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想い出  作者: 彼岸  章華


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秘明にて

 案外、自分の中で気付かれていないと思っている事は、相手に気付かれている場合が多い。


 本当に大事な事は、ばれた後にどのように対応するか、である。




 ああ。

 改めて、気付いてしまった。


 雄一郎さんの生い立ちや子供の頃の話を、私は今まで一度も聞いた事がなかったのだと。


 だから私は、この話が透明に輝く結晶石(クォーツ)のような美しさを持っていると感じたのだろう。


 だから私は、先程の雄一郎さんの泥だらけになって遊んでいたという台詞に、驚いたのだろう。


 つまり私が、

「そう言えば。今まで、そういう話はしてこなかったね。貴方の話だったら興味があるよ」

 と言ったのは、そういう理由があったのである。


 ……ちなみに。

 今まで出生などの話が話題に出てこなかった理由は、私自身が身の上を話したくなかったから、という理由が主である。


 なにせ、相手が身の上を話したら自分も話さなければいけない、という風潮が世界にはあるのだ。


 すると、雄一郎さんが

「そうですね。今まで話す事もなかったですし、貴方も、言いたくなさそうでしたから。まあ、今日は機会があったという事で」

 と、私の心を見透かしたような事を言った。


 驚いた。


 ああ。

 完璧に隠せていたと思っていたのに、無駄だったのか、と落胆もした。


 ……なにせ。

 これでは、まるで自らを狼だと偽る子犬と同じなのである。


 だが、ここで無理に誤魔化しても意味がないだろう。


 だから、私は

「気付いてたんだ。やっぱり、勘が鋭いね」

 と言って、過去の私の行いを振り返って見る事にしたのだ。


 確かに、出自の話になったら急に黙ったり、不機嫌になった事はあった。


 ……これは、ばれても仕方ないのでは?


 そう思った時だった。


 雄一郎さんが、

「そんな事ありませんよ」

 と言って笑い始めたのである。


 それは、あまりにも非情じゃないか?

 私は、本当に気付かれていないと思っていたのに……。


 だが、そんな問答を繰り返しながら、私は本命の理由はばれていない事に、一種の安堵を覚えていた。


 ああ。

 本命の理由とは、それは……。

お読みくださり、ありがとうございます


それでは、続編をお待ちください

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― 新着の感想 ―
ここまで拝読いたしました。 古風な文体かと思いきや、実際に読み進めるとテンポよく読めてお話もしっかり頭に入ってきます。 雄一郎さんの人生経験が深く、何者をも見通す眼を感じ、非常に魅力的だと感じました。
リズムの良い独特の文体が魅力的な作品ですね。 まるで詩を読んでいるような、そんな気分にさせてくれる文章だと感じました。 少し堅めかと思いきや、読み始めると小難しい分かりにくさは無く、さくさくと読めまし…
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