異世界に降り立った
「ねぇ、ぷるたんはさぁ。何のランカーだったのぉ?
私はヒーラーのランカーだったんだぁ」
ルリリがそう尋ねて来た。
あまり聞かれたくないのだが、期待した目で見られている。
ルリリの問い掛けに反応したのか他の若者もこちらを見ていた。
「最後に遊んでいたゲームは3か月前に引退しておりましてのぅ。
仲の良かったギルメンの結婚式に参列すべくたまたまINしたら
この有様ですじゃ。
なので今はランカーから外れていると思うんですがのぅ」
「でも此処に居るんだからまだランカーのままなんじゃないのぉ?」
「そうですよ。引退しても1年以上ランカーのままというプレイヤーも居ますし」
「ちなみに俺はタンカーのランカーでした」
「あ、俺は魔導士のランカーです」
「おぉ、3人共凄いですのぉ」
「で?ぷるたんは?」
「儂ですか。儂はですのぅ。
個人ではありませんがギルドランク1位のギルマスでしたじゃ。
個人で言うならば、そうですのぅ。
ハウジング・ガーデニング・馬のブリーディング・家具職人・薬師・テイマー
ここら辺ですかのぅ」
「すごっ!それ全部ランカー入りしてたの!」
「もしかしてぷるさん・・・」
『 終了5分前です 』
アズールが何か言い掛けたところでアナウンスが流れる。
残り5分か、あの草履事件の女の子は何処だろう。
探そうと思ったのだが、若者達が自分も連絡先の交換をと押し掛けて来て探す事が出来ない。
複数にランクインしているからと申し出てくる人とは正直知り合いになりたくない。
リアルでも肩書きに弱い人はいたけども、そういう人はすぐに裏切ったり情報を横流ししたりするものだ。
私が挙げたのは最後に遊んだゲームでトップ3に入っているものだけだ。
トップ10となればまだ数は増える。
あのゲームは10年もの間遊んだのだからそんなものだろう。
私は群がる若者を押しのけてあの女の子を探す。
時間が無いので少し焦っているが、なんとか見つけ出す事が出来た。
女の子は軽食コーナーの前にチームメイトと立っていた。
「見つけましたじゃ」
「あ、おばさん。やっほー。人気者だねぇ」
「人気者とは違う気がしますがのぅ。
ところでお嬢さん、儂と連絡先の交換はして貰えませんかのぅ」
「あたしでいいのぉ?
おばさん人気者だから遠慮してたんだよねぇ」
「お嬢さんが良ければ是非ともお願いしますじゃよ」
「へへ、嬉しぃ~。
あたしこぉんな感じだからぁ、嫌われる事が多いんだぁ」
「儂も嫌われ者ですじゃよ。年寄りですしのぅ。ふぇっふぇっふぇ」
「なんでソイツは良くて俺は駄目なんだよ!
俺とも交換してくれよ!」
「アタシとも!」
騒ぐ若者達を無視して女の子と連絡先を交換する。
女の子の名前はカナン。
『 終了です。
ようこそ我らが世界へ。皆さんに幸あらんことを 』
カナンによろしくと言う間も無く、視界が暗転したかと思えば川が流れる茶色の大地に佇んでいた。
行き成りすぎではないだろうか。
そして降り立つにしても場所の説明くらいはして欲しいのだが。
ホロケウ様が指さしたのはざっくりとした場所で国の名前がハジャラとしか分からなかった。
地図はないのだろうかと肩掛け鞄の中を探してみる。
この肩掛け鞄はチュートリアルでも使っていた竹水筒が入っている鞄だ。
収納鞄とは別にこのかばんも持たせてくれたのは嬉しい。
なんとなく愛着が湧いてしまったのだ。
収納鞄はこれよりも一回り大きな肩掛け鞄だった。
見た目が普通の布鞄なのは収納鞄だと分からない様になっているかららしい。
鞄の中には竹水筒3つとナイフ、財布の革製巾着袋。
そして地図も入っていたので安心した。
地図を開いて見てみれば、ハジャラの地図らしく現在地に赤丸が付けられていた。
どうやら首都の近くに立っているらしい。
周囲を見回して確認してみれば東の方角に街らしき影がみえるのであれが首都なのだろう。
首都を目指して歩き始める。
大地は乾燥していて硬く、足の裏が痛くなりそうだ。
街に着いたら靴屋を探して歩きやすそうな靴を探すのもいいかもしれない。
一応道らしきものはあり、道端には低木や草なんかも生えている。
だが見覚えのない物なのでこの世界特有の物なのか、日本には無かった物なのか。
生活が落ち着けば調べてみたいと思う。
体感で20分くらい歩いただろうか。
街の入り口である門に辿り着く事が出来た。
門の前に立っている兵士が私に気付き声を掛けて来た。
「ようこそ首都ラビアへ。
歩いて来られたのであればお疲れになったでしょう。
どうぞこちらへ。
詰所の中は涼しいですからこちらで入街手続きをおこないましょうか」
「お気遣いありがとうございますじゃ」
案内されたのは門に連なる塀に併設された詰所だった。
中に入れば椅子へ座るよう勧められ、冷たい水の入ったコップを渡された。
礼を言って受け取り一口飲めばほんのりと柑橘系の香りが広がる。
なるほど、フレーバーウォーターか。
自分で作ってみるのもいいかもしれない。
「こちらの水晶玉に手をかざしていただけますか」
「はい。こうですかのぅ」
目の前に置かれた水晶玉に手をかざせば青く光った。
「はい、大丈夫ですよ」
「今のは?」
「ああ、初めてですか?
この水晶玉は犯罪歴の有無を見る為の魔道具なんですよ。
犯罪歴の無い人は青く光り、犯罪歴がある人は赤く光ります。
そして指名手配犯などは黒く光るんですよ」
「なるほど、便利ですのぅ。
教えて頂きありがとうございますじゃ」
「いえいえ。
では入街税として小銀貨1枚を頂きます。
この入街税は門や塀、道などの整備に使われます」
「それは使い道が分かって良き事ですじゃの」
私は鞄を開き巾着袋から小銀貨1枚を取り出し兵士に渡した。
ついでに何処かお勧めの宿はないかと聞いてみれば、兵士は値段が手頃で冒険者も利用する宿を教えてくれた。
冒険者が滞在している宿は犯罪者が避けるので防犯面でも安心なのだと教えてもくれた。
なるほど、確かに犯罪者に報奨金が掛けられる事もあるだろうから冒険者には近づかないか。
覚えておいて今後宿を探す時の目安にすればいいだろう。
教えて貰った様に詰所の前から伸びている大通りを真っ直ぐ進めば噴水に到着する。
この噴水は街の中心にあるのだそうだ。
その噴水から西へと伸びている通りを進む。
この通りは冒険者通りと呼ばれていて各種ギルドの建物や宿屋、食事処などが建ち並んでいるのだと教えて貰った。
通りを進んで行けば右手側に緑色の看板が見えてくる。
此処が教えて貰った宿になるらしい。
街の建物は煉瓦造りか石造りで茶色か黄土色の建物しかない。
どれも同じような作りで同じような色と見分けが付きにくいので民家でなければ看板は必須なのだとか。
確かに看板が無ければ私は迷子になる自信がある。
宿屋の名前は「ヒバリ」
入口の扉は開いていたので中へと入る。
「いらっしゃい。おじぃさん1人かしら。何泊する?」
おじぃさん?
私以外にも来客があったのだろうかと見回すが私意外には居ない。
え、私の事? 嘘だろと衝撃が走る。
「おじぃさん顔色が悪いけど大丈夫?」
「はっ、大丈夫ですじゃ。10日くらいの連泊は可能ですかのぅ」
「ええ、大丈夫よ。うちには1ヶ月とかの長期滞在の人も多いの。
じゃぁ料金は前払いで10日分で大銀貨1枚ね。
朝食と3日に1度のシーツ交換は料金に含まれているわ。
夕食や掃除は別料金になるけど、必要なら当日の朝に言ってちょうだいね」
「はい、解りましたじゃよ。10日ほどお世話になりますじゃ」
大銀貨1枚を支払い部屋の鍵を受け取ると、私は急ぎ足で割当られた部屋へと向かった。
読んで下さりありがとうございます。




