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風結び ー歴史の番人達ー  作者: 蓮空虎太
第1章 義賊
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第7話 捕縛

今朝は珍しく龍樹が大和屋へ来ていた。


綾香が頼んでいたゴエモンの術衣を受け取りに来たのだ。


「龍樹、また背伸びた?もうゴエモンさんとそんなに変わらないんじゃない?」


朧(おぼろ)が龍樹を見上げながら目を細めている。


「これ注文の品だ。御代(おだい)はいつでもいいと伝えておいてくれ。」


隼人が風呂敷に包んだ着物を渡す。


「ありがとう、隼人おじさん。」


そういって大和屋を出ようとする龍樹を隼人が呼び止めた。


「龍樹はゴエモンの跡を継ぐのか?」


「う~ん。そのつもりだけど、六角堂の円空様に学問を教わっていると、そちらの道も面白そうだと思うこともあるんだよね。でも、宗太郎のように頭は良くないから、その道では大成できそうもないけど。」


そう言ってカラカラと笑った。


隼人はその顔を見て

(ゴエモンに似て爽やかな男ぶりだ。)

と惚れ惚れする気持ちだった。


(楓が慕うのも無理はない)


あらためてそう思うと、つい意地悪く聞いてみたくなった。


「楓をな、神鳳堂が嫁に欲しいと言ってきているんだ。龍樹はどう思う?」


龍樹はドギマギした顔で隼人を見返した。

だが、すぐに笑顔になった。


「とてもおめでたいと思います。兄妹のように育った楓が、兄のように慕っている宗太郎に嫁ぐのは、どちらも遠くに行かないし、夫婦となった後も遊びに行きやすいから。」


模範的な回答だった。

だが、隼人は龍樹の真意が聞きたかった。


「龍樹は楓をどう思っているんだ?」


二人の会話を横で聞いている朧が、なぜそんなことを隼人が聞くのか今一つ理解できず、不思議そうな顔をしている。


「楓を?」


龍樹は少し困ったような顔をしている。

顎に手を当てて、虚空を見上げ、必死で答えを探しているようだ。


「太陽かな~。いつもキラキラ輝いていて、強烈な熱量で回りを熱くしてくれる。俺たち風結庵に集う子供組の太陽。楓が側にいなくなることは、生まれてから考えたことがなかったので、嫁いでしまったらどんな感情になるかは、自分でもわかんないな~。」


そう言って柔和な笑みを見せると一礼して大和屋を出て行った。


外に出ると楓と颯(はやて)、梢(lこずえ)の三兄妹が龍樹と一緒に風結庵へ行こうと待ち構えていた。


4人が楽しそうに通りを歩いていく姿を、隼人と朧は微笑ましく眺めていた。


すると朧がハタと気づいたように声を上げた。


「楓の想い人って、龍樹...!?」


「今頃か...鈍いな、お前。」


隼人は苦笑いしながら楓と龍樹の後姿を見つめ続けていた。


室町通から交差する三条通りを東に折れた途端、通りが喧騒に包まれていた。


龍樹はただならぬ予感を感じ、風結庵に向け走り出す。楓たちも続いた。


風結庵の前には人だかりができていた。


「ちょっと、どいてくれ!」


龍樹が人波をかき分け、前に出ると信じがたい光景が目に飛び込んできた。


風結庵の前には六角棒や縄手を持った二十人ばかりの捕り方と役人が数名いる。

その前にゴエモンと綾香、虎太郎、久作、健太が立っていた。


役人はゴエモンらに向かい、書状を読み上げはじめた。


「風結庵当主ゴエモン。その方京並びに近隣において石川五右衛門を名乗り、一味を率いて窃盗、押し込み強盗多数を行っていることは、当方の調べによって明白である。よってこれより連行し沙汰するので神妙にお縄につけ!」


ゴエモンは憤怒の表情を浮かべ「私ではありません」と毅然と言い放つ。

久作も健太も同様に胸を張り何ら恥ずることがないことを表わしている。

綾香は虎太郎を抱き抱えながらも毅然としていた。


「そんなバカな!」


龍樹が飛び出そうとするのを後ろから抱きとめるように抑えた者が耳元で小声で囁く。


「今出て行ったらあんたも捕まるよ。今はまず様子を見るんだ。」


ちょうど風結庵に来るところだった蛍だった。


「蛍さん、これは一体...」


楓が蛍に聞くと、蛍は


「あんたは直ぐに帰って父さんにこのことを伝えな。」と言った。


それを聞くと楓は妹弟を連れて戻りかけ、ふと龍樹の顔を見た。


普段あまり感情を表さない龍樹が涙を流しながら、怒りと悔しさの入り混じった表情で両親が捕らわれる様を見つめていた。


楓の心もギュッと締め付けられ、涙が溢れてきた。


見物人の多くは近隣の知人達だ。


「風結庵の人らが悪人のわけないだろうが!」

「ちゃんと調べたのかよ?」

「ゴエモンって名前だけでしょっ引くんじゃないだろうな?」


など、役人に向けた罵詈雑言(ばりぞうごん)の嵐だった。


やがてゴエモンらには縄が打たれ、そのまま役所に連行されていった。


蛍はとりあえず龍樹と自分の子らを連れ伊勢屋に向かった。


伊勢屋の2階には既に楓から急を聞いた隼人が駆け付けていた。楓も一緒だ。

五平も知らせを聞き上がってきた。


「恐れていたことが起こったな。」

隼人が口を開いた。


「恐れていた?」

楓が首を傾げた。


「この前の定例会で、ゴエモンという名前が不吉だという話題が出ていたのだ。」


「しかし、そんなもの賊が本名をなのるはずないだろうこと、考えればわかるだろう!」


蛍が静かに怒りの籠った言葉を吐き捨てた。


「秀吉は自らの沽券に関わるといって、誰でもいいから捕らえて処罰したいのだ。」

五平が静かにいう。


「そんな、父さんも、母さんも、虎太郎も久作さんも健太さんも何もしてないのに処刑されるんですか!?」

龍樹が涙ながらに叫んだ。


「そんな真似させねえぞ」


そう言いながら左輔が入ってきた。


席に着くや一同に向け

「百地党の総力を挙げて石川五右衛門を捕らえる。それしかゴエモン達を救う術はない。」


皆頷く。


「猶予はあまりないぞ。取り調べたところで何も出てこないことは、無実の罪で捕らえに来た役人どもや秀吉の手先が一番わかってるからな。間髪入れずに処刑して幕引きしたいに決まっている。」


龍樹と蛍の顔が蒼白になっている。

楓はそっと龍樹の手を握った。


「五平、隼人、集められるだけの百地の者を集めろ。急げ!」


左輔の普段見せない百地忍者頭領の厳しい顔。


五平と隼人は「オウッ!」と応じ散っていった。


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