23亜紀のお父様、広瀬栄一
ご愛読の皆様、週刊連載を勝手に隔週連載へ行こいたしまして申し訳ございません。
出来うる限り、コツコツと連載させていただきますので、長い目で、どうかご愛読頂けましたら幸いです。
みなさま、これからも「猫と娘のために余命一年でできること」をよろしくお願いいたします。
「もしかするとキミが茶川龍太郎くんかい?」
グランシャリオ北斗七星135°のバルコニーで、たまたま出会った老紳士が、龍さんにそう尋ねた。
龍さんは素直に、
「ええ、私は茶川龍太郎ですが、どちらかでお会いしましたでしょうか? 」
老紳士は、口に咥えた煙草を、ポケットにしまっていた携帯用の灰皿で、丁寧にもみ消し、龍さんに向かって微笑みかけた。
「いいや、茶川さん、ワタシがあなたとお会いするのは、今日が初めてです。どうも、初めまして、ワタシがキミに会いたくてこちらへご招待した、広瀬亜紀の父、栄一です」
と、栄一はスッと龍さんへ手を差し出した。
「あいや、こちらこそ初めまして、シガナイ作家の茶川龍太郎です。よろしくお願いいたします」
龍さんも、慌てて、髪や、服のヨレを直して、握手を交わした。
「ははは、娘から、キミの噂は聞いていたが、娘が話したままの人柄だね。安心したよ」
龍さんは、バツワルそうに頭を掻いて、
「亜紀さんは、どんな風にワタシの事を? 」
「う~ん、そうだな。いつも自然体で、気さくな人柄だと話していたよ。ほかにも、祭りが好きなんだって?! 」
と、栄一は微笑みながら、少し意地悪な返事を返した。
「いや~、その節は、奥様に、大変叱られました」
「だろうな、アイツは生まれた時からの上流階級の芦屋育ちだから、型にはまったことしか受け付けないからな、茶川君、キミのように、まったく、枠を超えた人間に会うのは初めてだったのだろう。許してやってくれ」
と、栄一は、龍さんに頭を下げた。
「いいや、ワタシに謝罪なんて、必要ありません。あの日、ワタシは、奥様に叱られるだけの失態を確かに起こしていたんですから。どうぞ、頭をお上げください」
「そうかい、そう言ってもらえると助かるよ。アレはお嬢様育ちで、普通の暮らしには疎いところがある。あの日のキミのように、ホテルへ酔っぱらって、祭り半纏で現れるような豪快な人間には、さぞかし面食らっただろうよ」
龍さんは、申し訳なさそうに、頭を掻いて、
「申し訳ありません」
と、頭を下げた。
すると、栄一は、また、ポケットから煙草を出して、「もう一本やるか」と、差し出した。
「いいえ、ワタシは、もう」
「そうかい。それじゃ、ワタシはもう一本いただくよ」と、栄一は煙草をくわえて火をつけた。
フ~ッと、栄一が吐き出した煙草の煙が、バルコニーから広がるパノラマの星々の点と線をつないで、龍さんには、なんだか、プラネタリウムで投射する星座のように見えた。
龍さんが、星々と煙草の煙の星座へ想像をめぐらしていると、
ゴホゴホゴホ!
栄一が、苦しそうに咳き込んだ。
「大丈夫ですか?! 」
龍さんは、慌てて、栄一の背中をさすって介抱する。
「すまない。医者には止められているんだがね、なかなかやめられないのさ」
「悪いのですか」
「ああ、先は見えている余命一年だよ」
龍さんは、栄一の告白を聞いて「アッ! 」と、背筋の凍る思いがした。
龍さんは、自分も余命が決まってから、娘の茉奈のために出来ることを考えて、自分の死後、茉奈の支えになってくれる母に成りうる女性を探して、お見合いに臨んだ。おそらく、目の前にいる亜紀の父、栄一もまた、自分の余命の間に、娘のために出来ることを必死で考えて、本来なら不釣り合いな見合い相手の龍さんに会うことを承諾したにちがいない。
(この事実を知っていれば、オレはここへは来るべき人間ではなかったのに……)
栄一を、介抱しながら、龍さんが後悔していると、
コクーンの方から、亜紀がやってきて、
「お父さん、ここにいた。会社の方からお電話です」
と、携帯電話を栄一に渡した。
「ちょっと、席を離れるよ、茶川君、また、後ほど」
と、栄一は、龍さんに、会釈して、バルコニーを離れた。
残された龍さんは、残った亜紀と二人になった。
亜紀が、龍さんと栄一がどんなことを話したかうかがうように、
「父の印象はどうです? 」
と、尋ねた。
龍さんは、素直に、
「誠実な人です、お父様は」
「ありがとうございます。ワタシは子供の頃から父には甘やかされて育ちました。忙しい父親ですが、尊敬しています」
「少し、話しましたが、お父様は、少しご加減が? 」
「はい、ワタシには詳しく話しませんが、だいぶ悪いようです」
「そうですか……」
「父は、なにか話しましたか? 」
「いいえ、病気のことは何も、ただ、亜紀さん。あなたの事を愛していると、お父様はおっしゃっていましたよ」
「そんなことを?! 」
「ええ、お父様は、亜紀さんを大事に思っていますよ」
と、そこへ、ホテルのウェイターがやって来た。
「広瀬様、お取込み中、失礼いたします。お食事のご用意が出来ましたので、いかがいたしましょうか? こちらへ、お運びしたしましょうか? 」
「いいえ、コクーンの方へ伺います。料理はそちらへお願い致します」
と、亜紀は、ウェイターに答えた。
コクーンへの道すがら、並んで歩く亜紀に、龍さんは、恐る恐る尋ねた。
「亜紀さん、あなたなら、ワタシのようなうだつの上がらない甲斐性ナシの中年作家じゃなくても、将来有望な、お父様の会社の幹部候補生との見合いなど、相手はいくらでもいらっしゃるでしょう」
「はい。父に、頼めば確かに、そのような話も出来るかも知れません。しかし、そうすれば、茶川さんのように、誰にも負けない自分の世界を持っていて、心のあたたかい人には会えません」
「いいや、ワタシの世界なんて、たかが知れていますよ」
「いいえ、ワタシは茶川さんの、作品を知って、世の中、お金じゃない! って、知りました」
「亜紀さん、ワタシは確かに小説では、キレイごとを書いて、そのようなことを書いたやも知れませんが、先立つものはお金だと思いますよ」
「お金は、大丈夫、心配ありません。家には会社があります。ワタシはただ、父と、母のような冷え切った関係の夫婦にはなりたくないのです」
「しかし、ワタシだって、お酒に弱いし、資料の本を買うために生活費に手を出しますし、貧乏だから誕生日にだってプレゼントをできないこともある。いや、ワタシはろくでなしだから、誕生日事態を忘れてしまうかもしれない。夫婦になれば、他に、どんな粗が顔を出すかわかりませんよ」
「いいえ、茶川さん。それは、すべて愛すべき欠点です」
「そんなもんでしょうか? 」
「はい、そんなものです」
と、龍さんは、困ってしまって、頭を掻いた。
つづく
久しぶりの掲載いかがでしたでしょうか?
できましたら、「作者、がんばれ! 」「作者、つづき、はよ」もしくは、「作者、ワタシに連載代われ! 」など、一言で結構です。もちろん、匿名、その場限りのペンネーム、なんでも構いませんので、応援の感想、メッセージなどいただけたら励みになります。どうか、よろしくお願いいたします。
それでは、また、次回の更新でお会い致しましょう。
ありがとうございました。




