適性が増える?
夕刻となり食事の為に食堂に向かえば、やはりあの冒険者は熱が上がっているとおかみから聞いた。
手持ちの野草の中に解熱効果がある物はない。
なにかしてやりたいとは思うがどうした物かと考えながら食事を頂く。
食べ終わりおかみに声を掛ける。
「砂糖を大匙1杯、塩を小指の先に微量、それにあれば檸檬の輪切りを1枚。
コップに水を入れてそれらを混ぜてから
あの冒険者に飲ませてやって貰えますかのぅ」
「それは熱に効くのかい?」
「解熱の効果はありませんじゃよ。
ですが熱で失われた水分を補給するのにええんですじゃ」
「ああ、なるほどね。熱が出ると脱水を起こしやすいものねぇ。
分かったよ、作って持って行っておくよ」
「ありがとうございますじゃ」
いわゆる手作りスポーツドリンクなのだが、水分補給にはいいだろう。
しっかりと水分を補って代謝をあげてやれば熱も下がりやすくなる。
あの冒険者はまだ若いし体力も有りそうで回復も早いだろう。
明日には熱も下がっていてくれるとよいのだが。
収納鞄から蓬と虎杖を取り出し3回分程を小分けにし紙で包んでおいた。
明日出発前にあの冒険者かおかみに渡しておこうと思う。
「クァクァクァッ ホヘーッ ホヘェーッ」
いつもよりも近くで鳴き声が聞こえる。
何故だろうかと思えば、窓越しにフラミンゴの姿が見える。
「近くね?・・・」
「うむ。町中に居るのは珍しいな」
思わず漏らした言葉にタマが答える。
町中と言うよりはすぐ目の前なのだがな。
耳元で鳴かれるよりはマシだと思い身支度を整える。
昨日の強風が嘘のように今日は穏やかな天気だ。
「主、今日は何処まで行く予定だ。
そろそろ冬越えの場所を決めた方がいいと思うぞ」
「そうだね。ここから2日程の場所に大きめの町ハザルがあるらしいから
其処が良さそうなら其処にしようかな。
駄目そうだったら此処に戻って来よう」
「承知した。ならば少し駆け足で進むとする」
荷造りを済ませてから食堂へと向かへばまたザワザワと騒がしい。
今度はいったい何だ・・・
「おはようございます。何がありましたのかのぅ」
「ああ、おばあさん、おはよう。
あの若い冒険者なんだけど熱も下がって傷も治りかけてるんだよ」
「若いと回復も早いようですのぅ。
熱が下がって回復傾向にあるならよかったですわぃ」
「何言ってんだい。若さだけじゃなくおばあさんのお陰だよ」
「儂は何もしとりませんがの・・・」
「おばあさん、自覚無いのぉ?
あ、お兄ちゃんを助けてくれてありがとぅ!
おばあさんの薬のお陰で明日には治ってそうだよ」
「 へ? 」
明日には治って?
いやいや、ただの蓬と虎杖であってそんな即効性は無いと思うのだが。
そもそも和漢薬は西洋薬の様に即効性がある訳でもない。
ましてやただ縫合しただけの裂傷が早々に治ってたまるか。
少し戸惑う私にあの冒険者から声が掛かる。
「ばぁさん、昨日は本当に助かった。
なぁ、あんた本当に薬師では無いのか?あの薬、効果が凄いんだが」
「薬師でもないですし、昨日のも薬では無いですのぅ」
「だがなぁ、ほら・・・」
包帯が外された足の傷は確かに治りかけていて、開いていた傷は閉じて赤く盛り上がっている。
この赤みが引き盛り上がった肉も落ち着けば完治となる訳だ。
「おやまぁ。若いとは素晴らしいですのぅ。
どれこの分なら抜糸しても大丈夫ですじゃろう」
「おやまぁって、ばぁさん・・・」
冒険者を椅子に座らせてからナイフで抜糸をしていく。
肉まで切らない様にと手が震えたのは内緒である。
「これでええですじゃろ。後は清潔を心がけてくだされ」
「ばぁさん、本当にありがとう」
「おばあさん、ありがとう!」
「ぐぇっ」
妹であろう子に抱き着かれたのだが身長差ゆえに首が締まる。
「あ、ごめんね。大丈夫だった?」
「だ、大丈夫ですじゃよ・・・」
何かお礼をとまた言われたが「お互い様だから」と断る。
たいしたことは何もしていないのに礼など貰える訳が無い。
「もしかして薬師の適性をお持ちですか?」
「いえ、無かったと思いま・・・すがの?
つかぬ事をお聞きしますが適性が増える事などあったりは・・・」
「しますよ。なのでたまには確認するほうがよいですね」
「なるほどですじゃ・・・」
「極稀になんですけどね、適性を持っているとその職に就いていなくとも
スキルが発動する人がいるらしいですよ。
もしかしたらおばあさんもそうなのかと思いましてね」
声を掛けて来たのはまた別の冒険者で角があり目が赤いので魔族だろう。
長身で銀縁眼鏡が良く似合うインテリ魔族。格好良いな。
「私は魔族のアシックと言う者です。
魔術師をしておりましてチーム『アスタロト』のリーダーをしております。
その薬師としての才能が時として厄介事に巻き込まれるかもしれません。
可能でしたら薬師に転職しておく方がよいかもしれませんね」
「ぅげぇ、やっぱりですか・・・
ちなみに、転職はどうすればよいのですかのぅ・・・」
「え?まさか転職した事がないのですか?」
「なんせ島暮らしでしたからのぅ」
日本は島国なので島暮らしと言うのは嘘ではない・・・
「なるほど。島から出なければそういった事もあるのかもしれませんね。
教会かギルドのステータス確認の水晶で転職可能ですよ」
「そうでしたか。教えて頂きありがとうございます」
「もしよければ連絡先の交換をしておきませんか。
何かあった時に『アスタロトのアシック』の名を出せば
お役に立てるかと思いますよ」
「それはありがたい申し出ですが、何故そこまで気に掛けて下さるので?」
「おばあさんが助けてくれた冒険者、チームメイトであり義弟なのです。
ですのでお礼も兼ねましていかがでしょうか」
「おやまぁそうでしたか。
こんなにしっかり者のリーダーが居るのに
何故にあの若者は焦っておったんですかのぅ」
「アシ兄に褒められたくて焦ってたのよねぇー」
「なるほど、ですが焦りは禁物ですじゃよ・・・」
「分かってるって。身に染みたよ・・・」
なるほどな、助けた冒険者の義兄がアシックと言う訳か。
おかみにも連絡先を交換しておいた方が良いと勧められたのでお願いする事にした。
そしてアシックもまたSランク冒険者だった。
アナンタといい、バールといい、このアシックといい・・・
高ランク冒険者の知り合いが増えていく。
心強く有難いのだが、少しばかり恐れ多い気もする。
私は普通に平凡なはずなのだが。
いや、ピリカ様達にチート能力授けて貰っているから普通ではないのか・・・
「私達は普段北の国境の町プシャンに滞在しています。
護衛の依頼を受けて此処まで送り届けてきたのですが
休息中に義弟が個人で採取依頼を受けたようでしてね」
「それで昨日の怪我ですか・・・」
「もぉ言わないでくれよ・・・ 反省してるからさ」
「儂はのんびり旅をしておりますじゃよ」
何かあればいつでも連絡をくれとアシックに言われる。
こういった縁で知り合いが増えるのはありがたいと思う。
朝食を済ませたら村を出る前に教会で転職しておこう。
メインジョブを薬師にするのは面倒臭いのでサブジョブでいいだろう。
この際だからメインジョブも決めた方がいいのだろうか。
私は悩みながら食べてしまい、朝食が何だったかを覚えていなかった。
美味しかったのは解っているが考えながら食べるのは作ってくれた人に失礼なので次回からは気を付けようと思う。
読んで下さりありがとうございます。




