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想い出  作者: 彼岸  章華


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自然にて

 人が変われば、環境が変わり……。

 環境が変われば、国も変わる。


 そう。

 雄一郎さんの話を聞いて、思った。




 私は、雄一郎さんの表情を豊かな方だと思っていた。


 だが、この考えは間違っていたのだ。


 豊か、という言葉では表現しきれなかったからである。


 なにせ雄一郎さんは、蝶のように花の舞台を舞う、踊り子の繊細さを持ちながら……。


 鷲のように空の狩場を掻ける、狩人の獰猛さも持ち合わせていたのだ。


 ああ。

 それにしても、雄一郎さんは自身の故郷を思い出しているのだろう。


 その目は、風景に浸り懐かしんでいるように見えた。


 そして、ゆっくりと雄一郎さんが口を開き

「空気の澄んだ美しい土地です。山には木々が生い茂り、様々な種類の動物がいました」

 と、言ったのである。


「へえ。例えば?」


 これは、あまり動物と触れ合う機会がなかった私にとって……。


 海を知らない子供が、初めて大人から大海原の青さを教わった時のような感覚だった。


 だが、そんな私の心境は知らず

「そうですね。鹿に鳥、それに栗鼠のような小動物もいました。まさに天然の動物博物館、見本市でした」

 と、雄一郎さんの口は止まらない。


 だが、ここで諦めてはいけない。


 雄一郎さんの口が止まらないのなら、私も思考を休めなければ良いのだ。


 それにしても、動物に囲まれる生活か……。

「それは、良いね」

 私の身近には、なかった生活である。


 すると、雄一郎さんが秘密を口にする子供のように

「でしょう?それだけでは、ありませんよ。なんと四季折々に、様々な作物が採れたのです」

 と、言い出したのだ。


「作物?山葵(わさび)とか?」


 気付いた時には、口にしていた。

 もっと、米とか言っておけば良かったと後悔するのは、数秒後の事である。


 なにせ、雄一郎さんが

「なぜ、よりによって。違います。ですが、山でしたら。春には土筆、からし菜、菜の花が採れましたよ」

 と、言ったのだ。


 だが、その時には……。


 私の頭は、

「からし菜って何?」

 という疑問で埋め尽くされていた。


「おや。聞いた事がないので?」


「ないね」


 こちとら、緑の珍しい都会育ちなのである。


 あまり、なめないでほしい。

 蒲公英ですら珍しいのだから……。


 すると、雄一郎さんが

「そうですか。まあ。からし菜は、菜の花に似ている作物です。味は、随分違いますがね」

 と、解りやすく解説をしてくれた。


「へえ」


 初めて知った。


 まあ。

 この世には、似ている植物が沢山あるから、それと同じ類なのだろう。


「さて。次は夏です。夏は楽しかったですよ。川で、魚を採ったりしましたから」


「川で?」


 昔は、遊泳禁止ではなかったのか。

 本日、二回目の驚きだ。


 ちなみに、私は学校の水泳で溺れた経験がある。


 つまり、あまり泳ぐ事は得意ではない、という事である。


 魚捕りに関しては、魚を目で追える自信がない。


 だが、私の思考よりも早く、雄一郎さんの言葉は続く。


「はい、川です。そして秋は、様々な茸が採れましたね。茸狩りです」


「良く聞く、あれか」


 今でも毎年、大人気な行事である。

 私は、間違って毒茸を食べる危険性があるから参加しないが……。



 すると、遂に。

 雄一郎さんは、冬の時期の故郷を話し始めた。


 そして、冬の話は想像以上に過酷だった。

「ええ。しかし冬は、他の季節に比べて植物も、動物もいないので苦労しました」

 それは、この言葉から解るだろう。


「ああ、何と言ったら良いか……」


 強いて言えば、自然の摂理だろうか。


「ですから、布団で優雅な一日を過ごしていましたよ」


 ちょっと待て。

 現代社会と、同じ楽しみ方をしているじゃないか。


 ……数秒前の私の気遣いを返して欲しい。


 いや。

 逆に過酷な日常を送っているから、楽しみがないと辛いのか?


 だが、自堕落な生活か。

「最高だね」

 私が、最も焦がれる暮らし方だ。


「でしょう?今となっては、良い思い出ですよ。さて、これが僕の故郷です」


 一瞬

「羨ましいでしょう?」

 という空耳も聞こえてきた。


 だが、高層住宅(ビル)の立ち並ぶ私の出身とは比べ物にならない程、雄一郎さんの暮らしは自然豊かだった。


 ああ。

 羨ましく思えてくる。


「そこでの生活は、何も不自由がなかったとは言えません」


「え?」


「それでも、自分の生活の事を不自由だと思った事はありません」


 ああ、そうか。

 それでも雄一郎さんは、故郷の事を……。


「そっか。憧れるよ、そんな生活。私も一度そんな生活を送ってみたいな」


 なにせ都会は、空気が悪い。

 人の視線を感じながら過ごす生活は、中々に苦しいのである。

 

「おや、良い物ですよ。何より空気がおいしい」


「最高だね」


 間髪入れずに言った。

 自然が豊かだと、車の往来で咳き込む事もないだろう。


 実に、素晴らしい環境である。

お読みくださり、ありがとうございます。

それでは、続編をお待ちください。

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