宿屋「ノビタキ」
「主、少し急ぐぞ」
タマにそう言われて返事をする間も無くグンとスピードが上がった。
出発が遅れてしまった為急ぐのは分かる。
分かるが痛い寒い痛い。
襟巻や冬物を買いそびれたので我慢するしかない。
ストールでも良いから首元に巻けば良かったと気付いた頃には目地に到着していた。
早かったな・・・
門の手前で降ろしてもらい入町手続きをする。
「ようこそハザルの町へ。
寒かったでしょう、中へどうぞ」
ここでも中へと案内され温かいお茶を淹れて貰った。
どこの門兵も皆親切で優しいのだなと感激し視界が滲んでしまう。
これだから歳を取ると・・・
お茶を頂き体が温まったところで水晶に手をかざす。
安定の青い光でほっとした。
「はい、大丈夫ですね。入町税は銅貨5枚となります。
こちらの町で越冬されるようでしたら
北区にある「ノビタキ」と言う宿がお勧めですよ。
長期滞在者も多く料金も手頃で旅人には人気があるのです。
ペット連れの方専用の部屋もありますよ」
「それはありがたいですのぅ。
教えて頂きましてありがとうございますじゃ」
「いえいえ。何か困り事などあればいつでも詰所に来てくださいね」
礼を告げて教えて貰った宿を目指す。
判り易いようにと地図まで描いてくれた。
あの門兵も良い青年だったなと思う。
町の大きさとしてはイーラムと同じくらいだろうか。
店が並ぶ通りを抜けて真っ直ぐ北へと向かう。
色々な店が並んでいるので気になる所ではあるがすでに夕刻なのでまずは宿を確保しなければならない。
歩いていれば教会が目に付く。
この教会が見えたら右に見える道に入り緑色の看板を探す。
困った。緑の看板を付けている建物が3軒ある・・・
どれも小鳥の絵が描かれているのだがどれが「ノビタキ」なのだろうか。
「どうかしたのか?」
迷っていると声を掛けられたので振り向くと顔に傷跡が残る大柄の獣人だった。
狼か犬系の獣人で白い毛並みが美しかった。
「ノビタキと言う宿を探しておりますのじゃが
同じような看板が3つもありましての。どれだろうかと悩んでおりますのじゃ」
「なるほど。確かに分かりにくいからな。
一番手前の建物がノビタキだ。アタシも泊っているから一緒に行こうか」
「ありがとうございますじゃよ」
女性だった。
ハスキーボイスだから男性かと思ってしまった。
うん、思い込みは良ろしくないな。気を付けようと思う。
「おかみ、迷ってた泊まりのお客さん連れて来た」
「あらまぁ、いらっしゃい。ブランカ、ありがとうね」
この獣人の女性はブランカと言うらしい。
白い毛並みのブランカ、なんだろうどこかで聞き覚えがあるような・・・
ああそうだ。シートン動物記!
思い出してスッキリとした。
「何泊する予定かしら」
「できれば越冬を考えておるのですが
ペットも一緒で大丈夫な部屋は空いてますでしょうかのぅ」
「離れの部屋になるけど大丈夫かしら」
「はい、大丈夫ですじゃよ」
「料金は一月大銀貨3枚。朝夕の2食付きでシーツの交換は冬場だから週に1回。
暖房用の薪は部屋に置いてあるけど足りなくなったら声を掛けてね。
ここまでは料金に含まれているわ。
昼食が必要な場合は朝に言っておいてね。1食銅貨3枚よ。
寒さが厳しくて移動が困難なのは2か月くらいだから
まずは2か月分の前払いをお願い出来るかしら。
後の分は出発日に清算するから」
「では大銀貨6枚ですかの。はい、お納めくだされ」
「ありがとうございます。確かにお預かりしました。
これが部屋の鍵よ。部屋に案内するわね」
渡された部屋の鍵の木札には子犬の絵が描かれていた。可愛い。
案内された部屋は離れの小さな石造り小屋だった。
この国の建物は基本石造りか煉瓦造りなので見慣れてしまったが、冬場は寒いのではないだろうか。
中には作り付けの暖炉もある。
有り難い事にペット用のベッドも置いてあった。
タマも嬉しそうに尻尾を揺らしている。
「隣の小屋がブランカの部屋だから悪さをする奴もいないと思うわ。
安心してゆっくり過ごしてね」
「ありがとうございますじゃ。冬の間お世話になります」
夕食は日が暮れてからになるので受付横の食堂まで来てねと言っておかみは戻って行った。
隣はブランカさんか。
確かに頼りになりそうな人だった。彼女も高ランク冒険者なのだろうか。
もっともこの部屋にはタマが居るので盗人でも来ようものならば返り討ちにあうだろうが。
「不届き者は成敗する。主は安心しておれ」
「成敗って・・・ 殺生はあきまへんで?」
「わかっておる」
2か月以上も此処で暮らす事になる。
まずは荷解きをし、明日は必要な物を買いに出かけようと思う。
今度こそ襟巻や手袋、冬服などの冬物を買いそろえたいものだ。
調薬をするのに乳鉢なんかはあったほうがいいのだろうか。
乳鉢・・・売っているのだろうか。
無ければすり鉢と擂粉木でもよいだろう。
薬草が生えている場所があるのであれば採取にも行っておきたいし、タマの食事となる肉も狩っておきたい。
野草だって採取しておきたいし、どんな野草があるのかも見ておきたい。
意外と忙しいな。
雪が降れば外に出るのがおっくうになるだろう。
雪が降るまで何日あるのだろうか。
荷解きが終われば夕食の頃合いとなったので食堂へと向かう。
「ああ、おばあさん。こっちにおいで」
ブランカが手招きをしているので食事を受け取り其処へと向かった。
「アタシはブランカ。見ての通り獣人で冒険者をしている。
依頼の護衛でハザルまで来たんだが予定より早く冬が来たんで此処で越冬する。
普段は北の国境にあるプシャンに住んで居るよ。宜しくな」
「儂はプルートと申します。安住の地を探して旅をしておりますじゃ。
プシャンと言いますとアシックさんをご存じですかのぅ」
「ああ、友人だがおばあさんは知り合いか?」
「先日ご縁がありましてのぅ。
そうですか、アシックさんのご友人でしたか。
どうぞ宜しくお願いしますじゃよ」
ブランカにニカッと笑い手を差し出してきた。
これはあれだよな。連絡先の登録・・・
アシックの友人であればブランクも高ランク冒険者なのだろう。
こんなに高ランク冒険者ばかりが登録されていいものなのだろうか。
取り敢えず差し出された手を無視するのは失礼にあたるので手を差し出し握手を交わす。
ほらね? 登録されたブランカの名前の文字の横にはSランク冒険者と書いてある。
ただの異邦人なのに申し訳ない・・・
その後食事を摂りながらブランカのチームメイトを紹介してもらった。
チームの名前は「一陣の風」といい、女性ばかりの4人組のチームだったが獣人2人と魔族1人人族1人というバラエティに富んだチームだった。
北に行けば行くほどいろいろな種族が住んで居るのだと教えてくれた。
ただナーガ族とダークエルフ族、精霊族は数が少ないのでなかなかお目に掛かれないらしい。
ナーガ族・・・ アナンタとクンダリ。数が少ないと言う割には2人と遭遇して何故か親友扱いになっている。
ダークエルフは私だし・・・
精霊族にはまだ遭遇していないが、希少種との遭遇率が高い気がするのは気のせいだろうか。
ここでもチート効果が発動していたりするのだろうかと少し怖くなる。
あまりチート効果が高すぎても目立ちそうで困るのだがな。
私は平穏に過ごしたいのだ。
ルリリのせいで少し騒がしい気もしないでもないが・・・
そうだ、後で連絡を入れて報告をしておかなければなるまい。
ルリリではなくアズールにしようと思う。
どうせ3人で一緒に聞いているのだろうし、ルリリだと騒々しくなりそうだ。
読んで下さりありがとうございます。




