25淡路島から帰って参りました
広瀬亜紀さんと、その家族との週末旅行から帰った龍さんたちは、久しぶりに我が家へ帰って来た。
「いや~、この古い家の匂いを嗅ぐと、人の営みを思い出すな~」
そういうと、龍さんはさっさと、玄関で靴を脱ぎ、すぐさまリビングへ行き荷物を広げた。
「茉奈、茉奈~、たくさんお見上げもらったから何から食うよ」
茉奈が、玄関でワガハイをキャリーバックから解放し「にゃにゃにゃにゃにゃ~」と、居心地の良い住処へワガハイとリビングへ入って来た。
「いきなり、亜紀さんからのお土産広げてる~」
龍さんは、
1北坂たまご「たまごまるごとプリン」
2お菓子処長手長栄堂「あわじオレンジスティック」
3鳴門千鳥本舗「玉ねぎせんべい」
4たこせんべいの里「多幸・たこのから揚げ」
をテーブルにいっせいに広げた。
「おお、これ、本物のたまごみたいじゃないか」
龍さんが、最初に手に取ったのは、「たまごまるごとプリン」だ。
スーパーで一個づつ小分けになっている白いたまごを、陶器の器へちょこんと乗せて包装している。スプーンの腹で殻をコンコンっと、割れ目を入れると、パカッと、黄色い黄身が顔を出す。それをパクっとほうばると濃厚なたまごが味わえる。そこへ、カラメルをかけると、甘さが広がって何とも言えず美味いのだ。
「ああ~あ、龍さん、二つ目開けちゃった」
お次は、「あわじオレンジスティック」だ。
淡路島にしかない希少種”鳴門オレンジ”の皮を砂糖漬けにし、ベルギーチョコレートでコーティングしたスティック菓子。サックっと齧ると、甘酸っぱいオレンジと、ベルギーチョコレートの舌触りが最高だ。これまた美味。
「おお、これも美味いぞ。お前も食うか」
と、龍さんは、ぴょこんと膝の上に乗って来たワガハイに食べさせようとする。
クンカクンカ……。
ペロッとワガハイがチョコを舐める。
「ダメよ、龍さんワガハイには毒なんだから」
「だいじょ~ぶだろ、ワガハイは下町育ちなんだから」
「龍さん、毒に下町も、山の手もないわよ。なんでも、猫には、チョコレートに含まれてるカフェインとかがダメなんだって」
「え?! カフェインがダメなのか」
「そうよ」
「え! え! オレはときどき、夜、原稿に煮詰まった時、ワガハイが遊びに来るから、コーヒーや緑茶を飲ませていたぜ」
「ダメよそういう、ことしちゃ、だから、時々、朝からワガハイが元気がない時があったのね」
龍さんは、ワガハイの脇を掴んで抱え上げ、鼻と鼻がくっつかんばかりに近づけて、
「おい、ワガハイ。それならそうと正直に言ってくれよ。だまって、オレに付き合うってそういうところ、お前古風だな」
それを聞いた茉奈がすかさず、
「古風だなじゃないわよ。ワガハイは喋れないんだから人間が気をつけないと」
「いやいやいや、こいつはちゃ~んと、人間の言葉を理解している。夜、オレの足元へ来てな、『にゃにゃにゃにゃにゃ~』と、オレに、腹が空いたからカリカリを準備しろって要求しに来るんだ。オレは、原稿に忙しいから、三十分後に、また来い。と、いうと、しっかり、三十分きっかりに来るんだ。さすが、食い意地のはった畜生は違うもんだと、感心してんだぜ」
「ワガハイは賢いからそれぐらいできるでしょう。でも、チョコレートやコーヒーや緑茶をあげるのは違うわ」
「いや、オレはてっきり、ワガハイは違いの分かるネコだと思ってたぜ。だって、こいつは、スタバのコーヒーは口にあわないようで、ペロっと一口したら顔を背ける。試しに、オレの好みのブルーマウンテンを舐めさすと、『ネコにも味の違いがわかるんだね』とっても美味しそうに飲むんだ」
「龍さん、わかったから、今度から、カフェインをワガハイにあげるのはやめてね寿命縮まっちゃうから」
龍さんは、また、ワガハイを抱えて、
「おまえ、グルメだもんな。オレと一緒で、健康を気にして嗜好品を控えるようなケチ臭い生き方してないよな」
「もう、龍さん。ワガハイは案外デリケートなんだから、そんな、大雑把に扱っちゃいけないの」
「そうか」
と、言うと、龍さんは、「玉ねぎせんべい」パリっと齧った。なんだコレ、たまねぎ独特の旨味がある。茉奈、お前も食ってみろ」
と、龍さんは、茉奈に、玉ねぎせんべいを渡した。
「ホントだ、これ、素朴で美味しい……ほら、だからって龍さん、ワガハイになんでもあげちゃダメだってば」
「ワガハイ、茉奈がダメだってさ。また夜に、コッソリあげるからな」
最後に、龍さんはタコせんべいに手をかけた。
「おお、これは、エビを練りこんでるのか、これはこれで、なかなかどうして美味めぇもんだ。ちょいと、茉奈さん、宇治茶を煎れてくれたまえ」
「え~、龍さん、最近は、八女茶か、知覧茶だったでしょう? また、好みが変わったの?」
「いや、こないだ、宮里くんから宇治茶をもらってな”銀座かずや”って、茶商の江戸廻りの高級宇治抹茶「青翠」ってのをもらったんだ。試しに煎れてくれたまえ」
茉奈が、キッチンへ立って、湯を沸かし、宇治抹茶を、点ててリビングへ入って来た。
「龍さん!」
茉奈が、リビングに入ると、先ほどまでの呑気な龍さんが一変して、青白い顔に脂汗を滲ませて、腹を押さえて、頭をテーブルに打ち伏して、蹲っていた。
つづく




