5 導く光
目が覚めた瞬間、僕はベッドから飛び起きた。夢の中で、この瞬間を待っていた。速く起きすぎたのか、少し頭がくらくらする。
枕元に置いてあったTシャツを着、ジーンズを履き、黒いジャケットを羽織る。部屋を出たところで、ふいに、足を止めた。頭の中には、優香のことが浮かんでいた。
最近、彼女と一緒に過ごすことは、あまりなかった。あったとしても、お互いに気まずくて、殆ど会話はなかった。でも……彼女は、頑張ってくれているのだ。僕が仕事を無くして、ずっと部屋に1人きりでこもって、スマホばかり見ている時も、彼女は精一杯働いて、僕達が生活できるように奮闘していた。
僕は、台所に向かった。冷蔵庫から卵を取り出す。ボウルに卵を割り入れ、フライパンに油を引く。フライパンに卵を入れて焼く。ジュージューと音を立てている。
…こんなことで役に立てるかはわからないけど―少しでも『頑張れ』と伝えることができるのなら、僕も精一杯頑張ろう。
その時、優香が部屋から出てきた。僕は、今できる一番優しい笑顔を作って、「おはよう」と言った。
彼女の顔にも、笑顔が浮かんだ。
一歩一歩を踏む度に、緊張が高まり、鼓動が早まっていく。辺りの空気は冷たい。それなのに、僕のこめかみには汗が浮かぶ。
やがて、黒い瓦礫が見えてくる。
僕の、実家だ。今まで、普通に過ごして、怒って、泣いて、笑って―それが、これ程までにも無惨な姿に―
だが、進むのを拒もうとする僕の姿を、『何か』が押した。
今朝の、優香の笑顔。あんな風に、自然に笑うことができるようになるには、前に進むしかないと言っている。その先に、“希望”があるかもしれないと言っている。だから、行くしかないのだ。
怖くても進む。その先にある希望を見つけるには、それしかない。
既に規制線は解除されており、先に進むことができた。だが、辺りには警察官がちらほらいる。僕は、ようやくその黒い瓦礫を…僕の実家を眼前にした。あちこちが欠け、灰になったその残骸に、胸がチクリと痛む。だが、そんなことを気にしている暇はない。僕は、庭へ向かった。
庭に埋められていた木は、やはり真っ黒になり、根本だけが残っていた。だが、全焼していないだけ、まだ幸いだ。
僕は肩に掛けたバッグからスコップを取り出し、地面を掘る。ザッ、ザッ、ザッ。夢の中で聞いた、あの土を掘る音。今掘っている場所―掘るべき場所は、殆ど記憶と夢だけが頼りだ。
おい、君!と、警察官の声が聞こえた。それでも、僕は熱心に土を掘り続ける。
カチン。スコップの先に、何かが当たった。スコップを放り、手で土を掻き分けていく。警察官が近づいてくるのがわかる。
「何をしているんだ!」
背中のすぐ後ろで声をかけられた時にはもう、僕の手の中には“それ”があった。丸い、お菓子の缶のようなもの。蓋を開けると、その中には封筒が入っていた。
『お元気ですか? ぼくは元気です。お父さんやお母さんも、いつも元気で、とてもやさしいです。夢のサッカー選手にはなれましたか? きっと、大活やくしていると思います。そして、ヒーローみたいに強くて、とても優しい人になって、たくさんの人を助けていると思います。
そんなあなたに、伝えたいことがあります。
それは、いつでも笑顔でいてほしいということです。つらいことがあっても、あきらめそうになっても、笑顔になって、希望を持っていてほしいです。
いつも夢に向かって、走り続けてください。目指せ、Jリーガー!
未来の僕へ……』
最後までお読みいただきありがとうございます!
あの手紙は何なのか……?
続編も是非お読みください!




