故障にて
……お待たせいたしました。
何やら、本日は機械の機嫌が悪いようで、準備に手間取ってしまい、誠に申し訳ありません。
ですが、ご安心ください。
機械は機嫌が悪くても、仕事は確実に行ってくれるものです。
……さて。
其れでは皆様、ご準備はよろしいですね?
ええ。
では、此れから……。
ご自身の眼で、お店の外観をご覧ください。
其れでは、此方で御座います。
ご覧ください。
ええ。
皆様の眼前にあり、わたくしの後方にある。
先程ご紹介した絶讃不機嫌真っ只中である映像機器が、仕事を放棄していなければ、其の姿、映していることでしょう。
如何です?
映っていますか?
映っているのであれば、先程のような言葉は、決して抱くことができないと、ご理解いただけるはずで御座います。
おや?
皆様。
何故、其のように首を傾げておられるので?
何か、ありましたか?
真逆、本当に画面に映像が映っていないので?
おや。
どうやら、其のようですね。
……まだ、不機嫌なのでしょうか。
其れとも、本当に仕事を放棄して?
……え。
お巫山戯で言ったのに?
……叩けば、直るでしょうか。
しかし、此れは不味いですね。
もし故障したのであれば、また修理費用に翻弄されてしまう。
……失礼いたしました。
お気になさらず。
しかし、此のまま何もせず、機械の機嫌が直るのを待つだけでは、味気ない。
……此処は、失礼ながら。
わたくしが口頭で、此の喫茶店の普通ではない、其の理由を説明させていただきます。
……しかし、理由は単純です。
何故から、此のお店の外観が、お世辞にも美しいとは言い難い。
つまり……。
何とも言えぬ姿をしているから、という此れだけなので御座います。
……否。
言葉を濁さず、申し上げましょう。
ええ。
此の喫茶店は、
「朽ちた廃墟」
なので御座います。
其の異様さをご理解いただくため、此のお店の或る常連の方のお言葉を、此方の蓄音機でご紹介いたします。
ああ。
許可は頂いておりますので、ご安心ください。
では、早速。
其のお方は、此のようなことをおっしゃいました。
「此のお店は、可笑しいよ。喫茶店なのに、廃墟に入る前の緊張感を味わうなんて。他ならあり得ないだろう?」
ええ。
随分と、難儀なお方です。
其れでは、次に……。
「よし。それじゃ、周りにある建物を跡形もなく消し炭にしよう。そしたら喫茶店が廃墟じゃなくなる。だって、周りは鉄屑の山だ」
ああ、失礼。
続きまで流してしまうとは。
しかし、何とも爆発的な思考の持ち主で御座います。
しかも皆様、お気付きになられましたか?
場違いな建物は、間違いなく喫茶店の方なのです。
しかし、此の喫茶店の独特な雰囲気を前にすると、其のようなこと考えられなくなってしまうのでしょう。
魅力に取り憑かれた方の、怖ろしい末路で御座います。
さて。
其れでは、此処までの前座噺。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
其れでは、もう機嫌も直ったでしょう。
次は映像を映しながら、詳しい外観の噺を……。
おや?
裏方の貴方が、何故こちらに……。
はい?
……此のままだと、作品すら映像機器に映らない?
本当に故障したのですか?
其れは、叩いても駄目な方で……。
……分りました。
今から其方に向かいます。
……皆様。
緊急事態が発生致しましたので、少々、お待ち頂けますでしょうか。
いえ。
お時間の方は、ご安心を。
遅くとも、半刻で済みますから。
……恐らく、ですが。
お読みくださり、ありがとうございます
それでは、続編をお待ちください




