相変わらずなルリリ
景色が流れるとはまさにこの事だろうか。
うかつに横を向こうものなら首を持って行かれそうになる。
まるで中型か大型のバイクに乗っている様な感覚だ。
懐かしいな、若い頃はよくツーリングにも行ったものだ。
当時のギルメンとも温泉に行ったなぁ、などと思い出に浸っている場合ではなかった。
しっかりと前を向き少し背を丸めて風を受け流す。
そう言えばサーキットを走るのにライセンスも皆で取ったな。
そうそう、カーブを曲がるときはスロットをゆるめて体重移動させて・・・
「主、主・・・ 主!耳を掴むのは止めてくれまいか!」
「え? 耳? はっ!ごめん・・・」
思い出しているうちにハンドルの代わりに耳を掴んで捻っていたらしい・・・
それは私が悪かった、申し訳ない。
また耳を掴んでしまわないように意識をしっかりと前に向ける。
フルフェイスヘルヘットなど無いので風が直で顔に当たって痛いし寒い。
これは早々に襟巻が欲しいと思った。
しばらく走り続ければ目的地の大きな村が見えてくる。
タマは速度を落としトッタッタッと小走りになる。
すぐに門へと辿り着くのだが、この村の外壁はイーラムの町よりも頑丈そうに見える。
「ようこそ、マカシの村へ。寒かったでしょう。
こちらで温かいお茶でもどうぞ」
「ありがとうございますじゃよ」
私の耳と鼻が赤くなっていたからか、寒かったと思われたようだ。
実際に寒かったのだが、ずっと小走りであればここまで寒く無かったはずだ。
差し出されたのは生姜の香りがする紅茶だった。
一口飲めばお茶の温かさが体に染み渡る。
温まったところで恒例の水晶玉手続きだ。
勿論問題なく青い光である。
入村税は銅貨5枚とイーラムと同じ金額だった。
「この入村税は外壁の修繕に利用されます」
「さようですか。これだけの立派な外壁じゃと修繕も大変そうですのぅ」
「害獣から村を守る為にこのような外壁になっているんですよ」
「なるほど、害獣対策ですか。ご苦労様ですのぅ」
「ありがとうございます。
村の中に害獣が侵入する事はめったにありませんが
夜間の外出は控えて下さいね」
「承知いたしましたじゃよ」
この村には大きな宿屋が1軒、小さめの宿屋が2軒あるそうで門兵のお勧めは小さめの宿で「ヒヨドリ」だと教えてくれた。
デザートに出されるイチジクのパイが美味しいのだとかで興味をそそられた。
イチジクは好きだが生でしか食べた事がない。
パイになるとどういった感じになるのだろうか。
門兵と挨拶を交わして村へと入る。
イーラムほどではないがそれなりに活気はある感じだ。
そして「ヒヨドリ」はすぐに見つける事が出来た。
門からまっすぐ進めばすぐにあったのだ。
「いらっしゃい!おばあさん1人かしら」
宿屋の扉を潜れば声を掛けられたのだがすぐに返事が出来ずにいた。
声を掛けてくれたのは門兵にそっくりな顔をした女性だ。
双子? いやでもここまでそっくりならば一卵性だろうが一卵性ならば性別も同じになる訳で。
おや? まさか門兵が女性だったか?
「おばあさん?どうかした?」
「あ、いや。失礼しましたのぅ。
1晩泊まりたいのですがよろしいですかのぅ?」
「あー、明日は天気が崩れるみたいだから2泊の方がいいかもだよ」
「おやまぁそうでしたか。では2晩よろしいでしょうかの?」
「ええ勿論。朝夕2食付きと朝のみ、どちらにする?」
「2食付きでお願いできますかのぅ。
デザートのイチジクのパイがお勧めだと伺いましたのでなぁ」
「あ、もしかして門兵に聞いたのかしら。
あれ、うちの息子なのよ。もぉ、変な勧誘したんでしょ。ごめんなさいね」
「いえいえ、儂が訊ねたんですじゃよ。どこか良い宿を教えて欲しいと。
それにしても親子でしたか。あまりにそっくりなので双子かと」
「よく言われるのよ。本当に何故あんなに似たのかしらねぇ」
そうか、親子だったか。それにしてもそっくりだな。
料金は朝夕の2食付きで2泊、小銀貨1枚と銅貨6枚。1泊2食で銅貨8枚ならば安いのではないだろうか。
料金を払い部屋の鍵を受け取る。
今回もペットが居るので1階部分が割り当てられた。
1階には部屋が2つしかなく、私が泊まるのは小鳥が2羽描かれている部屋だった。
中に入れば「ツグミ」と同じように広めのワンルームといった感じの部屋で小さめの暖炉が備わっていた。
暖炉にはすでに火が入っておりパチパチと火の粉がはぜる音が心地よい。
いいう宿を紹介してもらったなとこれだけで思ってしまう。
荷を下ろし、置いてある桶に湯を溜め体を拭き清めてから着替える。
風呂に入りたい気持ちはあるが、この国には風呂が無さそうだ。
シャワーも見かけていない。
乾燥地帯だし、いくら水に困らないとはいえ貴重なのだろう。
もっとも生活魔法が皆使えるとの事なので「洗浄」で事足りているのかもしれないが。
着替え終わると丁度夕飯の頃合いになったので食堂へと向かう。
いい匂いが漂っているが何の匂いだろうか。
「今日はノンとヴァグリだよ。お変わりは遠慮なく言っておくれね」
そう言って渡されたのは唐揚げ?
まさかの唐揚げだったが食べてみるとラム肉の味がする。
ラム肉の唐揚げは初めて食べたがスパイスが効いていて美味しい。
これはこれでハマりそうな1品だった。
ただやっぱり量が多いので頑張って食べる事になる。
「おかわりは?」と聞かれたがどう頑張っても無理である。
「小食なのね」と言われたが私の感覚では普通だと思う・・・
今度ルリリ達にも聞いてみ・・・
まずい、連絡を忘れていた。
ラグモンという美味しい料理があるよと教えようと思っていたのに綺麗サッパリと忘れていた。
今夜こそ連絡を入れようと思う。
そして待っていたデザートのイチジクのパイは絶品だった。
甘いものは別腹とはよく言ったもので、美味しく頂く事が出来た。
熱が加えられた事で甘みが強くなり、でも触感はよくてイチジク好きならば間違いなく好きだろうと思う。
部屋に戻れば満腹でそのままベッドへと潜り込みたかった。
だが忘れてはいけない。
ルリリに連絡を入れねばと思うのだが瞼が降りて来てしまう。
チンチロチン チンチロチン
うつらうつらとしているとあの電子音が聞こえた。
「はいはい、ルリリ?」
「ぷるたーん!今どこぉ?」
「今ですかの? マカシと言う村におりますじゃよ」
「村だと転移門ないよぉ~」
「いかがなされましたかの?」
「あのね、大変なの。オズたんがおたふく風邪になっちゃったぁ!
どぉしたらいぃ?おたふく風邪ってあれだよね。
男の人がなるとタマタマが無くなるんだよね?
オズたんがタマナシになっちゃうよぉぉ」
「ごふっ・・・ ゴンッ」
「あれ?ぷるたん?ぷるたーん、大丈夫?」
思わず吹いてつっぷしてしまったので、テーブルに額をぶつけてしまったではないか。
痛い・・・
どうしたらおたふく風邪でタマが無くなるという変な知識を身に着けられるのか。
何故そう思ったのだろう・・・
「とりあえず落ち着いておくれやす。
タマタマは無くなりませんので安心なされませ。
まず解熱をしませう。薬師はおりますかのう?」
「それが冬の間は居ないのぉー」
「あらま・・・
ならば脇の下や腿の付け根を冷やす事ですのぅ」
「分かった!氷貰ってくるね!」
「そのまま当てたらあきまへんで?」
「プツンッ」
「ちょ・・・ えぇぇ。ルリリー!!」
このままルリリに任せるとオズワルドが悲惨な結果になりそうなのでアズールに通信を入れる。
事情を説明すればこちらからも「ゴンッ」と音が聞こえて来た。
「ルリリは何を言っているんだ。
違いますよぷるさん。オズワルドは確かに高熱で腫れもありますけど
モンスターの毒を食らったのであっておたふく風邪ではありませんから」
「ぐほっ・・・ 全然違うじゃねぇか!
毒か、解毒薬か解毒ポーションはあるのですかのぅ?」
「それがポーション類は錬金術になるらしいんですよ。
錬金術師はこの街にはいませんし、薬師は里帰り中で・・・」
「兵士の詰所とかに常備されておりませんかのぅ」
「それだ!詰所にならあるかと思います、すぐ行ってみますのでまた!」
落ち着いたらまた連絡をすると言ってアズールは通話を切った。
相変わらず賑やかだがオズワルドは大丈夫だろうか。
今の話を聞いて錬金術師か薬師になった方がいいのだろうかと考えてみる事にする。
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