22星が煌めく夜だから
瀬戸内海を挟んで、神戸垂水と淡路島をつなぐ架け橋明石大橋を渡ると、最初の淡路インターチェンジのロータリーを回ると、県立淡路島公園が広がる。
走っても走っても、森の木に届かない五〇〇〇〇m2の大きな芝生広場。
山の傾斜に沿って石段を作り、その脇を水流を打ち下ろす小川。その頂に、全身水浸しになっても構わない浅い池、水遊び広場。
同じく山の斜面に茂森の木の先程の高さから、一気に、滑り降りる急流スライダー(ローラー滑り台)。
たくさんの桜が植えられた県民の森(これは季節が秋だから今は見れない)
一五〇〇m2の敷地に広がるキンモクセイや、ラベンダーを植えたミニハーブ園。
さらにその先を車で2分ほど走ると、人気忍者アニメ「ナ〇ト」の忍び里と、同じく人気アニメ嵐の幼稚園児のエリアが広がる。
森を走るハイヤーの窓から、茉奈が忍者の里を指差して、
「龍さん、見て! アメリカの大統領みたいな人面岩があるわ」
「なに?! あれは、忍者アニメの歴代の忍びの偉い人の顔だ。おお、オレの好きな黄色い閃光、四代目もあるよ感激~」
こんどは、茉奈が反対方向を指差して、興奮気味に、
「ああ~、クレヨンし〇ちゃんだ~! 」
すると、龍さんが打ち消すように、
「びっくり、するところが違うんじゃないか茉奈くん。ここは、『ナ〇トで』しょう」
「いいや、龍さん、普通は国民的アニメの『クレヨンし〇ちゃん』でしょう」
「いやいや、茉奈くん。キミは『ナ〇ト』の凄さをわかってないから簡単に説明すると、世界累計一億部を超える漫画だぞ」
「それが、どうしたの、ボーダーラインの売り上げしかない龍さんの一万部のたかが一万倍じゃない。たいしたことないわ。それにくらべて『クレヨンし〇ちゃん』は、家族の絆のドラマよ」
ハイヤーの扉に手を突いて、急に、元気を失った龍さんがブツブツと、
「ど~せ、オレはボーダーラインやっとの販売数しかないライトノベルの人気ない作家ですよ。まだ、アニメ化もないし……(ブツブツブツ……)」
「ごめんなさい龍さん、ワタシ、別にそんなつもりで言った訳じゃないの」
「いや、いいのさ。事実は事実だし、真摯に現実を受け入れるよ。あはは……あはは……」
二人の会話を、バックミラーで見守っていたハイヤーの運転手が、
「茶川先生、そろそろ、グランシャリオ北斗七星135°へ着きますよ」
グランシャリオ北斗七星135°は、たくさんのコクーン(繭)が軒を連ねる里である。
家族ごとに、一軒家へ案内される。内装は、高い天井のコクーンで、屋根の頂点ががぶち抜かれ天然のプラネタリウムになっている。
ヒノキの香りも爽やかに来客を出迎えるやすらぎと、癒しのホテルである。
ニジゲンノモリ園内のゲートフロントから、カートでチェックインだ。
特別な客として、食事は、星空BAR135°へ案内された。
淡路島の満点な星空と、ライトアップされた木立の傘に囲まれたディナーテーブル。そこへ、チェックインと同時に、ウェルカムブリュレが運ばれてくる。
柚子と本みりん和三盆糖と淡路島北坂たまごを用いた味な逸品だ。
運ばれてきたブリュレを一口、口に運んだ龍さんは、
「なんだこれ、プリンじゃね~か」
茉奈が、龍さんの膝を叩いて、
「龍さん、そんな、言い方しちゃだめよ。こういうところでは、言葉に気をつけないと」
「だってよ、ブリュレとか、訳のわからねぇ~小洒落た言い方するから、どんだけ、めでてぇ~もんを食わせてもらえるかと思ったら、ただのプリンじゃねぇ~か、がっかりだよ」
と、根っからの下町、尼崎気質の龍さんが食べなれないブリュレに訳のわからない因縁をつけていると、向こうから、広瀬亜紀さんが、御母堂様を伴って現れた。
「こんばんわ茶川さん、茉奈ちゃん、ワガハイちゃん」
亜紀が、茉奈の背負ったペットゲージから顔を覗かせるワガハイに指を近づけると、ワガハイはクンクと鼻をちかづけ匂いを嗅ぐ。
「こないだはありがとうね。物書き先生」
御母堂様が、棘のある響きで、龍さんに挨拶する。
「いや~、こないだは、いや~、お恥ずかしい限りで……」
と、龍さんは頭を掻いた。
簡単な挨拶をすませた二つの家族は、ともにテーブルを囲んだ。
龍さんには手厳しい御母堂様も、大人に囲まれて育ったせいか、要領がいい茉奈とは話がはずんでいる。
(おいおい、オレだけ除け者かよ……)
龍さんは、手洗いへ立つフリして、少し歩いて、星の見える丘へ登った。
すると、そこには、白髪の老紳士の先客がタバコを吹かしていた。
「こんばんは、綺麗な星ですね」
「ああ、ここの星は綺麗だね。キミも一服どうだい? 」
と、老紳士はタバコをススメて来た。
(これは?! ……チャンセラーのトレジャラー・ブラックじゃないか……)
老紳士のススメたタバコは英国・ロンドンへ拠点を構える世界一高いタバコとして有名な一本だ。金色の箱に入った一本を、老紳士は龍さんへ向けて差し出した。
龍さんは、愛煙家ではないが、トレジャラー・ブラックに興味があったので、老紳士から受け取った。
龍さんは、まず、タバコの匂いを嗅いだ。
(なんだこのタバコ癖がない)
老紳士はポケットから、白金のマッチケースを取り出すと、マッチを一本擦って龍さんのタバコへ火をつけた。
龍さんは、タバコ初心者ヨロシク、煙を肺一杯に吸い込み、ゴホゴホゴホと咳き込んだ。
「なんだい、キミは普段やらないのかい? 」
龍さんは、人懐っこく笑って、
「そのようです」
と、他人事のように答えた。
すると、老紳士は、すべてを飲み込んだように、
「ああ、キミかい?! キミが茶川龍太郎君かい」
つづく




