19ダメダメな龍さん
「ウッ! なんだか胸が苦しい。まるで、胸になにか重たい石ででも乗っかっているように苦しい」
昨夜、広瀬亜紀さんとの席で、散々、酔ぱらって帰った龍さんは、ようやく帰って来たまでは覚えているがその後の記憶がない。
どういうことだ、この胸の苦しさは、オレのガンはすでに肺にまで転移しているのか……。
ゴロゴロゴロ……。
ユッサユッサ、ヒュン!
ゴロゴロゴロ……。
「なんだ、この聞き覚えのある声は、ウっ、苦しい息ができない!!」
と、龍さんは飛び起きた。
すると、ピョコンと、ワガハイ様が、龍さんの胸から飛び下りて逃げてった。
「ワガハイ、あいつオレを殺す気かもしれない……」
「龍さ~ん。起きた~? 朝ごはん食べるでしょう? 」
龍さんを殺し損ねたワガハイを確認した娘の茉奈が、食卓から声を掛けた。
――食卓。
頭を抑えながら龍さんが食卓へ顔をだすと、茉奈が「はい、お水! 」と、差し出した。
水を受け取った龍さんは、グッと飲み干すと、
「茉奈、昨日、オレがどうやって帰って来たかおぼえてるか?」
茉奈は、いたずらっぽく微笑みを浮かべて、
「わっしょい! だんじりのみなさんに、わっしょい!わっしょい! 担がれて帰って来たわ。なんでも、商店街で行き倒れだったんだって」
「そうか、じゃあ、緑子叔母さんは、何にも言ってないんだな? 」
茉奈は首を振って、
「うううん。緑子叔母さんは、さっき、電話があって、怒ってた。龍さんが起き来たら必ず電話するように伝えてって」
龍さんは、頭を抱えて、
「あちゃ~やってもうた~~」
茉奈は笑って、
「いいじゃない龍さん、ありのままを見せられて、龍さんは龍さんだものいいじゃない」
「でもな、おとなには世間体ってものがあってだな……」
「プププ……。それでこそ龍さんだ。だらしないのもおとなの証だ。気にするな! では、ワタシは部活があるのでここでサラバだ。くれぐれも、緑子叔母さんへの連絡と、ワガハイにカリカリあげるの忘れぬように」
と、茉奈は、カバンを担いで出て行った。
ドカッと、イスに座った龍さんは、二日酔いで頭が痛い。その上、緑子叔母さんのお説教を聞かされる思うと憂鬱だ。
にゃ!
すると、そんな、龍さんの足元へワガハイだ体をぶつけてカリカリのおねだりだ。
龍さんは、ワガハイを抱き起し、顔と顔を近づけた。
「おい、ワガハイ。お前、さっき、オレを殺す気だっただろう?」
ワガハイは悪びれもせず、龍さんの顔をキラキラした愛くるしいどんぐり眼で見つめている。その心には一転のやましさもない。
「ワガハイ、オレは茉奈と違って、お前のその目には騙されんぞ」
ワガハイは、”人”のお口からペロッと舌を出して、龍さんの追及をスルーだ。
「ワガハイ、オレは甘くないぞ。茉奈が出て行ったからには、お前の朝食のカリカリを与えるか与えないかは、このオレの胸先三寸だ。フフフ……フハハハハハ~~~」
もう、龍さん、ベタな悪者だ。
ピロリン!
龍さんのスマホにラインが入った。
「こんな朝からいったい誰だ……?! 広瀬亜紀!! 」
”茶川さん、おはようございます。昨日は、楽しいお食事ありがとうございます。
昨日の今日で、不躾ですが、関西にいる間に出来ましたら、もう一度、お目にかかりたいのですが、午後からなどいかがでしょうか?”
と、広瀬亜紀さんからラインが入った。
「午後からか、う~ん、昨日の酒が残ってて頭が重いから断ろうかな……」
と、龍さんが、無礼な考えを巡らせていると、リンリンリンと、家電話が鳴った。
「今日は、朝から煩いや」
龍さんは、受話器を持ち上げると、あろうことか、そのままガシャンと切ってしまった。
リンリンリン!
しかし、すぐさま、家電話がけたたましく鳴る。
「しつこいな」
龍さんは、再び、受話器を持ち上げたかとおもうと、すぐさま切った。
リンリンリン!
「もう、しつこい! いったい誰だ!!」
たまりかねた龍さんは、受話器から電話回線のポッチを外した。
「よし、静かになった。これで心置きなく寝られる」
と、龍さんが部屋へ帰ってベットに横になり「さあ、寝るか」と、ゴロンとブラインドから射し込む太陽に背を向けると、
リンリンリン!
また、電話が鳴った。
「誰だよまったく!」
”緑子叔母さん”
「なんだ、やっぱり緑子叔母さんか……ブロック!」
失礼な龍さんは、緑子叔母さんのライン電話をブロックしてそのまま寝てしまった……。
……どれぐらい、龍さんは眠っただろうか、ブラインドから射し込む光は赤く染まっている。
「ふわ~、良く寝た」
すっかり、二日酔いも覚めた龍さんは、頭の痛みも消えて、心なしか気分もスッキリしている。
「水でも飲むかと、廊下へ出ると、一階の食堂から、醤油と味醂の甘辛い何とも言えない食欲をそそるニオイが鼻腔をくすぐった。
「おお、茉奈のやつ、早く帰ったんだな。晩御飯は、煮物か、たまにむしょうに食べたくなるんだよな」
トントントン! と軽い足取りで階段を下りる龍さんは、なんだか気分も最高、身体も軽い。
「茉奈、今夜は煮物か、昨日、片意地の張ったアワビやら神戸牛を食わされたものだから、今、オレは庶民的な煮物が最高に食いたかったんだ」
と、龍さんが、食堂の暖簾を潜ると、キッチンに娘の茉奈と並んで、見覚えのある女性が料理していた。
つづく




