4 記憶
『宇宮家之墓』と書かれた巨大な石の前で手を合わせ、目を瞑る。心の中で、両親に話しかける。
『ごめんなさい。2人が生きている内に、ちゃんと出世できなかった。ごめんなさい。2人を守ってあげられなかった。ごめんなさい。本当にごめんなさい。100歳まで一緒にいるって、約束したのに……』
あの火事から数日、僕には罪悪感が付き纏った。重くて暑苦しい鎧を、四六時中着ているような感覚だった。
母さん達のが死んだのは、僕のせいなのではないか。僕が仕事を失敗したから、神様から、天罰のようなものが下ったのではないか。だとしたら、なんて理不尽なんだろう。なぜ母さん達にしたんだ。僕なら、いなくなっても誰も悲しまないのに。邪魔者が消えたみたいで、すっきりしたはずなのに。
火事の詳細が明かされた。火元はコンロ。消し忘れたまま放置され、その間に両親は就寝してしまった。そして、あっという間に燃え広がり、家全体に火の手が回ったと言う。以前から火災報知器が故障していたが、両親達は修理を放棄したらしい。
誰も悪くない。悪人がいるとするのならば、コンロの火を消し忘れたり、火災報知器の修理をしなかった母さん達だ。誰にも向けることのできない怒りに、喪失感が増していく。
母さん達の保険金は、僕に支払われた。これなら、生活費としても十分だろう。だが、幸運だとは、微塵も思わなかった。失ったものが大きすぎて、金などでは埋められなかった。
世の中には、金を求めて親を殺害する者もいるという。僕は、そんな人の心理を、全く理解できなかった。親がいなければ、今、この場に存在しなかったのに。親がいなければ、ここまで成長することはできなかったのに。頭が狂っているにだとしか思えない。
毎日、食事も喉を通らず、仕事を探す気力もなかった。いつ、心が砕けてもおかしくなくて…いや、もう壊れているのかもしれない。僕の頭の中にはいつも、あの母さん達の優しい笑顔が浮かんでいた。だが、それは硬いハンマーとなって、僕の脆い心を叩き続けた。
…でも、その鈍器から守ってくれる盾のような存在があった。“夢の声”だ。
僕が思うに、あの声は“予知夢”のようなものだと感じる。
あの火事の前日、炎のようなものが見えた。それは、“火事”を予兆していたのだろう。そてから、“お父さん”“お母さん”というワード。それは、母さん達の家…つまりは僕の実家が火事になることの予兆だった。
それから、『ぼくは今、ここにいるよ』…この言葉が意味することが何かはわからないが、『どこか』に『何か』があるのだ。それはきっと、僕に関連するものなのだろう。それを知りたいという気持ちが、『何もかも嫌だ』『もう死にたい』というマイナスな感情を無くし、『知りたいことがある』『だからまだ死ねない』という探究心に変えてくれる。
あの声は、僕に、何を伝えたいのだろうか……
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ザッ、ザッ、と土を掘る音。一人称視点で目に映るのは、地面にシャベルを食い込ませ穴を掘る姿。この空間には、どこかまどろみがある。
ここは夢の中なんだ、と夢の中で理解する。
穴を掘っているのは、視界の高さや手足の大きさからして、子供だろうか。なんで穴を掘っているんだろう。これは…僕の記憶なのか?
……何かが聞こえる。また子供の声か。何回も、何回も、復唱するように、この空間の中に響いている。
『ぼくは今、ここにいるよ』
その瞬間、僕の頭の奥に眠っていた記憶が呼び覚まされた。
そうだ、僕が残してきたものは……
その瞬間に、目が覚めた。
物語もまもなくクライマックス!
続編も投稿されていますので、ぜひ見てください!




