主都からの旅立ち
午後になり雨が止んだ。
1階に降りておかみに予定を変更し明日出発する事を伝える。
残りの日数分の宿泊料を返金すると言ってくれたが断った。
宿としては食材や空き部屋の調節などしていたはずだ。
こちらの都合で予定を早めるのだからそのまま受け取っていて欲しかった。
宿を出て食材や調味料を売っている店を見て回る。
まずは肉屋だ。
肉は牛や豚よりも鶏と羊が多いようだ。
鶏の腿肉と羊のバラ肉を1袋ずつ購入する。
手にした感じだと1袋500gくらいだろうか。
次に調味料を売っている店に行く。
塩・胡椒・クミン・アニス・フェンネル・シナモン・クローブとここら辺は私も知っている。
アサフェチダ・アジョワンは聞いた事も無く、ブラックライムは名前の通りライムなのだろう。
デュカ・スマック・ザータルの3つはミックススパイスらしい。
興味が湧いたのでこの3つのミックススパイスと塩・胡椒・シナモンを購入した。
後はナンと茶葉、それに乳製品があればいいだろうか。
この国において一般的にお茶とは紅茶の事だ。
ダージリンだのアッサムだのと分かれておらず、紅茶と一括りになっているがこれにもランクがあるようで私は無難に中級の物を選ぶ事にした。
ナンも種類が多くて驚いた。
私が知っているナンはあの白くて楕円形のようなナンだがこの国では形も様々だ。
バルバリと呼ばれる楕円形のナンとシールマールと呼ばれる甘みのあるナン、ナッツの入ったカブリナンの3種類を購入した。
他にも普通にパンも売っていたのだが丸パンと呼ばれるライ麦パンだけだった。
このライ麦パンも少し購入した。
乳製品はバーター・チーズ・ミルクを購入した。
時間停止機能のある収納鞄様様だ。
食材としてはこれでいいだろう。
野菜も買おうとしたのだが店の人に「旅人なら生野菜ではなく瓶詰のシーラーズィーを買う方がいいよ」と教えて貰ったのでそうしようと思う。
出来合いの料理も少しばかり購入しておいた。
次の予定地までは馬で3日。
途中で立ち寄れる小さな村もあるようなので必要ならば買い足せばいいだろう。
このくらいでいいかと思い宿へ戻りかけて思い出す。
旅人ギルドに追加報酬金を取りに行かねば・・・
思い出せてよかった。
「こんにちは。追加分を取りに来ましたじゃ」
ギルドの建物の中に入り声を掛ける。
「こんにちは。ご用意出来ておりますよ。
こちらになりますのでご確認下さい」
差し出されたトレーに乗せられていたのは大銀貨2枚。
随分と多いな。
「どれも品質は高品質以上でしたので依頼主もたいそう喜んでおられました」
「左様ですか。では有難く頂きますじゃ」
大銀貨を受け取り礼を言ってギルドを後にする。
通りに出て人の眺めを見つめる。
見慣れたこの光景も今日で見納めかと思うと少し寂しい。
視界が歪んでしまい頬が濡れる。
いかん、感傷的になってしまった。
これだから歳を取ると困る。
深呼吸して歩を進め、いつものように宿へと戻る。
宿の中は依頼から戻ってきた冒険者で賑わっていた。
これもまたいつもの光景だ。
「お疲れ様ですじゃ」と挨拶を交わしながら部屋へと戻る。
夕食にはクークーというオムレツのような卵料理を買って来た。
スフレのようにフワフワとしていてつい食べ過ぎてしまいそうになるほど美味しかった。
お腹も膨れ寝ようとした時に騎乗ペットを見に行っていない事を思い出す。
ガバリと起き上がったがこの時間では店もすでに閉まっている。
諦めて明日出発前に見に行こう、そうしよう。
「クァクァクァッ ホヘーッ ホヘェーッ」
今日も今日とてフラミンゴの声で目を覚ます。
ベッドから抜け出し身支度を整えると荷物を持ってから階段を下りる。
食堂で朝食を食べていると顔見知りの冒険者達がやって来る。
「じぃさん、これ道中で食ってくれ」
「おじぃちゃん、これも持って行ってね」
手渡されたのは手のひらサイズの袋に入ったドライフルーツやクルミだった。
くっ、視界がぼやける。これだから歳を取ると・・・
「お気遣いありがとう、ございますじゃよ」ぐすっ
「や、やだ、泣かないでよ。我慢してるんだから」
「二度と会えない訳じゃあるまいし。じぃさんまた来いよ!」
「俺たちゃずっと此処に居るからよ。待ってるぜ」
「アンタたちずっと居座る気かい?
おじぃさん、いつでも帰って来てくれていいからね。
部屋なんぞこいつら叩き出してでも用意すっからさ」
「ありがとうございますじゃ、首都に来た際には必ず寄らせて頂きますじゃ」
「おかみ酷くねぇか。じぃさん、そうなったら俺と添い寝しような!」
「やめろ!じぃさんが潰れる!」
何とも最後まで賑やかな連中だ。
だがこの賑やかさも含めて心地の良い宿だった。
名残惜しさはあるが立ち上がり宿を後にする。
「気を付けていけよ!」
「無理はしないようにね!」
「お世話になりましたじゃ!皆さんお元気で!」
さぁ街を出る前に騎乗ペットを扱う店に行かねば。
見せは北門の近くにあるらしいので丁度良い。
「ブフフンッ ブフーッ」
「ロリポップ?・・・」
青毛の馬ロリポップが目の前に居る。
おかしい、騎乗ペットを購入しに来たはずなのに何故ロリポップが居るのか。
頭上にある看板を再確認する。
「騎乗ペット販売店・アリバン」としっかり書いてあるので場所を間違えた訳ではない。
「こらロリポップ。お前はまた抜け出して。
おや、いらっしゃい。騎乗ペットをお探しですかな」
「おはようございます。購入しようと思いやってきたのですが
御覧の通りロリポップに咥えられとりますじゃ・・・」
「こらロリポップ。その服を話しなさい。
すみませんね。兄の店から抜け出してきたみたいで。
おや?お客さんロリポップをご存じで?」
「先日貸し馬として借りましたのじゃ」
「そうでしたか。奥の獣舎に騎乗ペット達がいるので見ていて下さい。
ちょっとこの馬を戻してきますんで。すみませんね・・・」
「では見学させていただきますじゃ」
教えて貰った通りに奥へと進む。
ぷんと獣舎独特の臭いが鼻を衝くが懐かしさを感じる。
元の我が家は動物園の近くにあり、獣舎の臭いがよく風に運ばれてきていた。
夜ともなれば遠吠えや鳴き声など聞こえて野生を感じさせたものだ。
懐かしんでいる場合ではない。選ばなければ。
獣舎の中へ足を踏み入れれば、可愛らしいから雄々しいものまでさまざまなモンスターがいる。
どれも温厚な性格の個体らしいが獰猛そうな姿のものまでいる。
「ブフッ ブフフンッ」
「 ・・・ 」
デジャヴ・・・
「ロリポップ!なんで戻ってくるんだ。帰るんだ、ほら」
「すみませんね、お客さん」
「いえ、大変ですの・・・」
ブフブフと何か文句を言っているロリポップを見送り奇獣選びに戻る。
どの子にしようかと悩みながら見ていると大型の羊らしきものと目が合う。
「にゃぁ~」
「猫?・・・」
鳴き声が「にゃぁ~」だった。
そして口からは羊らしからぬ牙が見えている。
だが体はモコモコの毛に覆われていて羊その物だ。
猫なのか、羊なのか。目を見れば分かるだろうか。
瞳孔が縦なら猫で横なら羊だ。
判らなかった。瞳孔が開いて楕円形だったのだ。
ならば尻尾はどうだろうかと見れば犬の様にフサフサと揺れている。
足はどうなっているのだろうと確認すれば蹄になっている。
うん、そうだよな。モンスターだものな。
私が知っている生き物に当てはめようとするのが駄目なのだろう。
そう思いこの羊らしき何かから目を反らした。
結局私が購入したのはゲームで馴染みのあるマーナガルムだった。
真っ黒な毛並みで首元に銀色の鬣があり体長は150㎝ほどもある。
私が乗っても問題ないそうだ。
代金は小金貨1枚とちょっとお高いがこれから家族であり相棒となるのだ。
支払いを終えてマーナガルムの手綱を受け取る。
鞍などはなくこのまま乗るのだという。
マーナガルムは私が乗り易いように伏せの状態で待っていてくれる。
跨ればゆっくりと立ち上がり歩き出す。
馬に乗っている様でさほど揺れは感じなかった。
こうしてマーナガルムと一緒に首都ラビアを後にした。
読んで下さりありがとうございます。




