カチャンはデカかった
トッタッタッタッタッ
小気味良い音を立てながらタマが速足で進んでいる。
イーラムの次にあるのは小さな村でタマの足で半日くらいの場所にある(タマ談)らしい。
本当に小さな村なので立ち寄る旅人や商人も少なく、宿も無いようなので私も素通りする事にした。
その小さな村の次にあるのが最初の予定地となる大きな村だ。
この村は羊毛の産地らしく暖かな帽子や襟巻が買えるから寄って冬物を揃えた方がいいと冒険者達に教えてもらった場所だ。
この国の冬がどれほど寒くなるのか分からないが、冬物は確かに必要だ。
イーラムからその大きな村までは1日半掛かる(タマ談)と言うので今日はどこかで野宿となりそうだ。
良い場所があれば早めに野宿の準備をした方がいいだろう。
洞穴でもあれば良いのだが。
結果としてそんな心配は無用だった。
小さな村を通り過ぎしばらく進めば休憩場があったのだ。
お金が無い冒険者や私の様に小さな村を素通りした人達が野宿出来るようにと領主が作ってくれたのだと居合わせた行商人が教えてくれた。
整地されており魔物除けの石も置かれているのでゆっくりと休めるのだと言う。
魔物除けの石は魔道具のようで魔力切れにならないのかと疑問に思うのだが、別の冒険者が魔力に余裕がある人がお礼代わりに補充していくのだと教えてくれた。
なるほど。
領主がこうやって人々の事を考えて休憩場を作ってくれたり、余力のある利用者が魔道具の魔力の補充をしたりと其々の善意で成り立っている。
皆思いやりのある優しい人たちなんだろうなと思う。
今この休憩場に居るのは行商人1人と冒険者が3人の1チーム、そして私と5人だ。
私が最後に到着したのだがテントを張ろうとしていると冒険者達が手伝ってくれた。
「俺達が張るからばぁさんは休んでな」
「こういった力仕事は任せてくれ」
そう言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。
ならばお礼にとツノウサギの肉でケバブを焼く事にする。
適当な大きさにぶつ切りしスパイスを揉み込み金串に刺して焼くだけなので簡単である。
辺りに肉の焼ける匂いが漂い始めると4人が火の周りに集まって来る。
「おぉ、肉だ。ありがてぇ」
「干し肉じゃないのは久々だ」
「では私はノンを提供しましょうか」
「くぅー、脱携帯食。泣けるぜ」
ああ、そうか。彼らは時間停止機能付きの収納鞄を持っていないのか。
ならば日持ちのする干し肉や携帯食の日が増えてしまうのだろうな。
まぁ喜んでもらえたならなによりだ。
ついでにデザート代わりに紫芋で焼き芋も作っておく。
皆好物だったらしく、これまた喜ばれたので焼く前の芋を少しずつおすそ分けしておいた。
「い、いいのか・・・」
「子供達のいい土産になります。ありがとうございます」
「俺かぁちゃんに持って帰ろう」
「喜んで頂けたのなら何よりですじゃ」
食後に「せめてお茶くらいは」と冒険者の1人がお茶を淹れてくれた。
そんなに気を使わなくても良いのにと思ったが、シナモンの香りがして美味しい紅茶だったので感謝する。
お茶を飲みながら少し会話をした。
「ばぁさんは何処まで行くんだ?」
「次の大きな村へ行くつもりですじゃ。
そこで羊毛の帽子など冬物を買おうと思いましてのぅ」
「ああ、マカシの村か。マカシなら冬物も色々とあるからな」
「でしたらメイメの店がお勧めですよ。
あの店の物は丁重に作られていますがお手頃な値段なのです」
「メイメの店ですか、行ってみますじゃ。
教えて頂きありがとうございますじゃよ。皆さんはどちら迄?」
「俺達は首都から南にあるコムという町まで帰るんだ。
ここからだと後4日くらいだな」
「私は冬の間は行商が出来ないので首都にある家へ戻るところです」
「そうでしたか。皆さんご無事で家に戻られて下さいましの」
「ありがとうございます。おばあさんもお気を付けて」
「ばぁさんも早めに冬越しする場所決めろよ」
「はい、ありがとうございますじゃ」
その後は火の後始末をし其々のテントに戻り眠りにつく。
寝転びながら私は考える。
これまで出会った人々はあの件の3人以外は皆優しく良い人達だった。
この休憩場を作った領主もそうだし、ここの利用者もそうだし。
きっとこの国にはそういった優しい人が多いのだろうな。
よい場所を教えて貰ったホロケウ様には感謝する。
あれ? 色々と説明不足があったように思うがまぁいいか。
ピリカ様、ホロケウ様。今の所平和に過ごせ・・・
すぴぃー
気が付けば朝を迎えていた。
いつのまに寝たのだろうか、覚えていない・・・
昨夜はテントなので着替えずにそのまま寝た。
「洗浄」魔法で身綺麗にしてテントから出ればすでに他の人達も起きていた。
「おはようございますじゃ」
「ばぁさんおはよう」
「「 おはよう 」」
「おはようございます」
「ばぁさん、飯くっちまいな。その間にテントは畳んでおいてやるよ」
「それはまぁすみませんのぅ」
「気にするな。こういった事は男手に任せときゃいいんだ」
「そうそう。僕たちは手慣れていますからね」
「おばあさん、こちらにどうぞ。お茶が入ってますよ」
「ありがとうございますじゃ」
どうやら皆朝食は終わっているようだった。
買っておいたナンとシーラーズィーの瓶詰で朝食を済ませる事にした。
食べ終わる頃にはテントもすっかり片付いており礼を言う。
収納鞄にしまい込み魔物除けの石に魔力を充填しておく。
「ばぁさん、いいのか?」
「構いませんじゃよ」
「すみません、ありがとうございます」
冒険者や行商人はいざという時の為に魔力は残しておいた方がいいだろう。
その点私はいざとなればタマも居るし全力で逃げる事も出来るので安心だ。
休憩場を見回しゴミの拾い忘れや忘れ物が無いかを確認する。
その後で挨拶を交わし別れた。
ここでも平和な時間を過ごさせて貰った。
こんなに平和な状態が続くと少しばかり不安になる。
どこにでも小賢しい輩や面倒臭い輩は居るものだ。
その内遭遇しそうで嫌だなと思う。
再び黄土色の乾いた大地の中を進む。
所々に見える木はアーモンドやクルミの木なのだとタマに教えて貰った。
もう少し早い時期であれば実が収穫出来たらしい。残念だ。
低木の中にはシヤシーレと言うブルーベリーに似た実がなる物もあるそうだ。
これまた時期が遅いと言うので残念である。
「来年にでも採ればよかろう。時期が来れば教える」
「そうですのぅ。楽しみはとっておくとしますかのぅ」
会話をしながら進んでいると山羊の群れを見つけた。
タマによればカチャンという野生の山羊で肉が美味しいらしい。
涎が垂れそうになっていたので相当旨いのだろうと思われる。
ならば1頭仕留めたい。味が気になるではないか。
子育て中や若い個体を除き、肉付きの良さそうな雄を狙う事にする。
タマがこちらへ誘導すると言うので任せる事にし弓をつがえる。
猫科の動物が獲物を狙う時の様に体を低くしジリジリと風上から近寄っている。
この草木の少ない乾いた大地ではタマが身を隠す場所は少ない。
しかもタマは黒毛なので余計に目立つ。
なのにカチャンは気付かずに草を食んでいる。
ステルスとか気配を消すスキルでも持っているのだろうか。
5m程まで近づくと狙いを定めて襲い掛かり上手い具合に群れから離す事に成功する。
そのまま左右にひょいひょい飛び跳ねながらこちらへと誘導してくるのだが・・・
デカイ。私が知っている山羊じゃない、なんだこのデカさは。
牛と同じくらいありそうな大きさなのだが弓で大丈夫だろうか。
狙いを定めて眉間を狙い矢を放つ。
ザスッ
命中しカチャンが地面に倒れ込む。
狙い通りに眉間に命中したにも関わらずまだ動いていた。
だが立ち上がる事は出来ないようでもがいている。
苦しませるのは罪である。
近付いてナイフを取り出し首元を掻き切る。
カフカフと息を漏らした後に絶命していった。
1発で仕留められず苦しませてしまい申し訳ない。
狩りをする時はなるべく苦しみを与えない様に1発で仕留める。
よく夫が言っていた。
もう少し威力のある弓が欲しいと思う。
大きいので解体に時間が掛かりそうだったので内臓を取り出し血抜きだけして「洗浄」魔法を掛ける。
後はそのまま収納鞄へと押し込んだ。
よく入った物だと我ながら不思議に思う。
「主、少し急ぐぞ。日暮れ前までには村へ着きたい」
「分かりますたじゃよ」
「しっかり掴まっていてくれ」
掴まるとはどこに? と思う間もなくタマは走り出した。
カクンと体が仰け反ると自然に手が鬣を掴んでいた。
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