茶店だからで御座います。


 けれども、其れを知らずに廃墟巡りに興じていた酔狂な方は違います。


 なにせ、今まで見ていた怪しげな雰囲気が扉を開けた瞬間に一変したのです。


 此れには、幾ら愚鈍な者であっても、

「あれ、()()

 と疑うこと、違いなく。


 なにせ、外から見えていた蔦や雑草が、店内からは何処にも見当たらないのです。


 此れには

「疑うな」

 という方が酷というものでしょう。




 さて。

 此の時、此の瞬間。


 此処に来た者は、二通りの行動に別れることになるので御座います。


 一つ目は、廃墟巡りに来た者達に多いことですが

「期待外れであった」

 と早々に踵を返し、帰宅するという方々です。


 其れも、そうでしょう。

 廃墟を見に来たのに、在ったのは喫茶店だったとあれば、笑い噺に違いありません。


 では、もう一つは何なのか。

 其れは意を決して、店に入り、料理を注文するという者です。


 ですが、此方の方が一般的です。


 入る前に必ず一悶着ありますが、結局は身から出る好奇心に打ち負け、喫茶店の扉を叩き、料理を注文するのです。


 では。

 此処で、一悶着の例を三名ほど、挙げてみましょうか。


 一人目は、其の喫茶店があまりに幻想的であったが為に、其の光景に目を奪われ、意識を奪われ、気絶なさいました。


 二人目は、其の光景を目にして

()()のようだ」

 と言い残し、数秒沈黙なさいました。


 其の後、同行者に此の景色が現実であるのか確認するために

「平手をしてくれ」

 と頼み込み、最終的には右の頬に紅葉模様を作り上げたようで御座います。


 食事の際に、飲み物が染みると、ぼやいておりました。


 三人目は、前の二人とは異なり、一見すると、何も変わりない仕草や言動をしておりました。


 しかし、食事が運ばれてきた際に奇声を挙げながら、店主に感謝の言葉を述べておりましたので、矢張り動揺していたのでしょう。


 話していた言語が、日本語ではなく外国語だったことが、其の証明です。




 如何です?


 此れが、此処の日常です。


 ああ。

 何と数奇で頓痴気(トンチキ)な日常でしょうか。


 しかし此れだけでは、御座いません。


 そう。

 此のお店には、或る規則(ルール)が存在するので御座います。


 意外ですか?

 そうでしょう。


 さて。

 其の規則とは

「此の店に入った瞬間から、悪事を働いた人間であれ、善行に勤しんだ人間であれ、問題行動を起こさない限り、等しく客人である」

 というものです。


 ええ。

 此の店では、善も悪も関係ない。


 問題行為を起こさなければ、誰でも受け入れる、という店主の粋な心意気の表れなのです。


 しかし此の心意気は、普通ではあり得ないのかもしれませんね。


 まあ。

 店主の言い分としては

「第一、此の店に辿り着く人が少ないですから、問題ありませんよ」

 とのことでしたが。


 まあ。

 実際、此の規則は影のように薄く、殆ど存在していないも同然ですから。


 此れには、店主は何も言えないでしょう。


 けれど、規則は在って困ることでは御座いません。


 もしろ、無ければ困るものなので御座います。


 そして勿論。

 違反者にはきちんと、罰則、制裁が用意されております。


 しかし、嬉しきことに記念すべき一人目が未だに現れていないものですから。


 何の罰則があるのか、誰にも分らないのです。


 第一、自分の首を自分で絞めるような愚か者は、此の場所には訪れません。


 其のような者、此の外見を見た瞬間、興味を無くして立ち去ります。


 此れも、お店の治安安泰の理由なのでしょう。


 さて。

 此れらの規則を理解した時。


 来客は初めて、喫茶店へ入店の許可を得るので御座います。


 客が、店を選ぶのでは御座いません。

 店が、客を選ぶのです。


 そう。

 今迄の来客への対応は、客人ではなく訪問者という扱いだったので御座います。


 混乱される方も、いらっしゃるかもしれませんが、此れも知られざる規則の一つなので御座います。


 さて。

 では、此のような規則があるお店の内装、如何様な姿をしているのか。


 気になった方もいることでしょう。


 しかし、其の前に暫し休息を。


 なにしろ、休みなく噺を続けておりましたから。

 喉が砂漠のように干上がってしまいまして。


 故に、大変勝手ながら、水分補給をしたいので御座います。


 ああ。

 何卒、皆様の前から姿を消す此の無作法を、お許しください。




 おお。

 許して、いただけるのですか?


 ああ。

 ありがとう御座います。


 其の優しいお言葉に、わたくしの心は救われます。


 其れでは、皆様。

 縁もなけなわ、噺の佳境では御座いますが、しばしの別れで御座います。


 ご安心を。

 別れは、刹那の間で御座います。


 ええ。

 人の渇望が潤うように、わたくしの喉の渇きが癒えたとき、再びお会い致しましょう。

お読みくださりありがとう御座います


それでは、続編をお待ちください


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― 新着の感想 ―
品のある、かつテンポのよい不思議な文章がとても面白い作品だと感じました! 評価ブクマさせて頂きました!
何かの台本のようで、テンポよくスッと入ってくる文章が珍しく、面白いなと思いました。 少々もったいぶりすぎな感じもしますが、私は嫌いじゃないです。
Xから来ました 序盤の落語や講壇のような入りが気に入りました 一話分の小説としては若干長いのが気になりました 何章かに区切った方が読みやすくなるかと思います
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