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先程の森林へ戻ると、村の喧騒は一切聞こえなくなった。

馬の軽快な足音、鳥や野生動物の鳴き声、そして、自身の前で馬を駆るこの男の、呼吸と心臓の音。


それを聞くたびに、村の人々の泣き叫ぶ声が浮かぶ。

それらの犠牲あって、今こうやって呼吸を出来ていると知らずに。


そして、その男の腰に手を回し、寄りかからなければ、この馬からも振り落とされる自分が、酷く情けなかった。



男の腰に添えられる。白銀と青の柄にしまわれた剣。

そして、もう一つの腰には……。


「その、小さな大砲のようなものって、なんですか?」

ユラはこの男を罵倒してやりたい気持ちを抑えて、そっと呟く。



「……。これは、筒と呼ばれている。」

男は暫く押し黙って、これのことを伝えて良いのか迷っているようだったが、やがて渋々といったように口を開いた。


「筒?」


「鉄砲とも言う。どちらでもいいが、魔力を使う。」

その男は両手で握っていた手綱から、右腕を外し、その腰の筒と呼ばれるものへ手を添えた。


木目が一種の柄のように良く見える。茶色がかっているが、傷んでいない。

良い木を使っている。



「君達もそうだが、魔力があるだろう。」


魔力、エガーテ人が初めて発見し、ノームン、ガサンタの2国が、エガーテの了解を得ずに研究を推し進め、そして頂上の生物達へ返り討ちにされた力。



「その魔力は、何も無いところで使っても、バケツに入った水を撒き散らすようなものなんだ。」


その男は風切りと、草木を踏みつける音を交えながら、饒舌に語り始めた。

本格的に、自分を受け入れるつもりらしい。

しかし、なぜ。



「だから、こういった筒を使う。これに魔力を充填させ、打ち込む。属性は生まれの体質で決まるから、それに合わせた弾丸が放たれる。」


男はさらに続けた。基本的に凡の属性は水であるらしい。

生活で役には立つが、戦闘では筒への依存度が上がる。


逆に火は非凡で、遺伝から決まる属性の中では最上である。筒から放たれる弾丸は、たちまち木造のものにぶつかれば、引火する。

布も同様で、制圧では重宝されると。



「あなたは?」

ユラはその男の首筋を見据えた。

空は太陽が働きを終え始め、森の木々から覗かせる光を、濃紺に変えていた。


「私は水だ。この通り、前線を離れてもお咎めがないほど、人望がない。」

その男はわざとらしく肩をすくめる。

表情は甲冑に覆われて見えなかったが、鼻で自嘲するようにしていた。


「なぜ、私を助けたんですか?」

ユラは名前も名乗っていない自分を助けた、この男が不気味でならなかった。

普通であれば、慰めの道具か、その場で殺す筈だからだ。

慰めの道具といっても、丁寧な扱いは期待出来ない。



男は再び押し黙った。声音から、青年ほどなのだろう。

沈黙の中に、森のせせらぎと馬の闊歩する音が響く。

ユラも言葉を待つように、その姿すら捉えられない木々を眺める。


「君なら、あの騎兵に乗れるかもしれないと感じたからだ。」


言葉に若干の震え。

嘘八百だとわかった。



「巨人のこと……?あなたが乗ればいい。」

ユラは顔を顰め、吐き捨てるように呟く。

男は、それが背中越しの言葉であっても、込められた感情は察知できた。



「そうはいかない。アイアンメイデンは、女性しか乗れない。」

手綱を握る音が、絞られるようにギュと音を立てる。

馬はそれを察知して、走る速度を緩めた。



「…すまない。」

男は甲冑越しに、馬の頭を撫でてみせた。

腹の辺りに足を二、三回当てる。


馬は先程同様、再び走る速度を上げた。



「なら、さっきのパイロットがいるのでは?」


男は再び押し黙った。

喋るのがあまり得意では無いのだろう。わかりやすい嘘に、痛いところを突かれると、さらにわかりやすく黙り込む。


人望が無いと言った。その理由はよくわかった。



「名前を聞いていなかった。」

男は前方を確認しながら、その甲冑の首をガチャリと揺らした。


「ユラ・ヤコウです。17歳です。」


「……そうか、若いな。」

男には悔悛の兆しが垣間見える声音で呟いた。

しかし、今更懺悔したとて、ガサンタの人間を許す訳にはいかなかった。

そして、自分はこれから、この憎しみだけを原動に生きていくのだという、深い恐怖と早すぎる悔恨の念もあった。



「ナッド・レッドだ。よろしく、年齢は21だよ。」

その男は呟き、再び視線を木々に囲まれた前方へ戻した。


21歳で人望も何も無いのは当たり前だった。

ただの世間知らずの間抜けか。余程周りが優秀で、コンプレックスを拗らせた男であるのか。これからわかることだった。


馬が完全に足を止める。

景色が変わらない森であっても、先程の強烈な印象が蘇る。


馬を降りたナッドがこちらに手を貸す。

湿った地面を踏み締め、顔を上げる。


ナッドの後ろ、木々が避けるように、寝そべった。

いや、死んでいる。あの巨人があった。

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