おかみの絶品料理
「ようこそ、イーラムの町へ。
こちらの水晶玉に手をかざしていただけますか?」
主都ラビアと同じように入町手続きで水晶玉に手をかざせば青く光った。
「はい、大丈夫ですね。
では入町税として銅貨5枚を頂きますがよろしいでしょうか」
「はい、5枚ですね。あ、ペットの分はおいくらでしょうか」
「首都や王都、国境の町では必要になりますが
それ以外の場所では必要ありませんよ」
「そうなのですね。教えて頂きありがとうございます。
では銅貨5枚ですね、どうぞ」
「はい、確かに受け取りました。
これらのお金は門や外壁の修繕費用に充てられますのでご安心を」
「皆さん使い道を教えて下さるんですのぅ」
「ええ、お伝えした方が安心できるでしょうからね」
「お気遣いありがとうございますじゃ」
挨拶をして町の中へと入る。
まずは宿へと向かう。
この街には宿屋が2件あり、どちらを選んでも料金は同じだそうだ。
ただ「ツグミ」と言う宿の方が料理が美味しいらしいと門兵が教えてくれた。
私は「ツグミ」へと足を運ぶ。
門から真っ直ぐ進み十字路を見つければそれを左に曲がって5件目。
緑の看板に小鳥の絵が描かれているので此処だろう。
扉を潜り中へと入れば元気な声が飛んでくる。
「いらっしゃい!おひとり様かしら?」
「1人ですがペットもおりまして、大丈夫ですかのぅ」
「ああ、大丈夫よ。うちは冒険者も旅人も連泊しているからペット連れも居るの。
ただペットの食事は自分で用意して貰う事になるけどいいかしら?」
「はい、大丈夫ですじゃ。1晩ですがお願い出来ますかのぅ」
「ペットはそのマーナガルムよね?少し広めの部屋がいいかしらね。
うちは夕飯と朝食どちらもついているから料金は小銀貨1枚になるけどいい?」
「はい、お世話になりまする」
2食付きで銀貨1枚と首都より少し安い。
割り当てられた部屋は1階部分の奥の部屋だ。
鍵に付けられた木札には犬の絵が描かれているので同じ絵柄の部屋を探すと、裏口の横にある部屋だった。
鍵を開け中に入れば少し広めのワンルームくらいの大きさがる部屋だった。
2人掛けのソファーもあるのでタマが寝るのに丁度良いかもしれない。
荷物を降ろして洗面台で顔を洗いスッキリさせる。
今日はすぐに暗くなるだろうから明日出発前に少し町の中を見て回ろうかと思う。
商人ギルドで毛皮も売っておきたい。
肉はタマが消費するだろう。と言うか越冬前に狩りをして肉を貯めておかないとならないだろうな。
旅の途中で狩れる場所があれば良いのだが。
一息つき夕食の時間帯になったので食堂へと向かうと冒険者や商人がすでに食事を始めていた。
あちらこちらから「旨い」の声が聞こえてくるので期待してしまう。
カウンターで受け取ってみればショルバと言う具沢山のスープとノンと呼ばれる丸いパンが乗っていた。
ショルバはトマトの風味が感じられる塩胡椒のスープで大きなラム肉の塊が入っている。
食べ応えがありノンにもよく合う。
これは私も気に入ってしまい、ペロリと平らげてしまった。
「おかわりは?」と聞かれたが、さすがに入りそうにない。残念だ。
確かにあの門兵が勧めるだけあり美味しかった。あの門兵に感謝だ。
食べ終えた後は部屋に戻る。
タマに乗っていただけなのに疲れているのか眠い。
食べ過ぎたのもあるのだろう。
「洗浄」魔法で身綺麗にしアッパパに着替えてベッドに潜り込めばすぐに眠りについたようで、気が付けば朝になっていた。
「クァクァクァッ ホヘーッ ホヘェーッ」
ここでの朝もフラミンゴの声が響き渡る。
いまだにこの声で目覚めるのに慣れない。
朝と言えば「ちゅんちゅん」と雀の声ではないのだろうか・・・
うん、異国だし異世界だし色々とあるのかもしれない。
その内慣れるのだろう、たぶん。
ベッドから出ようとして気が付く。
動けない・・・
「タマ、何故儂の上に乗っておるのかのぅ・・・」
「おやおかしいな」
おや、ではないのだよ。のいてくれないか。
寝起きはすぐにでもトイレに行きたいのだがな。
のそのそとタマは起き上がりベッドから降りてくれた。
「すまなかったな主」
「次から気を付けておくれやす・・・」
用足しを済ませ身支度を整える。
「ばぁや」へと姿を変え食堂へと向かう。
タマも部屋で食事中だ。
朝食はラグモンと言う面料理だった。
洋風のうどん、といった感じだろうか。
たっぷりの野菜が入ったトマトベースのスープの中に麺が入っているのだがこれまた美味しい。
「やばいな、ハマりそうだ」
思わず声が漏れてしまう。
「そうだろ。ここの女将の料理は旨くてな。すっかり居ついちまったい」
「ノンもおかみの手作りだからね。
ここの料理目当てに来る旅人もいるくらいなんだから」
なるほど、おかみの料理は有名らしい。
確かに何度も足を運びたくなるような味だ。
日本人の口に合うのだろう、ルリリ達も気に入りそうだ。
今夜にでも連絡してみようと思う。
食べ終わり部屋へ戻ろうとするとおかみがこっそりと包みを持たせてくれた。
「サムサと言うこの街の名物だよ。お昼に食べな」
「ありがとうございます」
「近くにきたらまたおいでね」
「はい、お世話になりましたのぅ」
挨拶を済ませて部屋へ戻るとタマも食べ終わったようで皿も綺麗になっていた。
そう、洗ったかのように綺麗に・・・
「足りませんでしたかのぅ?」
「いや十分な量だったぞ。主の手間を省くために洗っておいた」
「それはどうもありがとう。 ん?どうやって洗ったのですかの?」
「洗面台でこうやって」
器用に立ち上がり手(前足)でキュッキュと洗う仕草をしてみせる。
わぁ・・・ 犬、狼って皿洗いが出来るんだ。
頭の中に赤頭巾に出てくるおばあさんに化けて眼鏡とナイトキャップを被った狼が浮かんだ。
違う違う、そうではない。すぐに頭から追い出す。
モンスターだから出来るのだろうか。きっとそうなのだろうと思う事にした。
荷物を背負い宿を後にする。
まずは商人ギルドからだ。
どこにあるのだろうと探そうとしたがその必要は無かった。
目の前の通りを挟んだ向かい側に各ギルドの建物が並んでいたのだ。
「いらっしゃいませ、どういったご用件でしょうか」
商人ギルドの中へ入れば声を掛けられる。
ツノウサギの毛皮を買い取って欲しいと伝えればすぐに案内され担当者がやってきた。
目の前で査定をしてくれ最高品質になるので1枚当たり中銀貨1枚、10枚全部で大銀貨5枚になった。
主都だと高品質で1枚小銀貨3枚だったのでぼったくられてたのだなと改めて実感する。
あれ、そう言えば差額がどうとかギル長がどうとか言っていたような気がする。
いつかまた首都に立ち寄った時にでも聞いてみればいいだろうか。
代金を受け取り挨拶を交わしてギルドを後にする。
毎回このような気持ちの良い取引が出来ればよいのだがなと思う。
特に買い足す物が有る訳ではないのだが、どのような店があり何を売っているのか見てみたかった。
まだ早い時間にも関わらず首都ほどでは無いが活気はある。
幾つかの店を覗いてみて分かったのは庶民的な物が多いと言う事だろうか。
おそらくこの町には貴族が住んでいないのだろう。
平和そうでなによりだ。
一通り見て満足したので町を後にし、昨日と同じ黄土色の乾燥した大地の中をタマに乗って進む。
次はどんな場所だろうか。
読んで下さりありがとうございます。




