疑惑を掛けられた
目覚めて身支度を整え、1階にある食堂へと向かえば何やら騒がしい。
朝も早くから一体どうしたと言うのだろう。
「ここに髭を蓄えた白髪の老人がいるだろう!
虚偽の申請をしたと通報があった。隠さずに差し出せ!」
髭を蓄えた白髪の老人・・・
この宿に老人は私しか居ないので私の事だろう。
虚偽の申請ってなんだ? 身に覚えはないのだが。
「おはようございますじゃよ。
お探しの老人とは儂の事ですかのぅ。
虚偽の申請とは何の事ですかな、身に覚えはありませんが」
「貴様か!大人しく・・・」ポカッ
怒鳴っている兵士の頭を別の兵士が軽く殴った。
「おはようございます。朝早くに申し訳ありませんね。
少しお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか」
「なにすんだよ!犯罪者なんかに丁寧にしゃべる事なんて・・・」ポカッ
先程より少し強く殴られている・・・
「君は詰所に戻って居なさい。
何度言っても態度を改めませんね。いいですか、これが最後通達です。
もう1度研修を受け直し態度を改めなさい」
「なんで俺が・・・」ゴンッ
かなり痛そうな音が聞こえた。
怒鳴っている兵士は自業自得だろうから心配する必要もないが、殴った兵士の方の拳は大丈夫だろうか。
あの音からして拳も痛かったのではなかろうか。
怒鳴っていた兵士は遅れてやって来た兵士2人に脇を抱えられ、引きずる様に連れ出されていった。
なんだったんだあの兵士は・・・
「度々申し訳ありませんね。
では改めてお話を聞きたいのですが」
「 ぐぅ~・・・ 」
何故今腹が鳴ったんだ、私の腹よ・・・
「すみません・・・」
「いえ、そうですよね、この時間ですし。
おかみさん、どこか使える部屋はありませんか」
「ああ、食堂の奥に個室があるからそこを使ってくれて構わないよ」
「ありがとうございます」
おかみは何故か両手にオタマとフライパンを持っている。
料理は旦那が作っていると言っていたはずだが、手伝っていたのだろうか。
「何かあったら大声をだすんだよ。すぐに駆け付けるからね」
おかみがオタマを振り回しながらそう言ってくれる。
なるほど、あの怒鳴っていた兵士から私を守ろうとしてくれていたようだ。
おかみに礼をいい朝食を受け取る。
冷静に話す方の兵士が「食べながらでいいですよ」と言ってくれたのでそうさせてもらう。
兵士と連なって奥の個室へと向かうものだから人目を集めてしまう。
顔見知りになった冒険者などは声を出さずに口だけ動かし「大丈夫だ」「心配するな」と言ってくれている。
おかみといいこの冒険者といい、優しく面倒見がよい人達なのだろう。
個室に入ると兵士が扉を閉めようとするので「そのままで」と止めて貰った。
こういった場合は第三者の目がある方がお互いの為である。
密室で2人きりになれば賄賂を渡しただの恫喝しただのと言われかねない。
「失礼して食べながら聞かせて頂きますじゃよ。
ご用件は何でしょうかの」
「先程の彼がわめいていたのが少し聞こえたかもしれませんが。
昨日商人ギルドにツノウサギの毛皮と肉を卸しましたか?」
「卸したといいますか、買取には出しましたじゃよ。それが何か」
「ご老体であるのにあの量を収集できるのはおかしい。
別の人間が収集を行ったに違いないと申し立てた者がおりましてね」
「はぁ・・・年寄りが狩りなんぞ出来る訳がないという事ですかのぅ」
「品質が悪ければそう言い出す事は無かったのでしょうね。
最高品質ともなればLVやランクが高くなければ無理だと思ったのでしょう」
最高品質だと? 私は高品質と言われたのだが?
もしかして買い叩かれたのか?
思わず手に力が入ってしまいスプーンがペキリと折れてしまった。
「「 ・・・ 」」
「代わりのスプーンを貰ってきましょう。お怪我はないですか」
「怪我は大丈夫ですじゃ」
どうぞと手渡されたスプーンを受け取り食事を続ける。
「もしかして品質をごまかされましたか?」
「ええ、儂は高品質と言われましたじゃよ」
「ふむ・・・」
「貴殿も儂が虚偽の申請をしたとお思いかのぅ?」
「憶測で物言いをする訳にはまいりませんので話を聞きに伺いました」
「左様ですか。ではこうしましょう。
これから草原に行き儂が狩る姿をお見せしましょうか。
そうですのぅ、10も狩れば納得いただけますじゃろうて」
「お手数ですがそうして頂けますか。
後から言いがかりをつけられぬ様に
誰か冒険者に証人としてついて来てもらいましょう」
「それがよいでしょうな。冒険者ギルドで依頼を出しますか?」
「その必要はないだろ。俺が立ち会って証人になってやるよ」
そう言ってくれたのは冒険者用品の店を教えてくれた冒険者だった。
「Aランク冒険者のバールと言う。チーム「ブラックベア」のリーダーをやっている」
「Aランクの方であれば証人としては十分でしょう。お願いします」
「お手数をお掛けしますが宜しくお願いします」
「おぅじぃさん、気にすんなや」
「うち等も付いて行くよ」
そう言ったのはアナンタだった。
「今ギルドに顔出したらじぃさまが絡まれてるって聞いて慌てて来たんだ」
「私は絡んでなどいませんが・・・」
「絡んで来たという言い方が正しいかは分かりませんが・・・
まぁ疑惑を掛けられてはおりますのう」
「ナーガとはお知り合いですか」
「お知り合いといいますか・・・」
「親友だ」
「「 ?! 」」
兵士と共に私までもが驚いてしまう。
いつから親友になったのだろう・・・
「そう、ですか。Sランクのナーガと・・・」
「すみませんが気になる事が1つ。
何故名前ではなく種族名のナーガとお呼びになるのですかのぅ?」
「それはうち等が名前で呼ぶことを許可していないからだ」
「なるほど。では儂も」
「却下だ。うち等とは親友だろ?ぜひ名を呼んでくれ」
「左様ですか」
AランクのバールとSランクのアナンタ。
高ランク、すなわち信頼度が高い優秀な冒険者という事だ。
そんな人達と知り合いだなんて恐れ多い気がするのだが。
「高ランク冒険者が2人も証人として付いて下さるなら大丈夫でしょう」
「ん?2人ではないよ、兄も一緒だから3人だ」
「いやうちのメンバーも来る気満々だから5人だな」
「「 ・・・ 」」
随分と大所帯でツノウサギ狩りの見学、もとい検証をすることになってしまい兵士と2人で見つめあう事になってしまった。
おそらくこの兵士もまさかこんな事になるとは思っていなかったのだろう。
若干顔が引きつっている様に見える。
言っておくが私のせいではない。
気の毒には思うがそんな恨めしそうな目で見ないで頂きたい。
こうして計7名で草原へと向かう事になった。
どうしてこうなったよ私・・・
読んで下さりありがとうございます。




