1-24.恩人
「ヒロさん!」
シンが嬉しそうにその勇者の名を口にする。よく懐いているようだ。
「あなたがシンを助けてくださった、それから私のためにキリユキ草を取って来てくださった方なんですね。本当にありがとうございます。どうやってお礼をすればいいものか……。」
ジルは昨日まで生死の境を彷徨っていて目覚めたのはついさっきのはずだが、既に意識ははっきりしているように見受けられる。取り敢えず一安心だ。
「お礼だなんてそんな。村長やリンカさんに良くしてもらっていますから。」
「……?あぁ、もしかして冒険者として依頼を受けてくださったとか?」
『お礼』に無頓着だった部分が不思議に感じたようだ。冒険者として報酬があるのではないかと考えたらしいがあいにくただの一般人だ。首を横に振る。
「では、村に住む代わりに用心棒をやってくださってるとか?」
「私としてはそうなってくれても構わないが、こいつは数日前にアストフ村に来たばかりだ。こいつの目的は……」
なるほど、そういう生活もありかと考えていると村長が会話に割って入ってきた。
「こいつの目的は、どこから嗅ぎつけてきたか村にある名剣さ。まんまと渡すことになっちまった。まぁそれでジル、あんたを救えたんだから安いもんだけどね。」
「えっ??うちの村にそんな剣が?」
「ああ、こんな辺鄙な村にあるとは誰も思わないような名剣が代々伝えられていたのさ。リンカですら知らないはずだけどね。それでこいつはどこからかそんな情報を仕入れたらしく、騎士を目指すのに良い剣が欲しくて村に来たって話だったね。」
剣?は確かにくれるという話になっているが、それが村に代々伝えられているものと言うのは初耳だ。いや、あの剣はリンカの父であるカシィが冒険者時代に使っていた剣という風に聞いたし、洞窟の中にお墓代わりに立てられていたものだから、名剣ではあるかもしれないが少なくともこの村に代々伝わっていた剣というのは嘘のはずだ。それに騎士を目指しているなんて話はしたことも聞いたこともない。
「なるほど?そんな剣があったのには驚きですがお礼になるものがあって良かったです。本当にありがとうございました。村長も私のためにありがとうございます。」
「何、安いもんだと言っただろう。使うわけでもない剣一つでお前の命が救えたんだ。だから気にすんじゃないよ!」
今の村長の一言でどうして嘘の話をでっち上げたのか少し分かった気がする。
「あぁそうだった。ジル、食欲はあるかい?粥を作ってきたんだ。」
「ありがとうございます。頂いてもいいですか?」
「あっじゃぁ私が……」
部屋の入口で様子を見ていたリンカが声を上げるが村長が遮る。
「いや、私がやるからリンカはシンとジルと一緒にいてやっておくれ。悪いがヒロ、少し手伝ってくれるかい?ジルも見知らぬ人がずっといると落ち着かないだろう。悪いが頼むよ。」
「はい、分かりました。」
◆
「さて、さっきは下手な嘘につき合わせて悪かったね。」
キッチンで持ってきた鍋を火にかけながら村長が話を切り出す。初対面の自分がいるとジルが落ち着けないというのもその通りだろうが、こうして自分と話をするためというのが手伝いを指名した主な目的だったのだろう。
「いえ、何となくですがそうした理由も分かるので……。」
「そう言ってもらえて良かったよ。念のため聞いておくが、キリユキ草を取って来ようと、助けようと思った明確な理由はあるのかい?リンカとシンから聞いた話では成行きでそうなっちまったものと思ってるんだが。」
「はい、昨日の夜もそのことを考えていましたが、どうして助けようと思ったのか自分でもよく分からないんです。ここだけの話、可哀想とか助かって欲しいとは思いましたが、知らない人ですし自分が危険を冒してまで助けたいとは正直思わないです。勇者で死なないと聞いていても本当か分かりませんし、冒険じみたことなんて経験がありませんし。なので何でこんなことになったのか自分でも未だに分かっていないんです。」
「勇者は人間と『死なない』以外はそこまで変わんないと思っていたが、そういう所も少し違うのかもしれない。もしかしたら単純に死なないだけでなく、無茶をしやすいとか精神の在り方みたいな所にも違いがあるのかもねぇ。」
確かに村長の言う通りかもしれない。記憶が曖昧なので断定はできないが、自分の場合は平和な異世界からの転生者?か転移者?のはずだ。だからこんな魔物がいる世界で危険を冒すような選択をするはずが無いと思っているが、もしかしたらこの世界にやってくるときに思考回路か何かに影響が出ている可能性がある。
「話を戻させてもらうと、お前さんも察してくれていると思うが、シンはともかくジルは理由もないのに助けられたと言われたら困惑するだろう。それに少し話していても分かったかもしれないがとても真面目で誠実な子だ。何かしら『お礼』があった方がお互い収まりが良いだろう?」
「はい、そう思います。それに実際に剣は頂いて良いんですもんね?であればまるっきり嘘という訳でもありませんし。」
「そう言ってくれると助かるよ。私からも改めて本当にありがとう。もちろんあの剣はお前さんにやるよ。自分で使ってもらってもいいし、使わなければ売っちまえばいい。それなりになるだろう。」
◆
「ごちそうさまでした。」
「良かった、全部食べれたんだね!」
「うん、村長の料理、久しぶりに食べたけどやっぱり美味しいね」
「高々粥で大げさな。ちゃんと元気になったらもっと色々作ってやるから楽しみにしときな。」
無事お椀に軽くよそわれた粥をジルが綺麗に食べ終えた頃にはシンは再び眠りについていた。今度はソファではなくジルのベッドの端っこだ。
「ごめん、私もご飯食べたらちょっと眠くなってきちゃった。」
「あっそうだよね。無理しないで。こっちこそずっと話しかけちゃってごめんね。お休みなさい。」
「うん、ヒロさんもリンカも村長も。もちろんシンも、みんな本当にありがとう。お休みなさい。」
少しすれば姉弟の穏やかな寝息が聞こえてきた。
今週は正真正銘、週を跨ぐ前のちゃんと今週中の投稿達成です!
(1時間ほどしか猶予が無かったことには目をつむりながら)偉い笑
さて、内容については今まで触れていない部分の話だと、報酬の部分ですね。今話はRPGでお馴染み、毒に侵された村人を救うクエストに対する報酬の話でした。
今回は結構良い剣がもらえるので問題なさそうですがゲームだと、えっ、あんなに難しいクエストだったのに報酬これだけ?ってことよくあると思います。(逆もある気もするけど)
何で命がけでモンスターを倒しに行ったのに薬草しかもらえないんだよ!とか、渡す当人も使い道が分からないのにどこかで集めている人がいたはずとかほざいて渡される小さなメダルとか。
本当にクエストの内容次第ですが、報酬それってお前の良心は痛まないのか?と聞いてやりたいことがありました。どころか命を救われて大したものを返せないと逆に不安にならない?って感じです。
というのが今話のジルでした。
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ではまた来週!




