教会へ向かう
2階へと続く階段を上り、左の一番奥が私に割り当てられた部屋だ。
部屋の扉には鍵に付いている木札と同じ小鳥の模様が描かれていた。
可愛いなと眺めていたがのほほんとしている場合ではない。
鍵を開けて中へと入ればこぢんまりとしたワンルームで洗面台とトイレも完備されている。
洗面台には鏡もついていた。ありがたい。
荷物も降ろさずにそのまま鏡を覗き込めば、あの時ログインした「じぃや」が映し出されている。
服装こそ執事服ではないが、どこからどうみても「じぃや」だ。
白銀色の長い髪を後ろで一つに纏め、銀縁の眼鏡を掛けている。
目は薄灰色で二重になっており、左耳にはリング状のピアスが2つ付けてある。
口髭と顎鬚が少しばかり伸びており、服装によってはちょい悪親父にも見える。
そんなキャラクター「じぃや」が鏡の中に居るのだった。
何故「じぃや」になってしまったのだろうか。
ホロケウ様と一緒に手続きして決め・・・
忘れているではないか。
そう言えば数が多すぎるからとホロウケ様が厳選して後から決める事になっていたのにホロウケ様も私もスッカリと忘れてしまっていた。
だからと言って「じぃや」はあんまりだと思う。
せめて「ばぁや」にして欲しかった。
ゲームだから異性キャラクターでもよかったのだ。
それが現実でとなれば何かと困り事が出てくるではないか。
例えば生理現象とか・・・
まずいな、先程冷たい水を頂いてしまった。
どうすればよいだろうか。
そう言えば教会があるとホロケウ様は言っていた。
教会には神様が祭られているはずだ。
そこで祈ってみてはどうだろうか。
私は駄目で元々だと思い、尿意を催す前に急いで教会へ向かう事にした。
教会の場所が分からないので宿屋のおかみに聞いてみた。
「噴水から北に向かう通りを進んで行けば貴族の屋敷が並んでいるよ。
そこを抜ければ教会が見えるからすぐ分かると思うよ」
「なるほど、解りましたじゃよ。ありがとうございますじゃ」
「この街には変な貴族は居ないけど、気を付けて行くんだよ」
礼を言ってから宿を後にし教会へと向かう。
まずは噴水を目指し、そこから通りを北上する。
なるほど、これが貴族の屋敷かといった感じの家々が建ち並んでいる。
白い石のブロックで作られており、冒険者通りの建物よりかは高級感が溢れている。
見た目からして涼し気だ。
そこを抜けると教会があった。
教会は白を基調としてアクセントに青が使われていた。
建物自体はよく見る西洋式の教会だ。
扉は開かれており自由に出入りが出来るようだった。
中に入れば心地よい風が庭の木々の香りを運んでいる様で沈丁花の様な香りを感じた。
「なにか御用でしょうか」
ふいに声を掛けられて少し驚く。
司祭だろうか。
馬鹿正直に神様にこの体について問い合わせたいとも言えず、私は当たり障りがないように答える。
「無事に旅を続ける事が出来ましたのでそのお礼をと祈りにまいりました」
「左様でございましたか。どうぞそのまま奥にお進みください。
係りの者がご案内致します」
「お手数をお掛け致します」
なるほど、すぐに礼拝室という訳ではないようだ。
奥へ進むと修道士らしき若者が立っていた。
「礼拝にいらした方ですね。ご案内致します」
細めの通路を進み案内された部屋に祭られていたのはとても美しい女神像だった。
何色の人魂だった方だろうか・・・
立ち尽くしたままでは不審に思われそうなので、長椅子に腰掛け祈り始める。
(神様方、お別れしてからまだ半日にも満ちませんがお元気ですか。
私の方は少々、いえ、かなり困った事になっておりまして。
出来る事ならば体を別のキャラクターに交換して頂けるとありがたいのですが。
無理であればせめて性別の変更をしていただけると助かります)
どうか平に、平にお願い申したくと祈り続けた。
どのくらい経過しただろうか。
何も反応が無くやはり駄目だったかと祈るのを止めて目を開けば、あの白い部屋に立っていた。
部屋の中央にはあの美しい女神様とホロケウ様が佇んでいる。
『 その体の事でしたね。
ホロケウの手違いで苦労を掛けます。
私としては貴方が初めて生み出したキャラクターをお勧めするつもりでした。
ですがすでにその体でこの世界の人々と接触してしまいましたね 』
そう言われれば、門に居た兵士や宿屋のおかみ、教会の牧師とは言葉を交わしている。
変更は無理だと言う事なのだろうか。
『 その通りで一般的な変更は出来ません。
ですので変則的な変更をしようと思います 』
どういう事なのかと思えばホロケウ様が平伏しながら説明してくれた。
ダンジョン看破の上位3チームには収納鞄の他にギフトと呼ばれる先天性の特殊スキルが付与されるはずだった。
だがルリリ達のチームが私に1位を譲ると言った事に感激してしまったホロウケ様は感情が高ぶりギフトを付与し忘れてしまった。
なのでそのギフトを『変身スキル』にしてしまおうと言う事だった。
『 何にでも変身出来る訳ではありません。
じぃや・ばぁや・スーリヤ・猫のみに変身出来ます。
そして本体は初めて生み出したキャラクターではいかがでしょう 』
スーリヤは昔遊んでいたゲームで作ったテイマーの獣人キャラだ。
何故それが選択されたのかは謎である。
そして猫。何故猫なのだろうか。好きだから構わないが。
「対応して頂きありがとうございます。
つまり今じぃやの姿になっているのは変身スキルを使っている
という事でよろしいのでしょうか」
『 左様です 』
「承知いたしました」
『 詫びとして本来付与するはずだったギフトも付けましょう 』
「 え? 」
『 そうそう、私は人魂女神ではありません。
ピリカと言う名があるので以後その様に頼みます 』
「あ。失礼いたしました」
『 ではそういう事で。 其方に幸多からん事を 』
ピリカ様はにこやかに、ホロケウ様は少し困ったように微笑んで消えて行った。
気が付けば私は女神像の前で祈りのポーズをとったままだった。
もう一度ピリカ様とホロケウ様に感謝を捧げ席を立ち出口へと向かう。
「随分と熱心にお祈りされてましたね」
出口には先程案内してくれた牧師が立っており声を掛けられた。
「はい。旅のご報告と感謝をと祈る事が多くありまして」
「そうですか。きっと貴方の声は女神様に届いている事でしょう」
「ありがとうございます」
まさか実際に会って来たのだとも言えず、当たり障りなく答えておいた。
牧師にお布施代わりの寄付金を少しばかり渡すと喜ばれた。
来た道を戻り噴水に到着すれば夕暮れ時だからだろうか。
幾つかの屋台が並んでおり食欲をそそる匂いが立ち込めていた。
宿屋では朝食しか付いていないとの事だったので何か買って帰る事にする。
色々と見た事も無い料理が並び目移りしてしまう。
「おじぃさん迷ってるのかい?」
目の前で骨付き肉を焼いている屋台の店主が声を掛けて来た。
「どれも美味しそうですので迷っておりますじゃ」
「ここらじゃ見かけない顔だが旅人かい?」
「はい。旅をしながら余暇を楽しんでおりますのじゃよ」
「そうかいそうかい。だったらうちのシシリクはお勧めだよ!
大蒜の代わりに生姜を多めに使ってあるから食べやすいんだ。
1つどうだい?」
「確かにいい匂いがしますのう。では1ついただけますかのぅ」
「へぃ、ありがとさん!銅貨5枚だよ」
店主に代金を渡し神に包まれたシシリクを受け取る。
ナンと一緒に食べるといいと教えて貰ったので何処かでナンも買って帰る事にした。
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