1-21.悪夢
本編も勿論読んで欲しいが、それよりも後書きを見て欲しい……。
今話どころかいつか書くかもしれない設定が書いてあるのでネタバレ?注意笑
左足が何かを踏んづけている。よく見れば、それは緑色の手、ゴブリンの手だ。慌てて一歩後ずさる。
「カランッ」
引いた足に今度は固い何かが当たった。恐る恐る目を向ければ所々ひびが入った白骨だった。
右足首が掴まれる。食い込んだ爪に痛みを覚えるも無理やり振り払い一歩前へ進む。
「ピチャッ」
水、否、血だまりに踏み込んだ一歩が周囲を静かに汚す。
気が付けば腰のあたりまで血の池に沈んでいる。再び足に、今度は腕にも沢山の手が伸びてくる。
足の感覚はもうない。腕まで来ていた赤い液体が纏わりついた手が肩、そして顔へと―
「うわぁぁ!!」
ベッドの上で荒い呼吸を繰り返す。全身汗でビチャビチャだった。何となく違和感がある肩を払いようやく落ち着きを取り戻す。
カーテンの隙間から外を覗くもまだ真っ暗だ。それどころかやはり異世界との技術水準の差ということか、真夜中とは言えとても人が住んでいる場所とは思えない暗さだった。田舎であれば元の世界も似たようなものだっただろうか?
そんな事を考えながら再び眠りにつこうかと思ったが、汗は酷いし喉がカラカラだった。少し夜風にでも当たってこようと立ち上がり部屋を出ていく。隣の部屋は冒険者の3人が泊っているはずだ。起こさないように静かに息を殺して歩いていく。
昼間の洞窟でも同じようなシチュエーションがあった。あの時はゴブリンに見つからないように息を潜めていた。しかし結局……。
先ほど見ていた悪い夢では多分ゴブリンに追いつかれていた。体中を纏わりつく嫌なイメージから気付けば少し足が速くなっている。
現実でも洞窟の入口からやってきたゴブリンに追いつかれたし、何だったら奥に逃げていたゴブリンに自分から追いついた。殴られたり噛み付かれたり、更には雷の魔法を使うゴブリンなんかがいて。見た目の差は勿論あるだろうが、やはり犬に噛み付かれたりするのとは訳が違う。
それからすっかりボロボロになった体はポーション一つである程度回復して。ゲームではお馴染みだが実際に使うとなると不思議を通り越して恐怖を覚える。
でも一番は……。剣を握っていた手を見る。時にはその辺に落ちていた何のものかも分からない骨を握っていた手を見る。肉を切った、骨を砕いた、殺した。
途端に胃からこみ上げてくるものを飲み込む。気付けば宿の外まで出て来ていた。壁に手を付き再び乱れた呼吸を必死で抑え込む。
「ヒロさん?」
声が聞こえた方を見ればレティが立っていた。
「大丈夫ですか!?すぐそこにベンチがありますから一度座ってください。」
促されるままにベンチに腰掛ける。肺だろうか、胃だろうか、どこかも曖昧だが熱く痛い。
「顔色が悪いですね、少し休んでいてください。お水を準備してきます。」
一声かけたレティが駆けていく。少しの申し訳なさを感じるもとても動けそうにない。揺れる視界に何とか食いしばり耐える。目は開けたままにする。瞼の裏には嫌な光景がへばりついている気がするから。
そのまま少し経てば木のコップを持ったレティが戻ってきた。ぱっと手をかざせばコップに常温の水が注がれる。それから少し何かを口にした後こちらにそっと手を伸ばしてくる。
「パニックに近い状態かと思いましたので、鎮静効果のある魔法を掛けさせていただきました。どうですか、少し落ち着いてきましたか?」
何度か深呼吸をすれば少しずつ頭に溜まった熱が収まってくる。
「……、ありがとうございます。だいぶ楽になってきました。」
「それなら良かったです。お水も飲まれますか?」
差し出されたコップを受け取りゆっくりと飲み干す。やっと呼吸が整ってきた。
「何か悪い夢でも見られたのですか?」
水を飲む間、じーっとこちらを見ていたレティが尋ねてくる。その通りではあったが原因はそこではない。やっと一息つけた今、どうしてもここ数日の出来事が脅迫かのように何度も思い出される。短く返事をした後、一番気になっていたことを聞いてみる。
「ゴブリンに家族とかって概念はあるんですか。その、親子とか兄弟とか。」
一瞬険しい表情をした気がするレティが何でもない事のように教えてくれる。
「ゴブリンに限らず魔物の大半ですが、人間で言う所の家族のような関係は存在します。子を成すこともあるそうです。」
話を聞くほど確信が深まっていく。あのゴブリンは子供を逃がそうとしていたのではないか、兄弟で支えあっていたのではないかと。
「ですが、自然界で実際に子を産むケースは稀のようです。ですので、もし家族のようなゴブリンがいたとしても、それらが実際に夫婦で、親子であるわけではなく最初からそういった関係として生まれてきているケースが大半と言われています。」
いまいち理解が追い付かない。様子から察してくれたのか話を続けてくれる。
「あぁ勇者達の世界ではありえない現象だそうですね。では、あなた方から広まった言葉を使って説明するならば、家族という関係のゴブリンの群れとして、突然『スポーン』するのです。」
スポーン:キャラクター等がマップ上に出現・生成されること。
ゲームを嗜む人であれば馴染み深い単語なのではないだろうか。とある有名作品では「スポーンブロック」という魔物を生成するアイテムが存在する位だ。どうやらこの世界はそういったゲームのように、色々と条件はあるようだが突然魔物が生まれることがあるらしい。
「ところで倒したゴブリンの死体は確認されましたか?死んで暫く経った後に死体が残っていなかったのであれば、ほぼ間違いなく『スポーン』した個体で別の個体から産まれたものではありません。」
「ちゃんと確認したわけではないですが、言われてみれば多分……、消えていたと思います。」
「それなら良かったではないですか。ゴブリンごときにあまり使いたくない表現ですが、家族を滅茶苦茶にしてしまったのではないかと不安になっていたんでしょう?」
これを認めてしまっていいものか分からないが、明らかに先ほどよりも心が凪いでいるのを感じる。
「でも―」
「そもそも、スポーンした個体だったか産まれてきた個体だったかって関係ありますか?どちらにせよ人間を害する魔物に変わりないじゃないですか。であれば、一匹残らず殺すべきです。ほんと、いくらでもリスポーンするのが忌々しい。」
レティの言葉に何も言い返せない。
「他にも色々とお話したい所ですが、顔色が良くなったようですので、今はここまでにしましょう。先に部屋、戻らせていただきますね。」
「あ、あの!色々とありがとうございました。お休みなさい。」
秋の心地よい風に吹かれ汗は乾いていた。完全にすっきりしてはいないが、一先ず眠ることはできそうだ。ぼんやりと、まだ月が主役の時間の空を眺めてから部屋に戻った。
更新が遅くなっちゃいましたが、今話は結構書きたかったパートでした。
というのも魔物の設定についてそこそこ早い段階でコネコネしていたのがやっと出せるので。
詳細はもしかしたら後で本編で書くかもしれませんが、ざっくり後書きで書いちゃお。
(我慢できなかった)
・魔物は色々な条件の基、自然発生する。また交配等の結果産まれることもある。
・リスポーンと言う言葉がこの世界にあるほど同じ地点から類似の魔物がスポーンするのは、単純にその場所がその魔物を発生させる条件が整っているため同じ魔物が発生しやすいだけ。
・魔物の肉体についてスポーンしたばかりの頃は魔法的な物質に寄っており、食事等を通して一般的な動物と近い物質に寄っていく。作中であった「死体が消えたらスポーンした個体」は魔法的な物質ほど空間中に溶けやすいため。つまり長生き(≒強い)魔物ほどアイテムドロップしやすい。また「○○の角」のように魔物の代表的な部位が残り易いのは、摂取した物質やエネルギーが重要な器官に優先的に使われるため。
この作品はあくまでもゲームっぽい異世界の設定なので、
ゲームの仕組みに対して理屈付けする必要は無いはずなんですが、
どうです、それっぽい理屈に聞こえませんか?(小並感)
それではまた来週のどこかで!




