お守りを買う
急ぎ足で教会へ向かう。
69年の人生の中であの様な大金を手にした事は無い。
いや、口座には持っていたが実際の手に持った事など無い。ある訳が無い。
あれほどの大金を支給してくれたのならばそう言って欲しかったし、硬貨の価値を教えておいて欲しかった。
心底そう思う。
教会へ到着すれば昨日の司祭が出迎えてくれる。
「こんにちは、ようこそおいで下さいました」
「こんにちは。本日もお世話になります」
中へ入れば昨日の牧師が今日も案内してくれる。
「ごゆっくりとどうぞ」
「ありがとうございます」
昨日と同じ席に着き目を閉じて祈る。
(神様方、昨日ぶりですがお元気でしょうか。
何かと説明不足が発覚いたしましたがこれいかに?
割と大切な事が多かったように思うのですが気のせいでしょうか。
他には説明のし忘れが無いと信じたいのですが大丈夫でしょうかね?
もし何かあるのでしたら夢で構いませんので教えて頂ければありがたく。
なにとぞよろしくお願い申し上げます)
こんな感じでいいだろうと思う。
祈り終わって席を立つと修道士に声を掛けられる。
「本日は教会と修道院の間にある庭でバザーが行われております。
宜しければ覗いてみて下さい」
「バザー、ですかのぅ」
「修道院で世話をしている子供達が作ったお菓子や刺繍の入ったハンカチ。
子供達が祈りを込めたお守りなどがあります」
「そうなのですね。では覗いてみますじゃ」
修道院で世話をしている、つまりは子供達は孤児で孤児院もあるのかもしれない。
バザーの売上金は孤児院の経費に充てられるのだろうか。
ならば何か買って少しでも貢献できればいいなと思い足を運ぶ事にする。
バザー会場はそこそこ賑わっていて、貴族であろう人の姿も見える。
だが貴族達の姿にどこか違和感を覚える。
何だろう、どこに違和感があるのだろうか。
あまり凝視する訳にもいかず並べられている品を見ながら貴族たちをチラ見する。
来ている服はドレスや背広。
中世ヨーロッパを思わせる様ないでたちで特に違和感はないように思う。
足元はドレスに隠れて見えない。男性陣は革ぐ・・・サンダル?
違和感の正体はこれか!
何故サンダルなのだろうか。
いや、よく見れば子供達や修道士もサンダルだ。
何か理由があるのだろうか。
「おじぃちゃん、その靴だと暑くなぁい?」
子供が声を掛けて来た。
「そうですのぉ。確かに暑くて蒸れますのぅ」
「やっぱりぃ。おじぃちゃんはどこから来たの?
ここら辺だと昼間は暑いでしょ?だから皆サンダルを履くんだよ」
「ほう。そうでしたか。
では儂も後で靴屋にサンダルを買いに行くとしますかのぅ」
「おじぃちゃん、ちょっとお耳貸して」
そう言われてしゃがみ込むと子供が顔を寄せて来て耳打ちをする。
「あのね、ずっと靴だと痒くなって足の皮が剥けちゃうの。
司祭様が痒くて大変なんだって言ってたからおじぃちゃんも気を付けてね」
「そうでしたか、教えてくれてありがとうございますじゃ」
「えへへ」
なるほど。恐らく司祭様が足を痒がっているのは水虫だろう。
そうならないように皆サンダルなのか。
これは早々に私もサンダルを買う事にしようと思う。
水虫なんぞになってしまったら苦労しそうだ。
水虫の治療薬がこの世界にあるのかも分からないので、ならないように気を付けるに限る。
子供との会話を終え改めて並べられている品を見ていく。
数種類のクッキーが売ってあり、その中に見覚えがある物を見つける。
携帯食だ。
此処で売ってるのか。
まぁ教会は神様とつながっている場所でもあるのだからあっても不思議はない。
日持ちするし栄養価もそれなりに高いだろうから少し買っておく事にする。
携帯食は5枚入りで1つ銅貨3枚。クッキー各種は1口サイズの物が7個入っていて1つ銅貨3枚。300円くらいならそんなものだろう。
私が携帯食を5つとナッツ入りのクッキー2つを購入すれば子供達が笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
移動してお守り売り場を見てみる。
色とりどりの石が取り付けられた根付のような形をしている。
色によって何がちがうのだろうか気になった私は鑑定を使ってみる事にする。
ゲームであればスキルキーを押すだけなのだが、はて、どうすればいいのやら。
スキル名を叫ぶ? 呪文を唱える?
恥ずかしいし呪文なんぞ知るはずもない。
そう思えば頭の中でAI音声のような声が響く。
【鑑定眼:知りたいと思えば発動する。内容に納得すれば停止する】
なるほど。
というか、いまのは何だ?
ナビシステム?まさかあるハズはないだろう。
【音声解説:鑑定眼による鑑定内容を脳内にて読み上げる】
あー、なるほど。理解した。
これはなんだろうと思えば答えが脳内に流れてくるのか。便利だな。
使い方を理解出来たのでお守りで試してみる。
赤メノウ、翡翠:健康のお守り
マラカイト、オニキス、:厄除け
モルガナイト、ムーンストーン:恋のお守り
ラピスラズリ、アンバー:幸運のお守り
ターコイズ、アクアマリン:旅のお守り
色々とあるのだな。
旅のお守りとしてアクアマリンの物を、健康のお守りとして翡翠の物を購入した。
子供達のお祈りは女神様に届いている様でちゃんとお守りの効果が付与されている。
但し子供の祈りなのでかわいらしい効果ではある。
元々お守りは気休めな部分もあるので私は気にしないが。
本格的な物が欲しければそう言った場所で買えばよいのだから。
翡翠のお守りとアクアマリンのお守りを購入すれば子供達が嬉しそうにありがとうと言ってくれる。
1つ小銀貨1枚と消して安くはない金額だがあの笑顔を守るための一部になるのだと思えばあたたかな気持ちになれる。
最後にハンカチを売っているテーブルを覗いてみた。
そこにはハンカチだけでなく、ストールや小さめの布巾着も置いてあった。
いずれも刺繍が刺してあるのだが少し不格好だ。
「子供達が練習を兼ねて刺繍を入れているのですよ。
綺麗に仕上がった物はお店に並べて貰っているので
こちらではこういった物を販売しているのです。
多少見栄えは落ちますがその分お安くなっているんです。
良かったら手に取ってみてくださいね」
そう声を掛けてくれたのは付き添っていた修道女だ。
刺繍が上手に刺せる様になれば、お店や貴族の屋敷で働く事が出来たりするのだとも話してくれた。
なるほど。確かにずっと孤児院に居れる訳でもなく一定年齢になれば孤児院から出て暮らさねばならないのだろうから、こうやって技術を身に着けるのはいい事だ。
ちなみに私は刺繍が得意ではない。
出来なくはないが目の前にあるものよりも不格好であろう。
自分で言っておいて悲しくなる・・・
愛らしい猫の刺繍が刺されたハンカチを見つけたのでそれを3枚と、同柄の巾着を1つ。
そして生成色のストールに赤い薔薇らしき刺繍が刺された物と黒色のストールに青い小花が刺された物を1枚ずつ購入する事にした。
ハンカチは1枚につき銅貨3枚、巾着は銅貨5枚でストールは1枚につき中銀貨1枚。
合計で中銀貨1枚と小銀貨1枚に銅貨が4枚で6400円くらいになった。
修道女と子供達はそれはいい笑顔でお礼を言ってくれたので私も笑顔になってしまう。
帰り際にサンダル事情を教えてくれた子供が駆け寄ってきた。
「おじぃちゃん、いっぱい買ってくれたんだね。ありがとう!
よかったらまた来てね!」
「いい買い物が出来ましたじゃ。また寄らせてもらいますじゃよ」
ほかほかと暖かな気持ちで帰路へ着く。
次に来るときは何か差し入れのお菓子でも持ってこようかと思う。
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