21北淡への旅~お迎えに上がりました
「茶川さん、金曜から日曜まで三日間、茉奈さんが学校から戻られましたら、ご一緒に、淡路島へ行きませんか? 」
と、見合い相手のご令嬢、広瀬亜紀さんが、龍さんと茉奈を誘った。
(淡路島か、師匠に弟子についてる頃、小説の新人賞もらった時お祝いで連れて行ってもらった以来だな、そういや、源平のステーキ旨かったな)
と、龍さんが、美味しい思い出を回想していると、亜紀の提案に、チャランポランの龍さんの代わりに茉奈が冷静に答えた。
「ごめんなさい亜紀さん、家にはワガハイが居るから、三日も家を空けてはいけないわ」
「そうだな、家には畜生殿が居ったな。いっそ、この際、保健所へ連れて行くか」
龍さんは、軽いブラックユーモアであったが、茉奈も亜紀も、毒が強すぎて笑わなかった。決して、娘の茉奈も、令嬢育ちの亜紀もユーモアが分からないわけではない。いわゆる、
「こいつ、かわいくて、悪意がこれっポッチもないワガハイにいきなりなんちゅうこと言うねん!!! 」
的に、人でなし発言の龍さんに反感を持ったのだ。
すぐさま茉奈が、ソソソと龍さんの側へ寄って、サッと、スリッパを片足脱いで、スコンッ! と頭をクリティカルヒットしておいた。
しばしの静寂――。(NOW LOADING……)
「あ! それだったら、ワガハイも一緒に連れて行けばどうでしょう? 」
亜紀の提案にめずらしく龍さんが、
「犬は良くても、猫は柱で爪を研いだり粗相して宿に迷惑をかけたりしたら、取り返しがつかないですよ」
まともな事を言った。
「それだったら、一度、ホテルへ確認してみます」
と、亜紀はスマホを取り出し、いきなり、電話した。
「問題ないそうです。猫さんもどうぞお連れ下さいとということです」
(へ~、最近のホテルは、そんなに簡単にペット同伴もOKしちゃうんだ。時代がかわったな……)
――そして、金曜日の夕方、
活気を失ったシャッターの閉まった店もチラホラの尼崎の下町三和商店街のアーケードの入り口にある、ジュッと、鉄板で焼かれた、甘酸っぱいウースターソースの湯気上がるホルモン焼き「鹿児島屋」(焼き肉ではなく、牛の腸などの内臓、いわゆる”捨てる部位”を大阪弁で『ホル(捨てるの意)モン(物の意)』)の店先に黒塗りのハイヤーが止まっている。
と、そこへ、スーツにネクタイ、手には白い手袋をはめたキャーリバックを引っ張った運転手に案内されて龍さんと茉奈がやって来た。
「ちょいと、そこまで」
近所に買い物にでも行くような装いの龍さんが、少~し、小奇麗にした師匠譲りのパナマハットに、白いシャツと、ピンクのジーンズの半ズボンに、黒のサンダル。
茉奈は、髪を後ろでキリっと紺のシュシュでポニーテールに束ね、シルエットとカティングが印象的なデニムのシャツを一巻き、二巻き、腕を巻き上げて、内には真っ白なTシャツ。パンツはシックにブラックのスカート、そこから、スラリと伸びた生足に同じブラックスニーカーでオシャレで在りながらも清楚に決めている。
そして、背中に、ワガハイがヒョッコリ顔を見せる宇宙飛行士のヘルメットのような覗き窓のついたペットキャリーポッド。
ラフな龍さんと茉奈が案内された車はハイヤーに、
「あ”あ”あ”」
と、ちびまる子ちゃんのまる子が、予想外の思わぬ出来事に、巻き込まれてしまった時の、目元に斜線///が三本入った。
(先が思いやられる……)
尼崎末広ジャンクションから、神戸へ向かう高速湾岸線へ入った龍さんたちを乗せたハイヤーの旅は快適であった。
まず、後部座席に乗った龍さんと茉奈は、ムチっと反発力と吸収力が絶妙な座席にその身を吸い込まれて、ウハッとした。
二人を挟む肘置きは、新幹線の自由席なんかで見かける右なら右だけ、左なら左だけのような、ケチなものではない。
右も左も、ムチっとムハッと皮張りの肘置き、ヒョコリ、膝下から先も伸ばせる足置きまであるのだ。
さらに、目の前の運転席、助手席の頭にはモニターが埋め込まれている。真ん中の肘置きに仕込まれた冷蔵庫からお好きなドリンクをいただきながら、好きな映画やテレビを見ながらの快適なクルージングを楽しむのだ。
(芦屋のホントのお金持ちとはこういうものか……)
やがて、ハイヤーは神戸を抜け須磨の海沿いの海岸線へ出た。
「あッ! 明石大橋だ! ホントにおっきい」
茉奈が感嘆の声をあげた。
「ここ垂水を上がって、明石大橋を渡ると、ホテルはスグでございますからね」
「と言うと宿は、明石海峡を望む岩谷温泉になりますかな? 」
龍さんが、昔、懐かしの思い出の地を頭に描いた。
すると、運転手が、
「さようにございます。以前は、岩谷温泉と申しましたが、最近は、そこらも再開発されて、なんとか申す忍者の漫画とコラボレーションした二ニジゲンモリと言う、施設に生まれ変わっております。ものの二十年の間に北淡(北淡路島)も大分かわったものですよ」
「ニジゲンノモリか、それじゃあ、お宿は、岩谷温泉淡海荘ではなさそうですな。行き先は何というホテルですな? 」
「ワタシも詳しくは分かりませんが名前は、グランシャリオ北斗七星135°と言うようです」
つづく




